NPBとBCLと高校野球と

 承前。NPB、BCリーグ(BCL)、及び高校野球についてセイバーメトリクス的な数字を実際に調べてみる。BCLは2007年のリーグ創設から2009年までの3年分、NPBも同じ3年間、そして高校野球については私がとりあえず調べた第81回選抜高等学校野球大会と第91回全国高等学校野球選手権大会の計79試合を対象とする。あくまでリーグ間の比較をするのが狙いなので、チーム別ではなく対象全試合のスタッツを合計したもので数値を算出する。
 比較の中心はあくまでデータ量の多いNPBとBCLに限る。両者の違いから高校生の実力を想定し、そのうえで高校野球のデータを見ながら金属バット使用などの特徴がどのような影響を与えているかを想像してみる。まず、プロ両リーグの出塁率、長打率、BABIPを見てみよう。上がNPB、下がBCLだ。

出塁 長打 BABIP
.328 .396 .304
.333 .348 .289

 出塁率だが、ほとんど差はないと言っていい。微妙にBCLの方が高いものの、年度別に分けるとBCLは1年目が異常に高く(.368)、2、3年目は同じ年のNPB出塁率よりも低くなっている。試合数が少ないため、ブレが出やすいのだろう。重要なのは出塁率全体より、むしろその中身。出塁率の分子について、単打、長打(2・3塁打)、本塁打、4球(データの関係上故意4球を含む)、死球に分けて両リーグを並べてみる。

単打 長打 本塁打 4球 死球
.169 .046 .0232 .079 .011
.182 .041 .0097 .079 .021

 単打や死球はBCLの方が高く、長打・本塁打になるとNPBが上回っている。BCLの方が死球が多いのは投手の能力差が原因だろうし、単打は守備能力の差だろう。一方、長打・本塁打はパワーやミート技術の差だと思われる。ここから想像される高校生の出塁は、BCLよりさらに長打・本塁打が少なく、単打や死球が多いというもの。ただし、金属バットのお蔭で高校生はパワーやミート技術の不足をある程度補える筈であり、その分は出塁率に対して有利に働くと想像される。実際の甲子園のデータは以下の通り。

単打 長打 本塁打 4球 死球
.183 .056 .0082 .061 .028

 単打はほぼBCL並み、長打はBCLより上で、本塁打はBCLより下。4球は少なく、死球は多い。金属バット使用が2・3塁打の増加に寄与しているものの、本塁打にまでは結びついていない様子が窺える。おそらく高校生のパワーでは、金属バットでフィールドに飛ばす球の速度を上げることはできても、スタンドまで球を持っていくだけの上乗せ効果はないのだろう。
 次に長打率だが、これも中身を分けて調べてみる。プロ両リーグの成績は以下の通りだ。

単打 2塁打 3塁打 本塁打
.1864 .0936 .0132 .1026
.2036 .0750 .0262 .0435

 単打と3塁打はBCLが、2塁打と特に本塁打はNPBが上回っている。おそらく単打は内野守備、3塁打は外野守備の能力を反映しており、本塁打はやはり打者のパワーとミート能力の差が出ているのだろう。ここから想像すると、高校生はより単打と3塁打が多く本塁打が少なくなる能力を持っており、うちフィールド内に飛ぶ分に関しては金属バットによる上乗せがあると想定される。実際の数値は以下の通り。

単打 2塁打 3塁打 本塁打
.2016 .0988 .0369 .0361

 単打が微妙にBCLより低いが、そう気にするほどの差でもないだろう。2・3塁打が多いのは金属バット効果と見れば想像通りだし、本塁打が足りないのも予想通り。結局、高校野球はプロリーグに比べてフィールドに飛ぶ安打に頼る比率が高いことを意味する。つまり、BABIPが高いと予想できる訳だ。実際、甲子園のBABIPは.331とBCL、NPBのいずれをも上回っている。

 以上を踏まえ、小説「もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの『マネジメント』を読んだら」の中に出てくる作戦を見ると、やはり投手による「打たせて取る」作戦の妥当性が問題になる。打たせるということはBABIPの分母を増やすことになる。高校野球における高いBABIPを考えるなら、分母が増えれば分子に当たる安打(除く本塁打)も増え、失点につながりやすくなる。もちろん高校生レベルでBABIPをコントロールできる打者はほとんどいないだろうが、それは投手についても同じ。打たせて取る作戦というのは「守備はツキに任せる」作戦だとも言える。
 小説における前進守備作戦の妥当性については不明。ただ、こちら"http://www16.plala.or.jp/dousaku/yokohamababip.html"ではNPBのデータを基に前進守備がBABIPを高める要因になっている可能性を指摘している。つまり小説では敢えて失点期待値を高めるような作戦を採用しているわけで、心理的な効果があるにせよあまり合理性は感じられない。
 唯一、小説の守備作戦で合理的と思われるのは、投手の疲労を減らす効果が期待できる点だ。高校野球のデータを大会前半39試合(上)と後半40試合(下)に分けると以下のようになる。

出塁 長打 BABIP
.311 .352 .309
.359 .394 .353

 失点はツキに任せ、投手の疲労を避けることを重視した、と考えれば一応ありえなくもない作戦か。ただ、この作戦で上手く勝ちあがるには打線が失点より多い得点を挙げられるようにする必要がある。
 そう考えるとノーバント作戦は確かに意味がある。少ないデータではあるが、高校野球で試合ごとの犠牲バント率と得点の相関性を調べても0.190にしかならないのだから、犠牲バントなどしなくてもいい。一方で出塁率と得点の相関性は0.816もあるので、ボールを見極めて出塁を増やそうとするのも正しい戦術となる。
 問題は、そんなに簡単に選球眼が身につくのか、という話。選球眼は天性のものだという意見もあるし、そもそもどんな練習をすればボール球の見極めがつくようになるのか、具体的な記述が全くない。それよりも、現実の高校野球でも採用されて一定の効果を上げている「筋トレによるパワー向上」に取り組む方が手っ取り早い気がする。長打率と得点の相関性も0.804あることを考えるなら、長打を増やす努力をする方が実効性が高いように思われる。やっていることはそれほど革新的ではなくなるけど。

 以上、小説を元にちょっとデータを調べてみた。これだけの暇潰しができ、blogのネタにもなったという点では、実にいいフィクションだった。

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