ア式蹴球・その3

 タコが8連勝し、ニュージーランドが「唯一の無敗チーム」という栄冠を手に入れて今年のW杯も終了した。全64試合分のデータも出揃ったところで、個別試合データ"http://www.fifa.com/worldcup/organisation/documents/index.html"も活用しつつ改めてスタッツをまとめてみよう。
 その前にFIFAがまとめているチームスタッツ"http://www.fifa.com/worldcup/statistics/teams/index.html"について一言。いくつかのチームで個別試合の数値を足し合わせたものとFIFAのまとめの数字が違っているんだが、なぜだ。もちろん私の計算間違いの可能性もあるんだが、改めて検算してもどうしても数値が合わない例もある。パス関連の数字などは延長分を勝手に修正しているように見えるし、何とも意味不明な数字があちこちに。
 とはいえ一応公式サイトに載っている数字なんだから敬意を払っておいた方がいいだろう。以下、チームスタッツのページに数字があるものはその数字を、ないものは自分で計算した数字をもとに検討する。なお、以下に出てくる数値は全て1試合平均に基づいている。
 
 最終的に相関性が高いのは、勝ち点と得失点差(.752)や、得点とPA内からの枠内シュート数(.692)であったのはこれまでと変わらず。さらに枠内シュート数と得点(.645)のようなシュートの質を問う指標がその後に続き、それからポゼッション関連の指標であるミドルパス数と得点(.527)が姿を見せるのもこれまでの分析と同じだ。
 個別試合ごとのデータ分析により、相手チームと失点との相関もある程度調べられた。最も相関が高いのはやっぱり枠内シュート。被枠内シュート数と失点の相関は.709だ。ただし、シュート関連以外で失点との相関が高い指標はほとんど皆無。自チームのミドルパス数と得点の間には緩やかな相関があったが、相手チームのミドルパス数と失点はほぼ無関係(.100)。味方のポゼッションは得点期待を高めるが、相手のポゼッションは失点の懸念をあまり増やさないようだ。
 いずれにせよ大事なのはシュートだ。そこで、自チームの枠内シュート数から相手チームの枠内シュート数を引いた数字を勝ち点と比較してみると、相関性は.712まで上昇。強い相関が見受けられた。どうやらゲームの勝敗には枠内シュート(敵味方両方の)が深くかかわっているらしい、というか数字を額面通りに受け取るなら枠内シュートだけで勝ち点の半分は説明できてしまうことになる。
 もちろん、ポゼッションが無意味という訳ではない。相関性の高いミドルパスのデータを加工して(具体的には50で割って)追加すると、相関性が.723まで上昇するのだ。え、ほとんど誤差の範囲じゃないかって? それは言わぬが花ってことで。
 さらに相関性を高める方法がある。この大会は全チームの総当りによるリーグ戦ではない。つまり組み合わせによってスケジュールが楽なところと厳しいところがあったのである。なのに結果の数字を一律横並べで比較するのは不平等だろう。というわけで各チームのデータを偏差値化したうえでスケジュールの厳しさにあわせた補正をかけた。するとあら不思議、相関性はついに.760まで上昇したではないか。得失点差よりも高い相関性を示したのである。
 どうやらこの補正偏差値が各チームの実力を測る適当な方法のようだ。もちろん「今大会に限り」「試合結果から実力を見るという手法の次に」という条件付きだし、なおかつ「母数が小さいので信頼性は高くない」ことも確かではあるが、こうしたランキングも面白いだろう。以下にそれぞれのチームの補正偏差値を記す。国名はFIFAサイトの略称を使った。
 
ESP 67.3
GER 64.3
ARG 64.1
BRA 61.3
ENG 60.1
NED 59.8
CHI 58.1
MEX 57.6
PAR 57.6
ITA 56.6
URU 56.2
POR 55.4
GHA 55.4
RSA 53.8
CIV 53.3
USA 53.0
JPN 52.1
SRB 51.0
CMR 50.9
SVN 49.5
KOR 48.1
FRA 48.0
AUS 47.1
DEN 46.0
SVK 45.9
SUI 44.6
GRE 42.3
ALG 41.6
HON 39.9
NZL 38.9
NGR 35.4
PRK 27.3
 
 優勝したスペインが1位、事実上の決勝といわれた戦いでそのスペインに敗北したドイツが2位だ。決勝トーナメント16試合のうちこの順番通りに決着しなかったのは準決勝のオランダ―ブラジル戦だけだし、各グループの上位2チーム以外で決勝に進んだのはFグループのスロヴァキアしかない。大体妥当な結果と言えるだろう。ちなみに日本は見ての通り17位。ほぼ真ん中だった。
 
 あと、調べていて気になったことをいくつか書いておこう。もちろん私は数字は調べたが試合はろくに見ていないので、的外れなことを書く可能性は極めて高い。
 ネット上では今回の大会を経て「日本はポゼッションを目指すべきか、堅守速攻を目指すべきか」といった議論が出ているようだが、得点との相関性が緩く、失点との相関性は弱いポゼッションにこだわる人がなぜこれだけ多いのかよく理解できない。勝ち負けを考えるならそれよりも「いかに枠内にたくさんシュートを打つか」「相手に枠内シュートを打たせないか」の議論をした方がよほど実のある話ができそうに思えるんだけど。
 日本の枠内シュート率はトップクラスだった。つまり今大会は日本が有効なシュートを効率よく放った大会ということになるんだが、そのことを喜ぶ声がほとんど見当たらないのがまた不思議だ。大前提として日本人はシュートが下手ということに決まっているようで、そうでないデータを見てもなぜか評価しない。今後どうするかの議論でも、シュート下手を前提に話を進めているような感じを受ける。数字だけ見ていると日本が決勝に出られたのはとにもかくにも枠内シュート率が高かったからとしか考えられないのに。
 走行距離や、どの位置でプレスをかけるかといった、これまたサッカー業界関連でよく見かける話も、データを見る限り得点や失点との相関は薄い。このあたり、専門家はどこまで分析しているのだろうか。Jリーグでもデータ分析みたいなことを有料でやっている人たちがいるようなんだが、そういう人たちはクライアントから「で、そのデータに何の意味があんの」と聞かれた時にどう説明しているんだろう。データをどう加工すれば高い相関性を導きだせるのか、そのあたりを知りたい。
 しかし何より気になるのは失点と相関性の高いディフェンス指標が見当たらないことだ。確かに被枠内シュート数は相関性が高いし、逆にいえば相手に枠内シュートを打たせないことが効果的ディフェンスということになるんだろうが、被枠内シュートと強い相関を持つディフェンス関連の指標がセーブ以外に見当たらないし、そもそもセーブ数は枠内シュートを沢山打たれた結果として増えているだけだろう。ディフェンスがどういうことをすれば失点を防ぐ可能性が増すのか、それをもっとイメージできるような指標があればいいのだが。
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コメント

No title

rot*on*li*ht
日本は枠内シュート率が高いというよりも、絶対枠内へ打てる状態でないとシュートを打たない人が多いので、結果的にゴール前でやたらと団子になってゴールが決まらないのです。
なので某掲示板などではポゼッションを高めて相手を散らばらせる、引いて守ることで相手ディフェンダーを固まらせないといった処方箋が出てくるわけです。
本来はもっとはずれでもいいからシュートを打てが正解だと思うのですが。
失点と相関関係が高そうなディフェエンス指標として経験から思いつくのはロングパスを決められた回数と、ペナルティーエリア内でのボールロストぐらいでしょうか。もともとサッカーは総得点が低いためどうしても各プレーに比べて得点との相関は低くなる傾向にあるのでそこも加味すべきかと思われます。(個人的には5割超えれば十分かと)

No title

rot*on*li*ht
ちょっと修正
ゴールが決まらないのです→シュートすら打てない。
こっちのほうがより正確かもしれません。

No title

desaixjp
ご説明ありがとうございます。どんな議論がなされているかは大体分かりましたが、前提として日本はシュートに消極的と見られているようですね。確かに1試合平均で見ると日本のシュート本数は32チーム中26位タイ。消極的に思えるかもしれません。でも、ボール保持時間1分当たりの数字を出すと実は0.396本と32チーム平均(0.395)とほぼ同水準です。ドイツ(0.391)やオランダ(0.374)より多いくらいなんですけどね。
もちろんさらに枠内シュートを高めるべきとの意見はあるでしょうし、その方法としてポゼッションか引きこもりかという議論はできるでしょう。できれば「引きこもれば何割くらいシュートが増える」「いやポゼッションを増やした方がシュートがこれだけ増える」という風に定量的に話してほしいところですが。

No title

desaixjp
もう一つ、上の数値はFIFAがまとめたスタッツに基づいていますが、私が手計算でまとめた各試合別数値の合計で見ると日本の1分当たりシュート数は0.362と平均(0.392)を下回り、全体の順位も25位まで下がります。むしろこちらの方が世間一般のイメージとはあっているかもしれません。
失点との相関関係ですが、ロングパスを決められた数は.149にとどまりました。ほぼ無関係といってよさそうです。PA内でのボールロストについてはそうした数字がないので分析は無理です。なかなか

No title

sleep
サッカーというスポーツは点数が恐ろしく入りにくい仕組みなんですね、イタリアのカテナチオに限らずどこの国でも堅守速攻が基本です。正直、日本がシュートに消極的と言えるかは疑問が残る点で、そもそも何をもって積極的と言うのか、すら定義されていないのが現況でしょう。だいたい得点力不足と言ったって、じゃあ世界中のどこのチームが得点力が十分と言えるのか。

個人的には今回の大会でかなり日本の目指す道がはっきりしたと思います。小柄な選手たちが多いことによる運動量と加速力を生かしたサッカーでしょう。逆にロングボールで長い距離を攻められた時にはサイドバックと後ろの三人のMFで常に数的優位を維持することで、夏の北半球の大会でこれができるかが課題になるでしょうね。

No title

desaixjp
守備を第一に考えるのはオーソドックスなやり方なんでしょうが、では具体的にどんな取り組みをすれば守備が向上する(失点が減る)のか分からない点が今回の分析の弱点です。ただ、数字を見ていて分かることとして、「少なくとも枠内シュートを見る限り日本はそんなに堅守ではなかった」というものがあります。
日本の1試合当たり被枠内シュート数は5.08と全体平均(5.38)よりは少なかったのですが、これは北朝鮮(12.67)が1チームで平均を思いっきり引き上げているためです。順位で見ると日本は17位タイ、つまり下半分に所属しています。もちろん、前回06年大会時の10.67から比べれば大幅な成績向上ではありますが。
もっとも、もしかしたらサッカーの世界には私が知らないだけで「枠内シュートされても失点にはつなげさせない技術」があり、日本はその技術に長けていたのかもしれません。枠内シュートのうち失点につながった確率は9.1%と32チーム中3位でしたから。もし本当にそんな技術があるのなら是非とも教えてほしいところですけど。
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