週記(WBCまとめ・その2)

 日記ならぬ週記である。

 漫画は、えーとまあ普通に考えれば一度RBに振り切られたディフェンス選手が後ろから追いつくことはほぼ不可能なのだが、でもまあそんな普通はあり得ない現象がいとも簡単に起こるからこそ「まるで漫画みたい」と言われる訳でもあり、それも含めて今週もまたいつも通りだったという結論になるのだろう。とりあえず掲載順位も着々と下がっているようだし、そろそろ連載終了ではなかろうかとか、もっと早めに終わらせた方が良かったんじゃなかろうかとか、そんな感じ。

 WBC関連も今回でラスト。今回は真の勝利の立役者である投手陣だ。SABRmetricsによれば投手の成績は非常にブレやすく、「投手は水物」とも言われたりするのだが、今回の日本投手陣はとても安定した成績を残している。何しろ9試合やって最多失点が4。今回、全試合平均の1チーム失点が4.86だったことを考えれば、一度もその平均失点を上回らなかった日本チームがどれほど凄まじかったか分かるだろう。
 1イニングに何人の走者を出したかを示すWHIPは1.03と、3試合しかしなかったドミニカ(0.63)に次いで少ない数字だ。ほとんど走者を出さないのだから、もちろん失点も少ない。野球の勝率を推計するやり方として時々紹介されるのが、得点^2/(得点^2+失点^2)というものだが、これで計算しても日本の勝率は.907となり16チーム中最高。韓国は.757、米国は.462だ(もちろん試合数が少なすぎるのでこの推計値通りの勝率にはなっていない)。総得点では日本は韓国に負け、米国と同じだが、失点の少なさではこれらのチームを圧倒していた。
 これだけ素晴らしい成績を残した第一の要因は、投手陣がその実力をいかんなく発揮した点にある。三振、四球、本塁打に絞って投手の実力を算出するDIPSという指標があるが、今回の日本代表投手陣のDIPSは3.10と、彼らのシーズン中の成績(3.04)からほとんど変わらなかった。普段なら調整途上にある3月時点での数字と考えれば驚異的だし、長期間の累計数字ではなくごく短期間のブレ易い数字でこれを出したのも凄い。打線の方がシーズン成績を大幅に下回っているとの比べても、投手陣の頑張りがよく分かる。
 加えて日本は投手陣の方でも幸運だった。実は韓国もDIPSは3.10と日本並みの成績を残している。にもかかわらず彼らの方が失点が多いのは、被BABIPが悪かったのが理由だろう。.310という被BABIPは16チーム平均(.290)を下回っている。米国も被BABIPが.330とかなり悪い。一方、日本は.221と物凄くいい数字。ドミニカよりも低く、16チーム中トップだ。日本投手陣のシーズン被BABIP成績(.276)に比べても大幅に下回っており、まさに「持っていた」状態である。
 個々の選手を見てみよう。まず先発三本柱だが、一般には非難を浴びまくっているダルビッシュが、実はDIPSでは最もいい成績を残していたりする。MVPの松坂が4.22(シーズンは3.98)、やたらと評価されている岩隈が3.25(同2.35)だったのに対し、ダルは1.51(同2.50)と圧倒的に低い。シーズン成績を上回っているのも三本柱のうちではダルだけだ。
 何より奪三振の多さが特徴。13イニング、39アウトのうち半分以上の20を三振で稼いでいるのだ。もちろんWBC参加全選手で最多。というか二番手の岩隈(15奪三振)を大きく引き離し、ぶっちぎりのトップである。岩隈は20イニング、60アウトでこの数字であることまで考えるなら、ダルの恐ろしさがよく分かるだろう。藤川不調で抑え投手が必要になった時、首脳陣が三振を取れるダルに注目したのも当然と言える。三振を奪う能力では岩隈も松坂(14イニングで13奪三振)も決して低くないが、とにかくダルが凄すぎだ。
 一方、与四球は6と岩隈(同じく6だがイニング数はダルより多い)、松坂(5)に比べれば悪い。だがそのうち3つは慣れない抑えの時に記録したものであり、それを除けばダルの与四球は10イニングで3つと岩隈並みに少なくなる(松坂よりは少ない)。そして被本塁打を見ると松坂2、岩隈1に対してダルは0。投手の能力とは無関係にツキで決まる被BABIPを含まない三振、四球、本塁打に注目すれば、今大会の三本柱で最も素晴らしい成績を残したのはダルに間違いない。これだけ見ればむしろダルこそMVPである。
 ではなぜダルは批判を浴びているのだろうか。単に不運だったから、としか言い様がない。被BABIPは岩隈が.196、松坂が.279だったのに対し、ダルは.269だ。岩隈の成績は凄まじい幸運に支えられたものであることが分かるし、投手としてはツキもなく成績も今一つだった松坂が打線の援護のおかげで3勝しMVPになったことも明らか。ダルは岩隈ほどのツキに恵まれず、松坂のような打線の援護もなかったため、本当は最もいい結果を出しているにもかかわらず非難されるようになってしまったのだ。
 ダル批判を見ているとよく分かるのは、ファンというものがいかに「後知恵」でしか物事を見ていないか、ということだ。全アウトの半分強を三振で奪い、大会途中で不慣れな抑えにコンバートされながら何とかその仕事をこなした投手に対し、ファンは容赦ない批判を浴びせる。一方で一番打者のくせに出塁率が低く、最大の長所である高BABIPすら叩き出すことができなかった選手を、最後に決勝打を打っただけで「神」とあがめる。一体何の不条理劇だと言いたくなる展開だ。
 もちろん岩隈の成績も全体から見れば素晴らしい水準にあることは確か。何より彼の場合は20イニングを投げた点が最大の評価点だろう。大会参加全投手の中で最長であり、それだけの長いイニングを大崩れすることなく投げきったのは立派の一言。WHIP0.90は先発三本柱の中では最も優れているし、見ていて最も安定感があったのは間違いない。松坂は好不調の波が大きく、「投手は水物」であることを実感させてくれた。また、かつては五輪で好投しても打線に援護されずに負けるのがデフォだった松坂が、最近は打線に助けられて勝利を挙げるようになったところを見ても、野球がどれほどツキに左右されるゲームであるかが分かる。
 三本柱以外は投球回が少ないのであまり参考にはならないが、その中でやたらと評価の高いのが杉内。確かに不慣れな中継ぎでDIPS2.25(シーズン中は2.57)を記録したのは褒められるが、彼の最大の特徴は被BABIP。何と驚愕の.000を記録している。6回1/3と三本柱に次ぐイニングを投げてこの数字は凄い。ここにも「持っていた」選手がいる。一方、たまたま「持っていなかった」ために批判を浴びたのが馬原だ。確かにDIPS3.00とシーズン中(2.42)より悪かったのは確かだが、何といっても被BABIPの.316が拙かった。
 途中で抑えの役を奪われてしまった藤川は、DIPS2.45(シーズン中1.50)、被BABIP.250(同.221)。確かにシーズンより悪化しているが、そんなに酷い数字ではない。投げた相手も中国1イニング、韓国2イニング、キューバ1イニングと、中国を除けばそれなりな打線だ。なぜ彼を使わなかったのか、数字だけ見るとよく理解できない。首脳陣の目にはどこか拙い部分が見えていたのかもしれない。
 岩田、渡辺、山口、田中などイニング数の少ない投手の中にはDIPSなどを見ても悪い成績の投手はいた。しかし、全体としては先発以外もよく踏ん張っていたと言えるだろう。水物が当たり前の投手陣が、大きくぶれることなく一定の力を発揮した。それこそが今回のWBC優勝の最大の要因である。

 それにしても勝てば官軍とはよく言ったもの。もし負けていたらどうだろう。今頃イチローに対しては非難轟々だろうし、原監督などは滅茶苦茶に貶されているに違いない。もちろん、ダルも今以上に火達磨だろう。そう、去年の北京五輪に出た選手や監督に浴びせられた罵声が、今回は彼らに向けられていたことは間違いない。
 今回のWBCの監督、選手たちと、北京五輪の監督、選手たちの間にどれほどの差があったのだろう。五輪でも打線は特に長打が出ずに苦労していた。一方で投手陣はシーズン並みの成績は叩き出していた。あまり得点につながったとは思えないスモールボール戦術は五輪でもWBCでもかなり実行された。五輪とWBCの差、敗北と勝利を分けた最大の要因は、ツキによって決まるBABIPではないかと思える。打線も投手陣も不運だった五輪代表と、打線も投手陣も幸運だったWBC代表。ツキの有無で結果が変わり、評価も大きく変わった。正直、星野監督と五輪選手たちに同情を禁じえない。

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