ア式蹴球・その2

 前回書いたサッカー関連の相関性だが、新たな指標と準決勝の試合データを取り込んでアップデートしてみた。まず取り入れたのがPossession、つまり「ボール支配率」だ。各チームごとに1試合平均支配率(延長補正済み)を算出した。例えば支配率が最も高いスペインは58.2%、日本は42.2%となる。
 次にShots in Penalty AreaとShots outside Penalty Areaも算出した。なぜかFIFAのサイトを見てもチーム成績には載っていないが、個人成績の欄にはきちんと入っている。チーム別にまとめて算出しなおすのが激しく面倒だったが、どうにか計算してみた。また、このデータの存在によってShots on Goal from Penalty Areaが「ペナルティーエリア(PA)内からの枠内シュート」であることも判明。そりゃ相関性が高いわけだ。
 
 さて、準決勝2試合を入れた結果、全体的に相関性は低下。これまで.4を超えて一応緩やかな相関性はあると見られていた「シュート数」や「右サイドからの攻撃」、「ロングパス成功率」などが軒並み.4を割り込んだし、.7を超えていた「PA内からの枠内シュート」も.692まで下がった。激しい競り合いの結果、最低得点で終わったドイツ―スペイン戦が影響したのかもしれない。
 それでもなお得点との相関性トップの地位は「PA内からの枠内シュート」が保持している。それに次ぐのが「枠内シュート」(.649)、「枠内シュート率」(.561)、「ミドルパス数」(.524)「PA内からのシュート」(.498)など。新たに投入した「ボール支配率」は.449だった。要するに引き続き質のいいシュート関連の指標が上位に来ており、それに次いでボール支配率に関連する指標の相関性が高くなっている。「ドリブル」は.428だった。
 逆に相関性の低いデータとしては「被タックル数」(-.109)や「被タックルボール喪失数」(.069)、「オフサイド数」(-.192)、「クリアパス成功数」(.003)、「イエローカード数」(-.132)、「2枚目イエローカード数」(-.186)、「レッドカード数」(-.029)、「被ファール数」(.141)「クロス数」(.144)、「スローイン数」(-.027)、「ショートパス成功率」(.082)「ロングパス数」(-.152)、「ロングパス成功数」(.144)、「走行距離」(.078)などがある。ネットなどでしばしば「日本は1試合平均被ファール数が最多」「走行距離もトップクラス(米国の次に長い)」などと褒める記述が見つかるが、別に褒めるに値するデータではないだろう(けなす必要もないが)。
 タックル関連やクロス関連の相関性が低いのは4年前にも確認していたことだが、改めて数字の低さにびっくり。クリアなども同じだし、それどころか「PAへの持ち込み数」も.329と弱い相関しかない。とにかく重要なのはシュートと、全体的なボール支配に関係するパスやドリブル関連の指標だ。つまり、シュートを打つ人(主にFW)の技術と、ボール支配率が大切ってことになる。
 
 といっても、別にポゼッションサッカー最高と結論づけたい訳ではない。ボール支配率と得点との間には確かに.449と緩やかな相関があるのだが、ボール支配率と失点とで見ると-.290と弱い相関しかない。確かにボール支配率の低いチームはそれだけ失点しやすいという傾向はあるのだが、それはかなり弱い傾向。この数字を見る限り、引きこもってカウンターサッカーを狙うチームがいても間違いとは言えない。
 それを典型的に示しているのがウルグアイだろう。ベスト4まで勝ち残ったこのチームは、ボール支配率が49%(32チーム中21位)、1試合平均のパス数は430.5回(25位)、パス成功率65.7%(27位)、1試合平均ボール支配時の走行距離が38.1キロ(25位)、1試合平均ドリブル数10.7回(22位タイ)と、ボール支配に関連する指標は軒並み下位に沈んでいる。だが、1試合平均の枠内シュート数は6.5(7位タイ)、枠内シュート率45.4%(6位)、PA内からの枠内シュート数3.2(14位)と、シュート関連の指標は結構上位に顔を出している。
 たとえポゼッションで負けていても、質のいいシュートを沢山打てるのなら十分勝負になることを、ウルグアイの躍進は示している。ウルグアイの劣化版とも言うべき日本がグループリーグを突破できたのも、32チーム中トップだった枠内シュート率(58.7%)や4位だった枠内シュート数(6.8)のおかげだろう。一方、日本同様に引きこもりだった北朝鮮(ボール支配率40.7%)やホンジュラス(43.3%)などは枠内シュート数で下位に沈んでおり(北朝鮮が24位タイ、ホンジュラス31位)、得点に結びつく要素がなさすぎたのがグループリーグで敗退した要因だろう。ナイジェリアやスイス、ニュージーランドも同じだ。
 ただし、決勝トーナメントに進出したチームの大半はボール支配率が高かったのも確か。16チーム中、支配率が50%を割り込んでいるのは5チームしかない。カウンターサッカーを展開していると見られているドイツでさえ、支配率は50.7%ある。まして40%台前半のチームでグループリーグを突破したのは日本のみ。完全引きこもりのカウンターサッカーで勝ち残るのは決して楽な手段ではないのだ。
 
 ではなぜ日本は引きこもりサッカーを選んだのか。選びたくて選んだというより、それしか選べなかったのが実情だろう。このチームはW杯直前になって戦術を大きく変えたと言われている。それまではショートパスをつなぐポゼッションサッカーを志向していたが、大会出場国との親善試合でその戦術が通用しないことが判明。慌てて戦術を切り替えたという話だ。
 どうすればボール支配率を高められるか。それを知るためには他の指標とボール支配率の相関性を見ればいい。すると上位には「ミドルパス数」(.882)や「パス数」(.877)、「ボール支配時の走行距離」(.812)などが並ぶが、これらはいずれもボール支配率が高まった結果として増えていると考えられる数値だ。支配率の結果ではなく、むしろ原因になりそうな指標、それは「パス成功率」(.719)である。
 ボールを支配していればパス成功率が上がるとは考えにくい。ボール支配率と「クロス成功率」(.258)やコーナー成功率(.038)の相関性が極めて低いのがその理由。ボールの支配率が上がればパス成功率も上がるなら、パスの一種であるクロスやセットプレイからのパスであるコーナーも成功率が上がらなければならない。そうなっていないのは因果関係が「ボール支配率→パス成功率」ではなく、むしろ「パス成功率→ボール支配率」となっているためだろう。パスの中でも難しく回数の少ないクロスやコーナーの成功率はボール支配率と直結することは少ないが、数の多いパス全体の成功率はボール支配につながっていると見ていい。
 逆に言えばパス成功率が低いチームほどボールを支配できないということになる。いや、ボールは相手に奪われることだってあるじゃないか。その数字も見なければボール支配率を測ることはできないのではないか。そう思う人もいるだろう。だが、それも数字を見れば否定できる。積極的にボールを奪いにいく指標としてTackles made gaining possessionというものがあるが、それとボール支配率の相関性は-.155、つまりほぼ無関係である。タックルでボールを奪う行為は、あまり支配率には影響を及ぼさないのだ。
 もうお分かりだろう。日本のパス成功率は60.3%と32ヶ国中最下位。そのパス成功率の中でも特にボール支配率との相関性が高い(.749)ミドル&ロングパス成功率は56.8%とこれまた最下位で、偏差値にすると26.3という目も当てられない成績になる。この成績でポゼッションサッカーを目指すなどと宣言するのは、たちの悪い冗談にしか見えない。引きこもりサッカーが分相応なのである。

 もちろん、念のため言っておくなら、以上の話は少ない母数を基に述べている信頼性の乏しい妄言だ。あまり本気にしないように。
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