WBCまとめ・その1

 「15安打で17塁打」と「5安打で9塁打」。今回のWBCを象徴する数字だろう。前者は決勝戦における日本の成績、後者は同じく決勝戦での韓国の数字だ。別の数字を挙げるなら、打率と長打率の差ということになる。WBC全体を通じ、日本は打率が.299、長打率は.393。韓国は打率.243、長打率.404だ。打率では日本側が5分以上上回っているのに、長打率になると韓国側が1分上。(塁打-安打)/打数で「二塁打以上の長打率」を出すと、日本は.094、韓国は.161となり、倍近い差がつく。
 つまり、今回の日本チームは思いっきり長打力に欠けていたということだ。長打力がないから走者を出しても簡単に帰せない。残塁が増えるのはそれが理由である。四死球まで含めれば21人の走者を出して5点を取った日本と、本塁打を含めても走者10人で3点の韓国。どちらの残塁が多かったかは一目瞭然だ。得点の取り方に注目するならどう考えても韓国の方が効率的。それでも日本が勝ったのは安打数が多かったからである。そしてBABIPは日本が.429なのに対し、韓国は.200とこちらは日本が倍以上だった。
 打者の成績のうち、本塁打に代表される長打や、四球を含めた出塁に関するものは、多くの選手が一定の成績を残す傾向がある。つまり長打や出塁は選手の能力を反映した成績だと考えられる。一方、打率は多くの選手にとって安定しない成績であり、年によって大きく上下しやすい。中でも、三振や本塁打を除きフェアゾーンに飛んだボールがヒットになる率を示すBABIPは、ほとんどアトランダムに決まると言ってもいいくらいだ。
 内野に転がったゴロが安打になるか凡退になるかは、転がった先に守備選手がいるかどうかにかかっている。たまたま選手がいればそれは凡退となり、いなければ安打になる。残念ながらデータを見る限り、確実に選手のいないところにボールを転がす技術はプロでも持ち合わせていないようだ。だから、イチローのように内野安打で安打数を稼げる選手でもない限り、BABIPは運がよければあがるし悪ければ下がるという程度の数字にしかならない。
 今回のWBCで日本打線はとにかくツキがあった。決勝だけではない。全試合通じてもBABIPは.341と全16チーム中3位だ。北京五輪ではこの数字が.261、全8チーム中6位だったのに比べると、どんだけ運が良かったか分かるだろう。「持っている」というイチローの台詞は、彼だけでなく日本チーム全体に当てはまる発言だったのである。効率のいい得点で対抗しようとした韓国と、ツキに任せて単打の山を築き、その量で押し切ろうとした日本。最後は「ツキ」の物量がモノを言った。
 もちろん、日本打線も運だけに頼った訳ではない。前にも紹介した四球/(打数+四球)の「奪四球率」はWBC全試合で10.2%。決勝ラウンド4チーム平均(11.6%)どころか全16チーム平均(10.5%)すら下回っているものの、出場選手たちの2008シーズン平均(8.7%)は大きく上回った。日本の野球が四球を選ぶことをあまり重視しないのは確かだが、この大会の選手たちは日本で試合をしている時より慎重に四球を選んでいた。
 おかげでチームの出塁率は.371と、選手たちのシーズン平均(.368)を上回る水準に到達。もちろん高いBABIPにも助けられたのは確かだが、塁に出るという点では他チームと比べても見劣りはなかった。この点は北京五輪代表よりマシだろう。だが、五輪代表と同じだったのは長打不足。長打率は全16チーム平均(.429)より低く、選手のシーズン平均(.462)を大きく下回った。第一回WBCの日本代表が長打率.478、本塁打10本を記録したのに比べると、今回の代表がどれほど大砲不足であったかがよく分かる。
 長打率でシーズン成績を上回ったのは内川(.556)中島(.545)城島(.467)の3人だけ(打数1桁の選手は除く)。城島はシーズン成績が悪すぎるので、彼を除けば要するに内川と中島の2人くらいしか期待にこたえた選手はいないということになる。後はシーズンこそ下回っているものの.560を記録した村田、.500の稲葉がどうにか合格点だろう。小笠原、福留、イチローに加え、青木も長打だけ見れば期待はずれと言わざるを得ない。
 長打率が低かったのでOPSも0.764と低水準にとどまった。全16チーム内では9位で、韓国(0.775)よりも僅かながら低い。今回の日本代表がマネーボールのチームでなかったのは間違いないだろう。2006年の時がスモールボールを唱えながら実態はマネーボール的勝利(OPSは0.868で2位、1試合あたりの本塁打数は1.25本で4位、1試合平均得点は7.5点で1位)だったのに対し、今回は前回よりも(投手力に頼るという意味で)スモールボールっぽい勝利だったと言えるのだろう。
 もっとも打線だけに注目するなら、スモールボールで勝ったと言うと間違いになる。走者(安打-本塁打+四球)に占める盗塁+盗塁死の割合を調べると、06年は14.2%だったのに対して09年は12.2%。犠打も前回の8.5%が今回は5.7%に低下しており、前回よりスモールボール志向が低下している。また、盗塁+盗塁死の割合が高いチーム(日韓中パナマ)などの1試合平均得点が決して多くなく、得点力のあったメキシコ、オーストラリアなどの盗塁割合が低かったのを見れば、スモールボールは得点力増加につながっていないことは歴然。投手力の弱いチームにとっては意味のない戦術だろう。
 日本のRCは44.9で、実際の得点(50)はこれよりも多い。得点がRCを最も大きく上回っているのは韓国(差は12.9点)であり、韓国がかなり効率のいい得点をしてきたことが分かる。BABIPでは明らかに不運だった韓国だが、点を入れるという部分だけ見ればむしろ幸運だったのかもしれない。もちろん、日本も幸運だった。逆に最も不運だったのはベネズエラで、実際の得点がRCを9.3点も下回っている。
 個々の選手を見ると得点への貢献度が最も高いのはやはり中島で、RCは6.2だ。一部出場しなかった試合がなくてなおチームトップなのだから、これは褒められるだろう。もっとも06年の松中(9.0)、西岡(8.5)、イチロー(7.2)などに比べれば大したことはない訳で、要するにそれだけ09年の打線がダメだったことも示しているのだが。
 中島に次ぐのは村田(5.3)で、以下青木(5.0)、城島(4.9)、イチロー(4.4)となる。上で「期待はずれ」と書いた青木やイチローが随分上位に顔を出しているが、これは彼らがフル出場を果たした数少ない選手だったからに過ぎない。全体のレベルが低かったので上位に出てきただけとも言えるし、本来ならもっと高いRCを叩き出すべき選手たちである。小笠原(2.5)や福留(1.6)はRCで見ても期待はずれだった。
 結局、五輪より圧倒的にツキに恵まれながら、日本の打線は得点力で06年を大きく下回る結果に終わった。四球も含めた出塁率では頑張っていたのだから、課題が長打不足にあったことは明白だろう。もともと長距離砲の少ない選手選考をした段階からこうなる可能性はあったが、想定以上に一発の出ない地味打線になったことは確かだ。それでも7勝2敗で優勝を果たしたのは、上にも少し書いたが投手力が良かったからである。「水物」といわれる投手が、実力に恥じない実績を残したうえに幸運にも恵まれたため、それが優勝につながった。

 投手の話は次回に。

スポンサーサイト



コメント

非公開コメント

トラックバック