WBC第一幕・その2

 前回はWorld Baseball Classic"http://web.worldbaseballclassic.com/index.jsp"第一ラウンドでの各チームごとの成績をまとめてみた。今回は特に日本チームに絞って分析してみよう。
 まず復習だが、日本チーム全体の特徴は「打線は勝ち残りチームでもオランダに次いで下から二番目に低迷。投手力は上位に入っており、特に被BABIPの低さが目立つ」といったところだ。大雑把な傾向としては、五輪代表に比べて迫力不足の打線、優れた投手陣という事前の分析から想定された通りの展開と言えるだろう。問題は大雑把に見た時ではなく、細かく見た時の予想とのズレだ。
 今回もまず打線から見てみよう。左からOPS、RC27、BABIPだ。

中島 1.417 21.60 .500
城島 1.345 19.64 .444
村田 1.058  8.31 .167
福留 0.831  5.89 .400
内川 0.733  4.50 .200
青木 0.724  4.62 .400
イチ 0.571  3.09 .308
稲葉 0.375  0.96 .200
小笠 0.182  0.25 .111
岩村 0.182  0.00 .000
阿部 0.000  0.00 .000
平均 0.744  4.81 .286

 阿部は1打数なので正直参考にならない。他の選手も母数が小さいので本当はあまり重視しすぎてはいけないのだが、その中で敢えて課題を挙げるなら岩村、小笠原、稲葉の3人になるだろう。OPSが異常なまでに低く、RC27は3人とも1未満、岩村に至ってはゼロである。要するに彼らを9人並べた打線で試合をやっても1試合で1点未満しか取れないということだ。報道ではイチローの成績ばかりに言及されているが、彼らに比べればイチローはまだマシである。
 シーズン中の成績を見ると小笠原はOPSが0.962、RC27が8.22、稲葉はそれぞれ0.904と7.35だ。青木や内川もシーズン成績よりは悪いのだが、小笠原や稲葉ほど酷くはない。この二人については今までのところ完全に期待外れと言っていいだろう。だが、本当の問題は彼らより岩村。岩村はシーズン中でもOPSが0.732、RC27が4.83である。要するにこの後本領を発揮したとしても大したことはない選手なのだ。小笠原や稲葉は辛抱強く使えばいずれ爆発してくれるかもしれないが、岩村は調子を取り戻してもこの程度。果たして彼を使い続ける意味はあるのだろうか。守備要員としての役割しかないのなら、いっそ先発から外してもいいような気はする。
 一方、中島と城島は好調だ。特に城島は2008シーズンが酷かっただけに嬉しい誤算だろう。村田もほぼシーズン並みの活躍。福留はシーズンを上回っているし、チーム内では上位の成績を収めているものの、勝ち残り8チームの平均OPS(0.929)や平均RC27(7.49)は下回っている。正直、メジャーに行く前の福留だったら今の日本チームでは文句なしの4番候補だと思うが、メジャーに行って期待値が下がってしまったため、この程度の成績でもあまり叩かれなくなっている。
 一見して分かるのは大砲不在。今のところ村田と城島が大砲の役割を果たしているが、本来なら小笠原や稲葉もその役割を担わなければならない筈だ。青木と内川はもう少し出塁率を高めるべきだろう(内川はまだ5打数しかないことには注意)。スモールボールをやるにしても出塁しなければ何もできないのだが、第一ラウンドの日本の出塁率は.342。勝ち残り8チームでこの数字が4割に達していないのは日本とオランダだけだ。一番打者のくせに出塁率.286のイチローや、絶不調の岩村といったメジャー組の使い方も再考の余地がある。
 盗塁は中島、片岡、イチローが各1回成功。犠打は中島が1回やっているが、なぜ今大会で最も好調な彼に犠打をやらせたのか不思議でたまらない。中島は四球を選ぶ能力もある(四球の数は3と福留の4に次いで多い)し、スモールボールをやるとしても彼以外にやらせるべきではないだろうか。併殺を恐れているのかもしれないが、勝ち残り8チームの中には4試合で7併殺のベネズエラ、3試合5併殺のキューバなどがいる。前回も述べた通り、今のところスモールボールチームが勝ち残っているという傾向は見られない。

 次は投手。左からWHIP、DIPS、被BABIPだ。

渡辺 0.00 3.20 0.000
涌井 0.50 2.20 0.200
ダル 0.60 2.00 0.111
杉内 0.60 3.80 0.000
岩隈 0.94 3.01 0.182
馬原 1.00 3.20 0.333
藤川 1.00 3.70 0.200
岩田 1.00 4.20 0.000
松坂 1.50 7.45 0.300
田中 3.00 3.20 1.000
山口 3.00 7.70 0.500
平均 0.96 3.76 0.207

 投手は打者よりさらに母数の小さい選手が多い。例えば田中は1/3回、山口は2/3回しか投げていないし、岩田と渡辺も1イニングのみ。そこそこ投げているのは先発三本柱の岩隈(5回1/3)、ダル(5回)、松坂(4回)くらいだ。また被BABIPの異様な低さを見ても分かる通り、第一ラウンドの日本投手陣はかなりツキに恵まれていた。この3試合で実力を測るのは実は難しい面がある。
 無理を承知で敢えて分析してみるなら、まず先発の中では松坂の不調ぶりが気にかかる。WHIPはともかくDIPSで7.45はシーズン中(3.98)と比べても格段に悪い。韓国戦で打たれた本塁打の影響が大きく出ているだけだというのは分かっているが、ダル(2.00)や岩隈(3.01)が勝ち残り8チームの平均(4.22)よりいい成績を残しているだけに問題だ。ここまで奪三振が1つと、ダル(6)、岩隈(5)より圧倒的に少ないのも懸念材料。国際球に慣れている筈の松坂がまだ調子を上げてこないのは、投手力に頼ったスモールボール展開を目論む日本代表としてはマイナスだ。
 中継ぎ陣はみなそれなりの成績なので安心していられるが、もう一つの問題は抑えの藤川。確かに松坂よりはいいのだが、シーズン中の成績(WHIPが0.74、DIPSが1.50)に比べるとかなり悪化した状態。たった2イニングの登板で判断するのも難しいことは確かだが、できるだけ少ない得失点で勝利を目指すスモールボールを行う場合は抑えの不調が致命傷になりかねないだけに気にかかる。彼の場合もまだ三振を1つしか奪えていないあたりが懸念される。

 さて、ここまでは15日に記した部分。ここからは16日早朝の試合が終わった後の記述となる。上の分析で不調と書いた松坂は、キューバ戦は絶好調。全86球のうち61球がストライクで、6イニングに8三振を奪うなど日本の勝利に大いに貢献した。藤川も2三振と、懸念されていた投手がいずれも良かったのはチームにとってはプラスだろう。チーム全体でもWHIPが0.94、DIPSが2.91と第一ラウンドよりさらに上向いている。
 投手が良かったので心置きなくスモールボールを追求できた模様。この試合、日本は2盗塁(成功1)と犠打、犠飛がそれぞれ1を記録した。このうち盗塁成功は得点には結びつかなかったが、犠打で2塁に進めた走者はその直後にセンター前ヒットで生還できたので、スモールボールは半分成功といったところか。相手のキューバは盗塁、犠打ともゼロであり、日本とは対照的だった。
 とはいえ投手陣に比べて相変わらず打線は酷い。小笠原、稲葉、岩村の3人は前よりは成績が上向いたものの、相変わらずOPSで.500以下と酷い有様。おまけにイチローまでOPSが.421、RC27が1.52と不調ぶりに拍車がかかってきた。チーム全体では比較的高いBABIP(.324)のおかげでそこそこ格好がついているものの、イチロー含めた4人が完全にお荷物と化し、青木、内川、福留も冴えない状態では、先行きも大変そうだ。スモールボールで勝ち上がるというより、スモールボール「しか」できないのが現状かもしれない。

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