敬礼!(その3)

 敬礼について続き。Napoleon Series"http://www.napoleon-series.org/"ではいくつかナポレオン時代の「挙手の礼」について具体的な言及が出てきた。まずはSaint-Hilaireの記録に出てきた具体例を、同BBSへの書き込みを元に紹介する。

「『若者よ、ここで何をしているのか?』
 踵を揃え、胸を張ったフランソワは、右手の裏をシャコー(筒型軍帽)に当てて静かに答えた。
『陛下、あなたをお待ちしておりました』」

「『陛下のお望みの通りに』彼は丁寧に左手の裏を持ち上げて帽子に当てながら答えた」

「ナポレオンの姿を見て若い男が走りより、剣の切っ先を下げ、その手をシャコーに持っていった」

 主に親衛隊の中で見られた話が紹介されているという。面白いことに挙手の礼は右手だけでなく左手でも行われていたようだ。現代の軍隊では「挙手の礼」は基本的に右手のみだが、昔はそれほど厳格に行われていなかったのかもしれない。

 もう一つは1813年に出版された本をドイツ語に翻訳したページ"http://www.demi-brigade.org/honneurs.htm"。本の著者はBardinという人物で、1788年から行われていた軍内での儀礼について記したものだそうだ。
 Napoleon SeriesのBBSへの書き込みによると、1788年あるいはそれ以前から兵士の敬礼は手を帽子に当てることで行われており、一方、士官と下士官は帽子を持ち上げて敬礼していた。ただ、1813年の時点では兵と同様にシャコーをかぶっていた下士官も手を帽子に当てていたという。

 要するに、以前記したカロッソの証言、さらにAlbrecht Adamがロシア遠征時に描いた絵画などに加え、今回新たな証拠が二種類(Saint-HilaireとBardin)見つかったということ。これだけの証拠があるのなら、ナポレオン時代には挙手の礼があったと言ってもほぼ間違いはないだろう。

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コメント

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シェへラザード
やはりナポレオン時代に挙手の敬礼はあったのですね! 手の甲と掌の使い分けは基本的なボディランゲージとしてあったのではないかという気もしますが、右手と左手の違いにはこだわらなかったというのは面白いと思います。それにしてもどこから「ナポレオン時代に挙手の礼はなかった」という話が出てきたのでしょうね。偉い歴史家か誰かがどこかで断言したのでしょうか???

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desaixjp
私もどこから出てきた話なのかは知りません。また、上の記録を読む限りでは兵士や下士官が挙手の礼をしていたことは確実でも、士官同士の場合がどうだったかは不明です。映画ワーテルローでは元帥と将軍がナポレオンに挙手の礼をしている場面があるのですが、あれが正確なのかどうかはまだ分からない状態です。

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desaixjp
old_guard_regimentさん。「20世紀後半の映画(フィクション)の時代考証担当」と「ナポレオン時代の軍人」のどちらの言い分を信じるかと言えば、私は後者を採ります。歴史を論じるうえでフィクションを論拠にするのは避けた方がいいでしょう。

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desaixjp
私が調べ始めたときは「挙手の礼があったか否か」という視点で取り組みました。別に最初から支持する説があったわけではありません。で、調べた結果「挙手の礼が実在した」という記録が複数見つかる一方、それと異なる見解の論拠は何も発見できませんでした。現時点で私にはこれ以上は無理なので、必要ならあなた自身でお調べになってください。論拠が見つかったらまたコメントをお願いします。

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シェヘラザード
時間がたってからのコメントになってしまうのですが、勝手訳中のデュマの歴史小説『リシャール大尉』の中に「私の任務はただ一つ、ナポレオン皇帝(ここで班長は敬意を表すために手を帽子まで持っていった)の副官が重大な知らせを託した人物は云々」という一節が出てきました。小説が書かれたのは1854年、小説の舞台となっているのは1816年です。年代的には多少のずれがありますが、少なくともデュマの時代には「ナポレオン時代の軍人は挙手の礼をしていた」という通念があったということの証左になるかもしれません。

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desaixjp
ご指摘ありがとうございます。おそらく19世紀半ばになると挙手の礼もかなり当たり前になっていたのでしょう。ただ、デュマがどの程度、時代考証をしながら書いていたかは私には分かりません。というか彼の書いた父親に関する回想録の内容に疑問を呈する人がいるところを見ると、かれの考証能力はあまりアテにならないような気も……。人間は歴史を振り返る際にも自分自身が生きている時代の制約からなかなか逃れられないことを示す一例にはなると思います。
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