宇宙エレベーター

 はやぶさに続いて宇宙関連。最近ちょっと興味を持って調べてみたのが宇宙エレベーターだ。実は昨年、日本宇宙エレベーター協会"http://jsea.jp/"なるものが設立されたらしい。「理論的には十分実現可能なものであり、近年の技術発展によって、手の届く域に到達しつつある」宇宙エレベーター(SF好きには軌道エレベーターという言葉の方が馴染みがある)についての情報発信などを目的とした組織のようだ。
 宇宙エレベーターに関する私の知識といえば、ロケットよりは安価に宇宙へ出て行けるが、建設に必要な素材が実在しないということくらい。だが、このサイトや、海外の研究者であるブラッドリー・C・エドワーズの記した「宇宙旅行はエレベーターで」"http://www.randomhouse-kodansha.co.jp/books/details.php?id=511"を読むと最近の状況がより詳しく分かり、なかなか面白かった。
 重要な転換点となったのは、カーボンナノチューブの発見(1991年)。鋼鉄やケブラー繊維でも宇宙エレベーター必要な強度は得られなかったのだが、カーボンナノチューブなら理論上はエレベーターを作ることができるらしい。素材という最大の障害を乗り越えられる目処が立ったことにより、残るのはテクニカルな問題に絞られる。その気になれば2029年には宇宙エレベーターを完成させられる、というのがエドワーズの主張だ。
 宇宙エレベーターに関する基本的な知識は日本宇宙エレベーター協会のサイト、特に豆知識"http://jsea.jp/SE-Knowledges"のところを見てもらうのが手っ取り早い。実は私も知らなかったのだが、宇宙エレベーターとは言わば「超巨大な静止衛星」。従って建造に際してはまず静止衛星軌道(地球表面から高度約3万6000キロメートル)まで打ち上げ、そこからカーボンナノチューブの紐を地上に降ろすという方法で建設されるのだそうだ。エレベーターは地面に建っているのではなく、空中からぶら下がっているのだと考えればいい。
 地上まで紐を降ろすと静止衛星は重力に引っ張られる。だから地球と反対側にも紐を伸ばし、そちらの遠心力と重力がつりあいを取れるようにする必要があるのだそうだ。単純に紐を伸ばした場合、必要な長さは約15万キロメートル。紐の先端におもりをつければ、そこまで長くしなくても必要な遠心力は得られる。実際のエレベーター計画では長さは5万―10万キロメートルというものが多いそうだ。
 エドワーズによれば、最初はまず長さ10万キロメートル、幅20センチメートル、厚みは新聞紙並みのカーボンナノチューブの紐を敷設するところからエレベーターの建設が始まる。上にも書いた通り、最初はロケットを使って紐を静止軌道まで上げる必要がある。静止軌道から重力と遠心力のバランスをとりつつ紐を下ろし、それが地球上にたどりつけば一応宇宙エレベーターとしての機能を果たすことができるようになる。
 続いて紐の幅を増やすための作業用の機械を取り付け、エレベーターを補強していく。作業機械を数百台登らせれば、紐の幅を厚くしてその強度を当初の20倍まで増やせる。一回につき20トンの荷物を持ち上げられるようになれば、実質的な宇宙エレベーターの完成だ。後はそのエレベーターを使って宇宙に様々な物資を持ち上げていく。もちろん人も上がれるようになるだろう。宇宙エレベーターにどのような施設が付随するかは上に紹介した「豆知識」を見てほしい。

 なかなか壮大な話だが、果たしてどの程度のリアリティがあるのだろうか。最大の問題は、やはり素材にあたるカーボンナノチューブだろう。理論上はエレベーターを製造できる強度が確保できることになっているが、現実に作り出されたカーボンナノチューブで必要な強度を達成できたものはまだない。おまけにエレベーターに使うためには長さが必要。実験室で成功するだけでなく、量産技術まで確立できて初めて現実味のある話になる。
 もう一つはコスト。確かに、毎回全重量の約95%を燃料に費やさなければならないロケットに比べれば、エレベーターは遥かに少ないエネルギーで大量の荷(ペイロード)を運び上げることが可能だろう。ただし、建造そのもののコストが別に必要になる。そのコストが高すぎで誰も負担できないようなら、やはりエレベーターは夢物語でしかない。
 エドワーズなどはコストを100億―200億ドル(約1兆―2兆円)と見積もっているが、論拠は不明。日本宇宙エレベーター協会の掲示板でも、本当にそのコストで済むのかどうかが議論の対象となっている"http://jsea.jp/ja/node/316"。そもそも未だ現実に存在していない素材を使う建造物のコストなど推計できるのか疑問だ。カーボンナノチューブの大量生産技術は確立したものの、かかるコストが天文学的なものになってしまったら、その時点で宇宙エレベーターは再びSF世界の存在へ戻るだろう。
 とりあえずカーボンナノチューブの技術発展を見定めるのが重要そうだ。本当にエレベーターに使えるカーボンナノチューブが現実に出来上がってからでも話は遅くない。建設に関するそれ以外の問題は、素材が目の前に持ち出されてから考えればいいのではないか。そう考えると、私が生きている間にエレベーターで宇宙旅行へ行ける可能性はエドワーズが言うほど高くはないと見なすべきだろう。もちろん、行くことができるなら大歓迎だが。

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