多細胞生物

 最近、科学関連では宇宙の話ばかりだったので、久しぶりに生物の話を。アフリカで21億年も前の多細胞生物の化石が発見された可能性がある、との報道が出ていた"http://www.afpbb.com/article/environment-science-it/science-technology/2738713/5933853"。もしこれが事実なら、なかなかセンセーショナルな話である。
 元ネタであるNatureの記事"http://www.nature.com/news/2010/100630/full/news.2010.323.html"を読むと、これをpseudo-fossilsだと考えている人もいるようだ。実際、見た目は生物っぽい感じもするものの、見た目だけで安易に決めるわけにもいかない。結論が出るまでには時間がかかるだろうし、長期にわたって議論が繰り広げられる可能性もある。そして、最終的に「やっぱり違いました」となることもあり得る。
 だが、そうならずに、これが本当に多細胞生物だと(それも真核生物であると)結論づけられたらどうなるだろうか。真核生物自体は大体21億年前から、さらに遡ると27億年くらい前に生まれたと言われている。つまり、今回の化石が本当に多細胞生物なら、真核生物は誕生してあまり(ほとんど)間をおくことなく多細胞生物へと進化したことになる。真核生物の多細胞化は珍しくも何ともない出来事だった、と解釈することも可能だ。
 現時点の定説では多細胞生物の登場をそこまで遡って考えてはいない。上の記事にもあるが、大体6億年程度前というのが一般的な見方のようだ。それより遡る説もあるが、Natureの記事にもあるように11億年前の化石("http://chigaku.ed.gifu-u.ac.jp/chigakuhp/rika-b/htmls/multicell_animals/oldest.html"参照)を見つけたと主張していた本人が「あれはやっぱ違った」と言っている訳で、一般的にはやはりエディアカラ生物群が間違いない最古の多細胞生物なんだろう。
 エディアカラが最古と考えると都合がいいのは、実は最近定説となっている全球凍結仮説と辻褄が合うから、という面もあるのだろう。こちら"http://www-sys.eps.s.u-tokyo.ac.jp/~tajika/papers/Tajika%20(2007)%20JG.pdf"の論文を読めば分かるが、原生代に起きた全球凍結は3回あり、その最後であるマリノアン氷河時代は6億6500万年前から6億3500万年前まで続いていた。つまり、従来の定説通りなら多細胞生物の誕生はこの全球凍結の直後だったということになる。
 全球凍結を超えて多細胞生物が生き延びたとは考えにくい、ということはこの論文で散々主張されている。真核生物(単細胞)が生き延びるだけなら「赤道域の氷は薄かった」仮説(p87)で何とかなるのだが、多細胞生物が数千万年に及ぶ氷の世界を生き残るのはあまりに難しい。分子時計を使うなら最後の全球凍結前である10億年前に多細胞生物が生まれていた計算になるが、化石記録はそれを裏付けないし、最近の分子時計を使った研究では10億年ではなく6億年前になっているじゃないか。そうなれば全球凍結と多細胞生物の誕生も整合性が取れる、などなど。
 この論文の指摘については確かにそうかもしれないと思う一方、多細胞生物といっても極めて小型な生物ならもしかしたら単細胞生物と同様にサバイバルできるだけの環境も残っていたんじゃないかと思わなくもない。まあ私は専門家ではないし、今存在する多細胞生物の先祖は全て全球凍結以降に生まれたと考えた方がすっきりすることは確かだ。
 
 でも。ここから先は完全に妄想になるが、でももし多細胞生物が全球凍結以前に生まれていたらどうなっていただろうか。彼らが今生きている多細胞生物の直接の祖先になるのは困難かもしれないが、そういった生物が21億年前に生まれ、7億年ほど前にあった2度目の全球凍結まで生き延びていたとしたら。地球は、かつて我々とは全然異なる多細胞生物で溢れていたのかもしれない。
 現存の多細胞生物でも多細胞への進化が複数回生じたことは間違いないと思われている(少なくとも動物と植物はそれぞれ別々に多細胞へ進化したことは確かだ)。だったら、異なる時代に同じことが起きたって構わないんじゃないか。それも、今とは異なる生物の系統樹でそうした現象が起きていたかもしれない。
 真核生物については2005年に大きく6つに分類する説が唱えられた(実際にはその後、さらに異なる説が唱えられているようだ"http://en.wikipedia.org/wiki/Eukaryote"が)。21億年前にはこの6つの大分類の中で今とは違う生物グループが多細胞化への道を歩んでいたかもしれない。現在では動物が所属するオピストコンタとか、植物=アーケプラスティダなどが多細胞化しているが、実は21億年前に多細胞化したのはアメーボゾアやエクスカヴァータでした、なんてことになっていたら実に面白いではないか。
 まあこれだけでは何が面白いのかさっぱりという人もいるだろうが、例えばさらに妄想をたくましくして、そういう生物が何らかの偶然で現代まで生き延びていたとしたらどうだろう。動物でも植物でもない不思議な多細胞生物がどこからともなく姿を現し、人々をパニックに陥れる。まるで異星から来たかのようなその生物を捕らえて調べてみると、実は異形の進化を遂げていた真核生物だった。これは十分SFになる。ついでにその中に知性を持つまで進化している生き物がいれば、かなり面白い話を作れそうだ。誰かそういうSFでも書いてくれないか。
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