ヴァーゲンブルク

 それにしても最近アワーズの最後に載っている漫画が、まるで私の頭の中を覗いているかのような展開になっている。黒色火薬作りに続いて今度はヴァーゲンブルクが登場。野戦における本格的な火器の使用としては最も古い例に当たるフス戦争で使われた戦術だけに「黒色火薬を作ったら次はこれかな」などと考えていたのだが、これまた漫画に登場してしまった。
 とはいえ馬車を使って宿営地を取り囲み、野戦陣地を築くという方法は別にジシュカのオリジナルではない。というか遡れば紀元前まで至るんだそうだ。それも場所は中国。前漢の衛青が匈奴との戦い(漠北の戦い)で使った事例があるらしい。実際、漢書衛青霍去病伝を見てみると「於是青令武剛車自環為営」という文言が見える"http://kindai.da.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/774644/9"。武剛車と呼ばれた重武装の馬車を使って宿営地を取り囲んだわけで、確かにこれはヴァーゲンブルクだ。
 欧州でもローマ帝国末期である4世紀に書かれた本には既にヴァーゲンブルクが登場している。アンミアヌス・マルケリヌスが記した文章の中に、ゴート人が「彼らが呼ぶところの馬車野営地」を築いていた様子が描かれている。こちら"http://www.archive.org/details/romanhistoryamm01marcgoog"のp596で英訳文を確認することができる。
 欧州では中世になってもこの方法は広く使われたらしい。残念ながら何がソースなのかは分からなかったが、wikipediaによればモンゴルとの戦争においてキエフ大公国(カルカ河畔の戦い)やハンガリー王国(モヒの戦い)がヴァーゲンブルクを使用したそうだ。こちら"http://books.google.com/books?id=UGfHSCQnYewC"のp15には英国がクレシーの戦いで宿営地を守るためヴァーゲンブルクを使ったとの記述がある。
 フス戦争における使用例を記した人物としてエニア・シルヴィオ・ピッコロミニ(後の教皇ピウス2世)がいたらしいということは既に書いている。残念ながら彼の記した本はラテン語なので私には解読不可能だが、それをドイツ語に翻訳したものを収録した本"http://books.google.co.jp/books?id=EolOc5cbw10C"はある。同書のp194-196、212、231、243などに見られるのがヴァーゲンプルクwagenpurgという単語。おそらくこれがヴァーゲンブルクのことだろう。
 漫画ではまだ黒色火薬が使えない状態。つまりそこでやろうとしているのはジシュカより前のヴァーゲンブルクだろう。ただ、既に建物がある村の中で敢えてヴァーゲンブルクを築こうとする狙いは不明。東欧のように平野部が多く、人口密度が薄い(集落が少ない)ところでは機動力と防衛力を兼ね備えたヴァーゲンブルクを使う意味はあると思うが、既に集落があるのならわざわざヴァーゲンブルクを作らなくても建物に立てこもった方が守りやすいように思える。
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