WBCの出場選手が決まった。去年の五輪の時もやったので、今回も代表に選ばれた選手たちについてSABRmetric的な視点から見てみよう。まずは打線。今回はRC27以外にOPSについても数値を出す(一般にはRC27よりOPS=出塁率+長打率の方が有名だろう)。
選手 RC27 OPS
村田 10.16 1.064
内川 9.20 0.957
青木 8.51 0.949
小笠原 8.22 0.962
中島 8.21 0.940
稲葉 7.35 0.904
阿部 6.20 0.859
イチロー 5.39 0.757
川崎 5.11 0.748
福留 4.85 0.748
岩村 4.83 0.732
亀井 4.48 0.731
片岡 4.06 0.694
石原 3.85 0.676
城島 3.08 0.611
全選手累計のRC27は6.09、OPSは0.825となる。ちなみに2008年のNPB平均はRC27が4.43、OPSが0.726。MLBではRC27が4.85、OPSが0.754となり、日本のプロ野球よりメジャーリーグの方が打力では勝っていることが分かる。なおOPSの内訳を見るとNPBでは出塁率.328、長打率.398に対してMLBは出塁率.338、長打率.416。パワーの差が目立つ。
五輪代表と今回のWBC代表を比べると、今回の方が実は打力は貧弱だ。五輪代表の野手14人の選ばれた時点でのレギュラーシーズン成績を見ると、RC27で6以上が8人いるのに対し6未満は6人となっている。一方、今回の代表野手15人のうちRC27が6以上あるのは7人、一方6未満は8人いる。OPSを見ても「並の打者」と呼ばれる0.8超の選手は15人のうちやはり7人と半数以下だ。野手全員のRC27も五輪の方が6.32と高かった。
その代わり、今回の代表が力を入れていると思われるのが機動力。例えば野手全員の盗塁成功率は五輪の時が.703だったのに対し、今回は.735へとアップ。前回はいなかった盗塁率9割超の選手が一人(イチローの.915)出てきたほか、二桁盗塁を記録している選手6人のうち最も低い川崎でも.679とギリギリながら合格点(盗塁は3回に2回は成功しないと得点にマイナスの影響を与える)に達しているのも、足を使った作戦を実行する上では心強い。犠打要員は片岡(シーズン19犠打)くらいしかいないが、五輪時の宮本(半分コーチ)よりは出場機会がありそうだ。
要するに打線においては前より「スモールボール」向きの人材をそろえるのに力を入れたということだ。五輪チームが「人材はマネーボール、作戦はスモールボール」という自己矛盾に陥っていた反省から、こうした選択をしたのかもしれない。もちろん、コーチ陣がトチ狂ってマネーボール的戦術を実行したりしたら、五輪と同じ悲劇を繰り返すことになるのだが。
続いて投手陣。こちらも前回紹介したDIPSの他にWHIPも掲載する。WHIPはおおむね1イニングあたり何人の走者を出したかを示す数値だ。DIPSと違ってただの安打も含まれている。
選手 DIPS WHIP
藤川 1.50 0.69
山口 2.34 0.99
岩隈 2.35 0.98
馬原 2.42 1.03
ダル 2.50 0.90
杉内 2.57 1.01
田中 2.97 1.30
内海 3.13 1.27
小松 3.23 1.02
岩田 3.28 1.37
渡辺 3.78 1.30
涌井 3.88 1.29
松坂 3.98 1.32
なおNPBのDIPSは3.87、WHIPは1.31で、MLBはDIPSが4.28、WHIPが1.39となっている。野手のところでMLBの方が打力があると指摘したが、裏を返せば投手力ではNPBの方が優れていることになり、その点が数字でも明らかになったと見るべきだろう。WBCに出場する投手の累計DIPSは3.04、WHIPは1.14となっており、NPBの平均よりさらに優れているのはなかなか見事だ。
五輪の時の代表のDIPSは3.13で、その時より今回の投手陣の方がさらにいい。個別の投手を見てもDIPS3未満の選手は今回が7人(3以上は6人)なのに対し、五輪の時は4人(6人)しかいなかった。何より特徴的なのがセットアッパーで、五輪の際は3人のセットアッパー(藤川、岩瀬、上原)のうちDIPS3未満が藤川(1.61)しかいなかったのに対し、今回は藤川、山口、馬原の3人とも3未満。先発もさることながら、継投の信頼度を重視した様子が窺える(馬原の記録は母数が小さいので信頼度が今一つではあるが)。
今回の代表選出では過去の実績より今の体調を優先したようだが、SABRmetricsのデータを見る限りは「五輪代表よりスモールボール向きの人材をそろえた」ことが分かる。首脳陣が意図的にそうしたのであれば、それはそれでアリだろう。NPBがMLBより投手力優位である点から見ても、投手力に重点を置くスモールボール志向のチーム作りは自らの長所を生かす狙いがあるものと評価できる。ただし、短期決戦はスモールボールが有利だという証拠はどこにもないけどな。
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