ア式蹴球

 4年前にこんな記事"http://blogs.yahoo.co.jp/desaixjp/9322673.html"を書いたことがある。サッカー自体はろくに見ないでスタッツだけ分析したもの。サッカーのスタッツというのがこちらの予想以上に多数あったのを見てちょっと関心を引かれたのが理由だったと記憶している。
 あれから4年。FIFAのサイトに載っているスタッツ"http://www.fifa.com/worldcup/statistics/index.html"は4年前より一段と充実しているようだ。例えば4年前はパスを「ロング」と「ショート」の2種類に分けていたようだが、今回は「ミドル」というジャンルも登場。シュートについても4年前よりさらに詳しいデータが載っている。となると改めて勝敗との相関性について調べてみるしかないだろう。野球において重要なのが出塁率や長打率であるように、アメフトにおいて重要なのが平均パス獲得ヤードであるように、サッカーにおいて重要な指標を探してみよう。もちろん、念のため言っておくが、母数の少ないこの大会のみのデータでそんな結論を出すのは本当は不可能。あくまでお遊びだ。
 その前に4年前の記事を見ると、その相関性の高さに愕然とする。ゴールと直結しているアシスト数はともかく、「枠内シュート数(0.794)、シュート数(0.727)」って何だよその数値は。「ショートパスのコリレーションが0.786」ってのも信じがたい数字。正直、4年前の自分は何か計算間違いをしでかしていたのではないかと思えてならない。もしかしたら1試合平均を算出せず、試合数の異なるチーム同士を生の数字で比較していたんじゃなかろうか。だとしたら納得いく数字なんだが。
 実際、今回のW杯について準々決勝までの全試合を対象に1試合平均のチームデータと勝ち点を比較した場合、相関性はもっと低くなる。具体的に(正負どちらであれ)勝ち点と相関性の高い順番に並べると以下の通りになる。
 
Goals for - Goals against .741
Goals for .599
Shots on goal from Penalty Area .598
Goals against -.571
Open Play Goals .563
Goals conceded in Penalty Area -.554
Assists .530
Shots on Target .529
Shots on Target Rate .528
Goals Scored in Penalty Area .466
Saves -.429
Goals Scored from Outside Penalty Area .415
Medium Passes .390
Medium Passes complete .387
Free-kick shots (indirect) -.360
Distance covered in possession .338
Corners completion Rate -.321
Fouls Suffered .314
 
 一番上は要するに得失点差ということ。それも含めてGoal関連の指標(及びGoalと密接に関連するAssist)が大半を占めている。相関性が強いといえる0.7以上の指標は得失点差しかないし、緩やかな相関があると見なせる0.4以上でも、Goal関連の指標以外はシュート関係3つとセーブ数しかない。勝ち点との比較でいえば、この4指標以外はあまり見る意味はないと考えていいだろう。
 4指標のうち最も相関性が高いのは「ペナルティーエリア内からのシュート」(.598)だ。この指標の定義は今一つ不明で、ペナルティーエリアからゴールの枠内に蹴ったものだけを含めるのか、それともペナルティーエリア内のシュートは全て含んでいるのか、よく分からない。FIFAのサイトに用語説明が載っていないのだ。
 次に高いのは「ゴール枠内へのシュート」(.529)であり、ほぼ同水準なのが「シュート全体に占める枠内シュートの割合」(.528)だ。4年前も高い数値を示していた指標であり、引き続き勝敗と相関性の高いデータであることが分かる。「セーブ数」が負の相関(-.429)を示しているのも4年前と同じだ。もちろんこの関係はあくまで相関であって因果ではない。一方、シュート関連のデータはある程度因果関係があると想像できる。シュートの重要性は4年前も今回も同じだ。
 
 と、これだけではつまらないので、今度はチームの得点(Goals for)と各種指標との相関性を調べてみよう。同じく正負を含めて相関性の高い順番に並べる(ただしGoal関連の指標は除く)。
 
Assists .808
Shots on goal from Penalty Area .723
Shots on Target .651
Shots on Target Rate .528
Medium Passes .516
Medium Passes complete .498
Attacks from Right .467
Solo runs .461
Passes .458
Passes complete .456
Distance covered in possession .447
Total Shots .439
Long passes completion rate .421
 
 アシストが高いのは当たり前なので無視。それを除くと最も得点との相関性が高いのは「ペナルティーエリア内からのシュート」(.723)であり、これのみが強い相関を示している。以後はどれも緩やかな相関程度だが、枠内シュート(.651)、枠内シュート割合(.528)が続くのは勝ち点と同じ。
 次に来るのはミドルパス数(.516)とミドルパス成功数(.498)だ。これまた「ボール支配率が高い→ミドルパスも増えるし得点機会も増える」という「因果ではなく相関」の可能性があるため安易に「ミドルパスを増やせば勝利」とは言えないが、それなりに注意すべき指標だろう。ちなみにショートパス数の相関性は.355、ロングパス数は-.153となっており、「ロングパスの数はあまり関係ない」という点は4年前と一致している。
 「右サイドからの攻撃」と得点の相関が高い(.467)理由は全く不明。ただの偶然か、それともサッカーという競技全体にそういう傾向が窺えるのか、さっぱり分からない。ただ、今回のW杯では左サイドからの攻撃(428回)や中央からの攻撃(415回)より右からの攻撃(487回)の方が明らかに多いことは確かだ。右ばかり使っていたのは別に日本だけではなかった模様。
 Solo runsってのは多分ドリブル突破のことだろうが、これもそれなりに相関性はある(.461)。パス全体数(.458)よりも高いくらいで、個人技による突破は得点効率が悪いとは言えないようだ。1試合当たりの走行距離も、特に日本の試合では(一部で)話題になっていたが、重要なのはポールを保持した状態での走行距離。相手に持たれた状態での走行距離はむしろ負の相関(-.259)となっており、走ればいいってものではないことを示している。もちろんこれも「支配率が低い→ボールを持たずに走る距離も失点機会も増える」という関係であろうが。
 ロングパス数はあまり得点とは関係ないと言ったが、ロングパスの正確性は緩やかな相関性くらいはある(.421)。ミドルやショートのパスはボールをどの程度支配するかによって数が変わってくるのに対し、ロングパスは精度を高めれば得点機会が増えると考えてもそれほど間違いではないだろう。特に守ってカウンターというタイプのチームにとってはこの数値は重要ではなかろうか。
 
 以上、結論を言うならまず何よりシュートが大事。それも単なるシュートではなく、ペナルティーエリア内や枠内といった「質の高い」シュートが重要だ。次いでミドルパスやドリブルが重要ということになるが、これは単に「ボール支配率が高い方が点を取りやすい」ことを意味している可能性がある。ボール支配時点の走行距離も同じ。ロングパスの成功率はおそらくボール支配率とはあまり関係なく得点のために(そこそこ)重要な指標である。
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