宇宙太陽光発電

 日本宇宙エレベーター協会のサイトを見ると、なぜかガンダム00の感想がやたらと載っている。要するに宇宙エレベーター(作中では軌道エレベーター)が重要な役割を果たしている作品だから取り上げているのだろうが、単なる感想blogの一種と見なせるような言及もたびたび。まあ最近は企業もblogを使った様々な宣伝に取り組んでいる状態だし、アニメ作品を使って宇宙エレベーターに関する情報発信をしているのだと言えば会の設立目的にも反していないのだから、別に目くじら立てる必要はないのだろう。
 同協会のサイトにあるガンダム00の作品紹介"http://jsea.jp/story02-Gundam00"を見ると、作中には3本の軌道エレベーターが登場する。エドワーズなどは想定していないリニアトレイン利用の大掛かりなもののようだが、長さは5万キロメートルとエドワーズ型(10万キロメートル)よりは短めだ。それでも地球の直径(1万2000キロメートル強)の4倍くらいはある。
 特徴的なのは3本のエレベーターをつないで地球の上空を一周するリングの存在だろう。それも二つも。下の方にある低軌道リングは「内部に磁性流体を循環させて生じる遠心力で高度を維持」しているのだとか。wikipediaによるとこのアイデアはポール・バーチが提唱したものだそうだが、本来はエレベーターの全長を静止軌道より短く済ませることを目的にしたものらしい。ガンダムの軌道エレベーターは全長5万キロメートルと静止軌道より遥か上まで伸びているので、低軌道リングはあくまで補助的な存在にとどまっているのだろう。
 さらに高軌道リングには太陽光発電システムがある。太陽光発電衛星がこのリングにくっついており、そこで得られた電力を地上へと供給しているのだとか。高軌道リングの高度については説明が載っていないが、普通に考えれば静止軌道上にあると考えていいだろう(静止軌道ならエレベーターと同じ速度で地球を周回することで遠心力と重力のバランスを保つことができる)。高軌道リングの長さは約26万キロメートルに達する計算だ。

 さて、今回取り上げるのはこの太陽光発電について。こちら"http://unkar.jp/read/anime2.2ch.net/shar/1192372805"のレス555によると、ガンダム世界では太陽光発電システムの1日の発電量は1.2EJ(エクサジュール)だそうだ。と言ってもEJってのがどのくらいの発電量なのかよく分からなかったので調べてみたところ、意外な事実が判明した。それがこちら"http://en.wikipedia.org/wiki/World_energy_resources_and_consumption"だ。

「2005年、世界のエネルギー消費量は500EJで、うち86.5%が化石燃料の燃焼による」

 あれ、それってつまり2005年時点で化石燃料を使ったエネルギー消費が432.5EJあるってことか? そんでもってガンダム世界の太陽光発電は1日1.2EJ、365倍すると438EJ。2005年時点の化石燃料分とほとんど同じじゃないか。物凄く大掛かりな建造物を長い時間かけて建設した結果が、たったそれだけとは驚きである。さすが化石燃料、凄まじいエネルギー量だ…もとい、太陽光発電って意外と大したことないんだな。
 実際問題、太陽光はどの程度の発電能力を持っているのだろうか。地球大気表面に垂直に入射する太陽のエネルギー量を太陽定数といい、その量は1平方メートルあたり約1366ワット秒。1ジュールは1ワット秒なので、この数字は1366ジュール=1.366キロジュール(kJ)に相当する。1秒あたりこれだけのエネルギーが得られるということは、1日に直せば118022.4kJ=約118メガジュール(MJ)のエネルギーだ。それをさらに1平方キロメートル(100万平方メートル)まで拡大すれば、エネルギー量は118テラジュール(TJ)となる。
 1平方キロメートルで24時間に118TJのエネルギーを得られるのなら、1.2EJを得るには1万平方キロメートル強あればいい。長さ26万キロメートルの直線上に太陽光パネルを並べるなら、幅はたったの40メートル弱で済むわけだ。何だか1日1.2EJくらいならもっと簡単に発電できるような気がするのだが。
 もちろんこれは単なる机上の計算。実際には軌道リングが太陽光と垂直でなくほぼ平行になる場所ではエネルギーがほとんど得られないし、そもそも光を電力に100%変換できる太陽電池など存在しない。現在の太陽電池では変換効率は大体10-20%。量子ドット型太陽電池なるものを使えば理論上は変換効率60%以上を達成できるらしい"http://techon.nikkeibp.co.jp/article/HONSHI/20080930/158847/"し、ガンダム世界は今から300年未来の話なのでその程度の変換効率は実現しているだろうが、それでも100%は無理だ。
 発電衛星で発電した分が全て地上まで降ろせる訳でもないだろう。送電過程でもロスは発生すると考えた方がいい。そのうえで1.2EJの発電量なのだとしたら、軌道リング上にある発電衛星は上記の計算よりかなり大きいものだと考えるべきだろう。それでも2005年程度の発電しかできないのだから、地上における貧富の格差とか南北問題は全然解決できていないだろうな。その時点での世界人口にもよるだろうけど。
 もう一つ気になるのは、この巨大なシステムが稼動するまで人類がどうやってエネルギーを得ていたかだ。化石燃料の枯渇に対処するべくこのシステムを作ったらしいので、逆に言えば化石燃料はほとんどなくなっていたと思われる。入手するにも多額のコストがかかっただろう。それだけで全人類の需要を満たし、さらに太陽光発電システム&軌道エレベーターを建造できるだけのエネルギーを生み出すことが、果たしてできたのだろうか。
 化石燃料だけで無理なら他の燃料を使うしかない。参考になるのはこちら"http://en.wikipedia.org/wiki/File:World_energy_usage_width_chart.svg"のグラフ。現実世界においてOil、Coal、Gasといった化石燃料についでエネルギー供給の元になっているのは原子力、バイオマス、及び水力だ。ただし、水力はどのように水が流れているかによるのでこれ以上増やす余地はあまりないだろう。頼れるのはバイオマスと、そして何より原子力。
 原子力だけで現在の化石燃料分を賄おうとするなら、原子力発電所の数は現在の14倍強まで増やす必要がある。今、世界の発電所数は500基強あるので、これを7000基以上まで増やさなければならない計算だ。当然、放射性廃棄物も出てくる。これはこれで軌道エレベーターなみに脆い発電システムではなかろうか。どうやら未来世界は決してばら色ではなさそうだ。

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