「クライメート・ゲート事件」"http://en.wikipedia.org/wiki/Climatic_Research_Unit_e-mail_hacking_incident"なるものが海外で話題になっている。英国の大学から気候学者の電子メールのデータがハッキングされたという事件で、その中に過去の気候データを誤魔化そうとするかのような記述があったことが問題視されているようだ。
関連する記事はネット上にいくつもあるが、どうも日本語記事の中には冷静さを失っているものが多いように思える。理由の一つとして、日本語での報道があまりなされていないこともあるのだろう。温暖化に関する議論をあまり知らずに日本語サイトだけ見ると、これはとんでもない事実が発覚したと思えるのは確かだ。だが、そうやって結論に急いで飛びつく必要はない。
紹介されているメールの内容だけ読めば、一部の学者が事実ではない温暖化をでっち上げるためにデータを捏造した、と解釈できるように見える。しかし、引用だけを元に決めつけるのは危険。このサイトでも書いているように、文脈を無視した引用をする人種はいつの時代にもどの国にも存在するからだ。メールの内容から学者が何をしようとしていたかを知りたいのなら、メール全体を精査しなければならない。
もっともそんな面倒なことをしたくはないので、私はもっと簡単な方法をとる。クライメート・ゲート事件を問題視する人々(つまりデータの捏造があったとする人々)の議論が正しいとした場合、常識的に考えておかしい部分が出てくるかどうかを見てみるのだ。
「データ捏造あった派」は、その捏造によって事実ではない温暖化がでっち上げられたのだと主張している。要するに「あった派」の最終的な主張は「温暖化は事実ではない」というもの。であれば、今議論している温暖化対策などもすべて無意味ということになる。
しかし、温暖化対策が議論されるようになった背景を考えると、これはかなり無理目な議論である。温暖化が進んでいるという議論はもう随分と前から行われているし、その間に何度も科学者がデータを使って分析を続けてきた。大勢の科学者が、である。当然、彼らは様々なデータを使って研究をしてきたのだろう。あちこちから入手した、色々な種類のデータを使って。
今回、問題になったのは、東アングリア大学のCRUという組織内から盗み出されたメールだ。さて、ここで常識を使って考えてみたいのだが、世界の温暖化が進んでいることを確認しようとする科学者は「全て」このCRU経由のデータ「のみ」を使って研究を進めている、という事態は考えられるだろうか。全て、というのが極端なら「大半は」でもいい。データ捏造があったといわれているのはこのCRUなんだから、そのデータを使わなければ温暖化を示す研究結果は出てこないはずだ。
もうお分かりだろう。「あった派」の議論の中身は、実はよくある「陰謀論」なのだ。CRUが世界の気象データを牛耳る悪の秘密結社だったなら「あった派」の主張にも耳を傾けていいだろう。でも、単なる1つの大学の1研究機関に過ぎない彼らがそんな恐るべき力を持っていると考えるのは、常識的に考えれば無理。科学者たちが温暖化について調べる際には、もっと様々な機関のデータを幅広く利用したと考えるのが当然だろう。
そして、その結果としてIPCCなどの報告書がまとめられているのだ。その現時点での結論は「温暖化は起きている」「人間の活動がその背景にある可能性が高い」というもの(正確な文言は違うと思うが、大体そんな内容だったと記憶している)。CRUのデータは、そうした結論を導き出した膨大なデータ群のほんの一部に過ぎない。
私自身はしばらく前まで温暖化懐疑派だったし、現時点でも温暖化対策は無条件にではなくコストも考えながら実行すべきだと思っている。だが、盗み出されたメールの内容を元に「データ捏造があった」「温暖化は事実ではない」と主張するのは、あまりに無理筋。911陰謀論とあまり変わらないだろう。要するに、この件には入れあげない方がいいってことだ。
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