お前はいつか

 John AbbottのThe history of Napoleon Bonaparte, Vol. I."http://books.google.com/books?id=gKJBAAAAcAAJ"に、以下のような話が載っている。
 
「トゥーロン奪回直後、ナポレオンはデュゴミエ将軍に同行してマルセイユへ向かった。彼はそこで将軍と一緒にいたが、ある人が彼の男らしくない姿を見て尋ねた。『あのしょぼい士官は誰で、あなた[デュゴミエ]は彼をどこで拾ってきたんですか』。デュゴミエ将軍は厳かに答えた。『あの士官の名はナポレオン・ボナパルトです。私は彼をトゥーロンで拾ってきましたが、彼はその攻囲を成功裏に終わらせるのに非常に貢献しました。そして、いつの日にかあなたはこのしょぼい士官が我々の誰よりも大物になるのを見ることでしょう』」
The history of Napoleon Bonaparte, Vol. I. p57-58
 
 何だか「お前はいつか偉くなる」を思い出させる話だが、果たしてこの話は事実なのだろうか。正直よく分からないが、あまり信頼性の高そうにないソースに基づいていると見られる。なぜかというと、フランス語で書かれた最も古い本が(私の探した限りでは)英語本より新しいからだ。フランス語文献でこの話を紹介している事例としてはAbrégé de l'histoire de France"http://books.google.com/books?id=5pnBvOxi3ZAC"のp448脚注があるのだが、この本の出版は1856年。Abbottの本(1855年出版)より新しい。
 実際にはAbbott以前にも多くの英語文献でこの話が紹介されている(1828年出版のThe life of Napoleon Bonaparte, Vol. I."http://books.google.com/books?id=VsEAAAAAYAAJ"のp37、1827年出版のMemoirs of the public and private life of Napoleon Bonaparte, Vol. I."http://books.google.com/books?id=vUU2AAAAMAAJ"のp53など)。英国で広まり、定着した話が19世紀半ばになってフランス語文献にも紹介された可能性があるのだ。
 では英語文献で最も古いのはどれか。私が探し出した中では1810年出版のA narrative of three years' residence in France, Vol. III."http://books.google.com/books?id=_mHiAAAAMAAJ"が最古だった。題名の通り、3年間フランスに滞在した英国人Anne Plumptre"http://en.wikipedia.org/wiki/Anne_Plumptre"が記したもので、同書p265-266に上の挿話がまさしく紹介されている。ただ、どのような論拠に基づくものかは不明で、本の中にソースは示されていない。
 いずれにせよトゥーロン陥落から15年以上後になって出版された外国語の文中に現れるのが最初の事例であるとしたら、その信頼性は推して知るべし。もっと古い史料、それも単に古いだけでなくデュゴミエ自身と関連する史料が見つからない限り、あまり真面目に取り上げる必要のない挿話だろう。
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