個人的な好みでsingle-wingの話をしばしば書いているが、それでは実際にsingle-wingが使われていた時代のNFLは今と比べてどうだったのだろうか。幸いにしてbballsports"http://www.bballsports.com/"というサイトには1920年から2002年までのNFL及び対抗リーグの記録がデータベース化されて残っているため、過去から現代にいたるNFLのスタッツを時系列で見ることも可能だ。今回はこのデータを元に分析してみたい。
ただし、このサイトに残されている数字のうち1931年以前のものは、実は当てにならない。NFLが公式記録を残し始めたのは1932年からで、それ以前は新聞などに掲載されていたのを取り込んだものであるためだ。新聞には全試合の記録が載っていたわけではなく、結果としてデータベース化されているのも一部のデータにとどまる。
従って、以下で見るのは1932年からのデータだ。分かりやすいものを調べるということでキッキングチームのデータなどは除き、スコアとパス、ランに絞り込んで分析してみよう。
・スコア
1930年代初頭のNFLは、現代より遙かに点の入りにくい時代であった。1932年、1試合に1チームが平均して上げていた得点はたった8.2点。今ならTDとFG一つずつであっさり凌駕できてしまうような数値である。もちろん、平均がこの数字なのだから実際はもっと低い点数に終わった試合もあった筈。完封試合も珍しくはなかっただろう。
だが、この数値はその後、急速に上昇していく。39年には15点台に達し、43年には19.5点と終戦前で最高の数値を示す。そして、この時点でNFLのスコアは実質的にもう現代と変わらないレベルに達してしまった。2005年の平均スコアは20.6点。現代並みの点の取り合いなら戦時中にすでに実現していたわけだ。
1試合平均得点が過去最高を記録したのは48年の23.0点。その後は基本的に20点を挟んでのもみ合いが続く。戦後、最も得点能力が低下したのは1977年の17.2点。この年はNFLにとって重要な分岐点になった年なので憶えておいて損はない。
・ランプレイ
1932年当時、1試合当たりのランプレイは33.7回だった。ただ、30年代トータルで見るとこの年はランプレイ回数が少なかった年。多い時(1936年)には1試合に41.4回ものランプレイが行われたし、それ以外の年も平均して37-38回くらいランがプレイされるのが普通だった。1990年代以降、この数値はほぼ28回前後で推移しているのを見ても、当時が圧倒的にランプレイ中心の時代だったことが分かる。
その後も1950年代初頭までランプレイは37回前後で推移する。この間にフォーメーションはsingle-wingからt-formationに変化した筈だが、ランの占める位置は変わらなかった。だが、50年代中盤から上下を繰り返しながら次第にランプレイの回数は減っていく。63年には29.8回とついに30回を割り込むところまで到達。対抗リーグのAFLがパスプレイを売り物にしていたことなどが影響したのかもしれない。
1970年代に一度、ランプレイが復権の時を迎える。1977年(また出た)には37.4回と戦後直後くらいの水準まで増加。一次華やかなパスプレイで賑わったNFLが、またもや地を這うようなランプレイの時代に後戻りしてしまったのである。これを受け、リーグは78年に大幅なルール改正を実施。その効果でランプレイ回数は急激に減少していく。80年代にはその回数は31回前後となり、89年には再び30回を割り込んだ。
ランプレイの回数が最も少なかったのは1999年の27.3回。スーパーボウルでWarner Brothersがフィールドを駆け回ったあの年だ。今もなおNFLのランプレイ回数は歴史的に見て極めて低い水準にある。
回数と異なり、ラン獲得ヤードの方は30年代がピークだったわけではない。1932年のラン獲得ヤードはたった110.7ヤード。36年には142.4ヤードまで伸びたものの、41年にはまた118.5ヤードまで低迷している。
ランの獲得ヤードが頂点を極めたのは40年代後半から50年代にかけてだ。48年には156.3ヤード、56年にも155.7ヤードを記録している。この理由は40年代後半になって1キャリー当たりの平均ラン獲得ヤードが伸びたのが理由。1932年から46年までほとんど3.2-3.4ヤード付近にとどまっていた平均獲得ヤードは、47年にいきなり4.1ヤードまで伸び、その後は現代にいたるまで4ヤード前後を維持している。
40年代に大きく変わったのはやはりフォーメーションだと思われる。single-wingを使っていたチームは40年代前半に急減し、一方でt-formationの利用が急増した。間違いなく、NFLの世界ではsingle-wingよりt-formationの方が効率よくランプレイを展開できたと判断していいだろう。あれだけ隆盛を極めたsingle-wingがあっという間に廃れていったのも、そういう理由があったすれば納得できる。
その後のラン獲得ヤードの推移は、ラン回数とほぼ同じ動きを示す。1965年に一度116.7ヤードまで落ち込んだ後、ランプレイ回数の増加によって1976年には150.7ヤードまで回復。ルール改正の後は再び減少へと向かい、1994年には104.3ヤードと史上最低を記録した。
長くなったので続きはまた。
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