NFLの(スタッツの)歴史・その2

 承前。

・パスプレイ

 1920年代当時、アメフトでパスプレイというのは極めて珍しいものだったという。パス成功率は3分の1程度にとどまり、シーズンに1000ヤードも投げれば大記録になった(今なら3試合で達成できそうな数値だが)。1932年の時点でも1試合の平均パス回数はたった10.6回、成功したのはたった3.7回で獲得ヤードは53.2ヤードにとどまっていた。インターセプトはタッチダウンの倍以上、パッサーレーティングは26.3である。
 1試合平均のパス回数は30年代のうちに急増したが、それでも1940年時点で20.5回。t-formationが普及した40年代後半からまた増加を始め、53年には29.6回とかなり高い水準に達している。この数字は50年代後半と70年代前半に落ち込むが、その後は上昇傾向となり80年以降はほぼコンスタントに30回を超えるようになった。過去最高は94年の34.8回だ。
 1934年に31.6%と最も低い数値を記録したパス成功率は、30年代後半に上昇し38年には40.6%に乗せる。40年代前半は40%台前半にとどまったが、その後はじりじり上昇し54年に50.5%とついに50%の大台にたどり着く。だが、その後はほぼ50%を挟んで横ばいの時期が長く続いた。事態を変えたのは1978年のルール変更だ。
 イリーガルコンタクトを禁止し、OLのパスプロテクションに関わる制限を大幅に緩和したこの年のルール変更は、パスプレイを増やし、試合が点の取り合いになるようリーグが意図したものだった。スコアの低迷、ランプレイの増加といった流れを変えるべく、そしてまた対抗リーグとの競争力を維持するために打ち出されたこの施策は、現代NFLへいたる流れを作り上げた重要なものと言っていい。
 ルールを変えた影響はすぐ出てきた。80年にはパス成功率が56.2%と初めて55%を突破。その後も緩やかながら右肩上がりの傾向は続き、2004年には59.8%まで成功率が高まってきている。ウエストコーストオフェンスの普及などパスの成功率を高める戦術の広がりもあって、この数値はパス関連の中で最も改善が進んだ部門となっている。
 1試合あたりのパス獲得ヤードも基本的には時代とともに増えてきた。1938年には早くも105.8ヤードと6年前のほぼ倍の数値に到達。40年代前半は120-140ヤードを前後していたが、40年代後半のt-formation普及期にはやはり着実に増加し54年に211ヤードと初めて200ヤード台に乗せた。
 その後の推移はパス回数とほぼ同じ傾向を示し、73年にはいったん159.4ヤードまで低下。ルール改正で80年以降はずっと200ヤード台を維持している。過去最高を記録したのは95年の235.6ヤード。2005年の実績は217.9ヤードだ。

 パス関連の指標で時代とともにもっとも華々しく改善してきたのはインターセプト率だろう。戦前から活躍した有名なパッサーたちを見ても、たとえばCecil Isbellのインターセプト率は6.36%、Sammy Baughは6.78%、Sid Luckmanにいたっては7.57%である。Peyton Manningの現時点での生涯成績(3.00%)と比べれば、その差は明らかだ。
 1940年代前半までインターセプト率が10%を超えるのは珍しくなかった。33年には15.1%と最低記録をつけているし、44年にも11.1%という記録がある。当時のパスはsingle-wingからのパスプレイだった筈で、現在のQBが投げるパスとはかなり違うプレイだったうえに、46年に創設されるCleveland Brownsがラインにパスポケットを作らせるまでパスポケットという概念自体が存在しなかったことも影響している。
 40年代後半にそうした対応策が広まり、48年には一時7.08%まで改善。その後はしばらく横ばいが続くが50年代後半に再び改善傾向が強まり、65年には5.3%まで下がった。次に改善が進んだのはやはり78年のルール改正後で、83年には初めてインターセプト率がタッチダウン率を下回る水準まで改善。88年には4%を割り込むところまできた。過去最低は97年と2002年の3.05%だ。
 インターセプト率が下がる一方でタッチダウン率は上昇、と説明できればいいのだが、実は話はそう簡単ではない。1932年のタッチダウン率は4.14%。これは2005年の数値(3.91%)より高い。
 タッチダウン%がピークを迎えたのは40年代。43年には6.58%、47年にも6.33%を記録している。t-formationの普及期にはパスでタッチダウンを奪う率がかなり高かったことがわかる。その後、50年代から60年代にかけてこの数値はほぼ5%前後で安定する。
 変化が起きたのは70年代前半。タッチダウン率はほぼ1%低下し、4%前後を行き来するようになったのだ。74年には3.91%まで低下。91年には3.66とかなり低い水準を記録している。気がつけば1930年代の低かったころと似た水準まで下がってきたのだ。この数値に関しては78年のルール改正でも影響を受けた様子はない。
 パス関連の指標の中でも長期にわたって安定した数値を示しているのが、平均パス獲得ヤードだろう。single-wing時代の30年代にはときに5ヤードを割り込む年もあったが、30年代後半から数値が上昇し、40年代前半までは6ヤード台での推移が中心となった。Green BayのエンドDon Hutsonがタイミングパスを導入したのがこのころなので、それが平均ヤード上昇の一因かもしれない。
 この数値が次に急上昇するのが40年代後半。47年には7.22ヤードに乗せている。だが、時代に伴う変化はここで事実上終了。その後はずっと7ヤード前後の推移が続くことになる。62年の7.44ヤードが上限、74年の6.49ヤードが下限で、1945年以降の数値はすべてこの1ヤード未満の範囲に収まってしまうのだ。ここでも78年のルール改正はほとんど影響を及ぼしていない。
 Bud GoodeがKiller Statsとしている「平均パス獲得ヤード」だが、この指標を特別視する一つの理由としてこれだけ長期にわたって安定した数値を示していることがあげられるだろう。1945年以降ならいつの時代もほぼ同じ数値のため、異なる時代のQBについて実力を比較する際に使いやすい指標であることは確かだ。

 最後にパッサーレーティングを取り上げてみよう。そもそもこの数値が編み出されたのが1973年であり、それ以前のデータに当てはめるのは無理があることは承知しているが、それでも無理に適用してみる。すると、かなり滑らかな上昇軌道を描くことが分かる。
 1934年の18.85をどん底としてレーティングは急上昇。48年には61.99を記録する。その後は60前後で横ばいとなり、50年代後半からまた上昇軌道に乗って63年に69.23に到達。それからまたしばらく65を挟んだ水準でもみ合いを続けた後、78年のルール改正を受け79年に70台に乗せた。その後も緩やかな上昇が続き、2004年には82.83と過去最高を記録している。
 上昇の要因は時代ごとに異なるが、NFLにおけるパスが時代とともに進化してきたことは分かる。おそらくこれからもNFLのスタッツは変化を続けていくのだろう。

・コリレーション

 以上、時代とともに変化したスタッツを紹介してきたが、最後に一連のデータと勝敗との相関関係を見てみたい。といってもシーズンごとのデータなので単純に勝率と比較するのは困難。そこで、1試合平均得点との相関関係を調べてみた。得失点と勝敗との関連性の深さを考えるなら、この手法もあながち的外れではないだろう。

1試合ランプレイ回数 -0.480
1試合ラン獲得ヤード  0.099
平均ラン獲得ヤード   0.739
ランタッチダウン率   0.861
1試合パスプレイ回数  0.807
1試合パス獲得ヤード  0.857
パス成功率       0.701
平均パス獲得ヤード   0.901
インターセプト率   -0.705
パスタッチダウン率   0.355
パッサーレーティング  0.776

 歴史的に見ればランよりもパスの方が得点力との相関関係が全般的に高い。中でもやはり突出しているのは平均パス獲得ヤード。それに比べればパッサーレーティングは見劣りするというのが実情だろう。得点力を見るうえで平均パス獲得ヤードはかなり信頼性の高い数値だし、それは勝敗を見るうえでも同じだろう。

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