さてオリンピックの野球。今回は攻撃の方だ。全試合が終了したので、最終戦まで含めたデータを使う。本当は出場各チームのRuns Createdを出して見比べたいのだが、日本以外の塁打が不明のため不可能。仕方ないので以下では分母を(打数+四死球+犠打)とした三振率、四死球率、本塁打率、BABIPを出してみた。
JPN .177 .098 .021 .261
KOR .171 .097 .024 .311
CUB .167 .122 .037 .328
USA .228 .117 .028 .300
CAN .225 .065 .023 .261
TPE .180 .112 .014 .254
CHN .297 .067 .004 .272
NED .276 .055 .023 .207
三振は少ない方から三番目、四死球を選ぶ能力は四番目といずれも真ん中あたり。問題はやはり本塁打率で、全体六番目、上位チームの中では最下位。加えてツキが作用するBABIPの世界でもやはり全体6位、上位4チームでは最低なのだから、そりゃ勝てない。さらに上位4チーム間の試合に限って分析すると以下のようになる。
JPN .194 .072 .017 .233
KOR .201 .103 .022 .298
CUB .182 .116 .035 .288
USA .258 .077 .031 .260
三振は引き続きマシな方だが、四死球を選ぶ能力は4チーム中最下位に低下。本塁打は最終戦の2発を加えてもなお9試合トータルより低く、上位チーム相手にさっぱり打てなかったことが分かる。そしてBABIPを見ても分かる通りツキのなさでも相変わらず他を大きく引き離してどん尻だ。このデータを見る限り、韓国とキューバが決勝に進んだのは極めて妥当な結果と言うしかないだろう。
(安打+四死球)を(打数+四死球)で割った簡易出塁率を見ると、日本は8試合で.310と全体5位。1位キューバ(.384)、2位韓国(.343)、3位米国(.337)に比べてこの点で劣ったのが打線不振の一因であることは確かだ。しかしそれよりも問題はやはり本塁打に代表される長打率だろう。他チームの塁打が分からないので横の比較はできないのだが、日本チームのシーズン中の成績と比べると一目瞭然である。
日本チーム全体のRC27を計算すると3.63。一方、野手で選ばれた14人の今シーズンの累計RC27は6.32だ。得点力がほぼ半減している計算である。RCは出塁率×長打率×打数だが、出塁率を見るとオリンピックが.307なのに対しシーズンは.369、長打率は.366と.474である。どちらも落ち込んでいるが、特に長打の方が激しい。四死球を選ぶ率はオリンピック.099、シーズン.095とむしろオリンピックの方が高いので、打率低下(それ自体は不運な面もある)に加えて長打の減少(これは打者の責任)が響いたと見るべきだろう。
15人の野手のRC27について、オリンピック中とシーズン中の成績を並べて記すと以下のようになる。
川崎 22.50 5.12
西岡 15.00 6.20
矢野 4.50 3.57
荒木 3.93 3.01
中島 7.84 9.07
新井 4.75 6.75
宮本 1.35 4.77
佐藤 4.35 8.08
阿部 1.23 5.23
青木 5.22 9.93
里崎 0.15 5.17
稲葉 2.54 7.65
森野 0.45 8.09
村田 0.62 8.79
川崎から荒木までの4人を除き、残りは全員シーズン中よりRC27が低下している。30打席を超える起用をされた稲葉、新井、青木の3人はいずれもシーズンを下回る成績。20―30打席使われた佐藤、阿部、西岡、村田、中島のうち、シーズンを越えられたのは西岡だけだった。シーズン中RC27が8を超えていた大物スラッガーたちは軒並みシーズンを下回る成績で、特に村田、森野あたりは悲惨としか言いようがない。あまりにも打てなさすぎである。
川崎と矢野は一桁打数しかしていないため、実際に活躍したと言えるのは西岡くらい。荒木はシーズンを上回っているとはいえ水準が低すぎる。それ以外ではかろうじて中島が大きな期待外れにはならなかったというところ。ただ、少ない打席の選手も含めてオリンピックでシーズンを上回ったのが福岡ドーム、千葉マリンスタジアム、甲子園、ナゴヤドームといった巨大球場を本拠地にする選手たちだったのは印象的だ。逆に小さな神宮、横浜や、ホームランの出やすいpark factorのある東京ドーム、西武ドームが本拠地の選手たちは、軒並みシーズンを下回る活躍しかできなかった。やっぱり松中や金本らを呼んだ方が良かったのかもしれない。
前回検討したピッチングスタッフの成績は、最終戦によって多少悪化した。それでも打撃陣よりずっと優れているのは間違いない。チームのDIPSは3位決定戦の8失点分を勘案してもなお2.66とシーズンの数値(3.13)よりは上。オリンピック参加8チームでもDIPSが2点台なのは日本だけだ。上位4チーム間の試合だけ見るとDIPSは3.63に悪化し、キューバ(3.53)や韓国(3.76)並みになってしまうが、それでも投手陣は金メダルを争ったこれらの国と同じレベルであった。
選手別に見ると3位決定戦で本塁打を打たれた和田、川上に加えてダルビッシュの成績も悪化し、岩瀬と並んでシーズンDIPSを下回った。特に和田は2.19悪化の5.88、川上は1.48悪化の4.90とかなり悪くなったものの、なお成瀬を含む過半数の6人はシーズンよりいいDIPSを記録している。悪かった投手にしても、本職でない中継ぎ(川上)や敗戦処理(ダル)の登板で成績が悪化したことを考えれば同情の余地がある。彼らの成績悪化は彼ら自身の責任に加え、そもそも選手選びの問題があったとも言える。
守備ではまたもG.G.佐藤の失策が話題になっているが、あれを含めても日本の失策は9試合で計6つ。キューバと同じで、中国、カナダ(7つ)より少ない。守備の出来を含めた被BABIPは.283で、8チーム累計の.285とほぼ同じだ。やはり上位チームの中では一番悪いが、それほど酷く足を引っ張ったとは言えない。問題は上位4チーム間の試合だけで見た被BABIPが.355とダントツで悪いこと(他チームは.235-.264)。失策数だけで説明のつく違いとはいえず、日本の守備陣に運がなかった様子が窺える。
投手は全体でもトップクラス、守備は全体平均。となれば敗因は明確だ。もちろん、打撃陣こそが責めを負うべきである。確かに不運もあった(BABIPの低さ)が、何より本塁打に代表される長打と出塁率で韓国、キューバ、米国の3強に勝てず、それどころか過去の自分たち(シーズン中の成績)にすら負けたことが大きな敗因だ。五輪で負けた最大の理由は打撃不振、特に長打率を引き上げられなかった「大砲」たちにある。確かに9試合という短い期間だと実力を出せない選手がいても不思議はないのだが、それでも彼らが敗因であることは間違いない。
で、その打線に次ぐ戦犯は守備でも投手でもなくコーチングスタッフだと思われるが、長くなったのでこの話は次回に。
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