ナポレオンと元帥たち・6

 ナポレオンの元帥評。今回はダヴーだ。デルダフィールドの描くダヴーは、よく言えば厳格な規律主義者、実際には厳格というレベルをはるかに超え義務のためならいくらでも血も涙もない冷酷な人間になれる人物として描かれている。こうした認識は当時多くの人々が抱いていたようで、セント=ヘレナで英国人医師O'Mearaもダヴーに対して(おそらくハンブルクにおける彼の苛酷な支配を理由に)批判的な言及をしたことがある。それに対してナポレオンは以下のように答えた。

「私は彼[ダヴー]の行いが悪かったとは思わない。彼は自分自身のために略奪したことは決してない。彼は確かに分担金を徴収した。しかしそれは軍のためだった。軍にとって、特に包囲されている時は、自らを養うことが必要だ」
Napoleon en exile, Tome II."http://books.google.com/books?id=LnYuAAAAMAAJ" p73

 一方、デルダフィールドによるダヴーの軍事的能力への評価はそれほど凄いものではない。「見事な戦略的才能を示し」たとか「有能で鳴る」などの表現はあるものの、元帥たちの中で随一といった表現は見当たらないのだ。この点はナポレオン自身の評価と一致している。

「フランスの第一級の将軍であるかどうかについては、彼[ダヴー]は決してそうではなかった。いい将軍ではあったが」
Napoleon en exile, Tome II."http://books.google.com/books?id=LnYuAAAAMAAJ" p73

 平均よりは上だがトップクラスではない、という評価だろう。こう書くと、ではアウエルシュタットのあの勝利は評価されていないのかと問う人もいるかもしれない。David Chandlerによると、ナポレオンはダヴーの戦いについて以下のように述べているらしい(おそらく元ネタはベルトランだと思われるが未確認。あくまで二次史料からの引用であることに留意していただきたい)。

「アウエルシュタット故に彼は歴史に名を残すだろう。アイラウでもいい働きをした。だが、ヴァグラムではせきたてられたにもかかわらず(中略)彼の遅さが戦闘初日でけりをつけ損ねた原因となった。(中略)彼はモスクワ[ボロディノ]でもミスをした」
Chandler "Napoleon's Marshals" pLVI

 ブリュヌと同様、ナポレオンは一つの実績だけでは判断しなかった。彼のダヴー評は、複数の戦いの結果を踏まえたものである。

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