週記・飛び火

 日記ならぬ週記である。

 対岸の火事がいきなりこちらへ飛んできた。Green BayとFavreの泥仕合は最終的にFavreをNew York Jetsとトレードすることで解決。まあこれは妥当な結論だろう。チーム側がRogersで行く方針を固めている以上、後になってしゃしゃり出てきたQBを異なるカンファレンスへ放り出すのは最も簡単な対応。Favre本人も他所でやらせてくれと言っていたのだからこのあたりを落としどころにするのが適当であることは間違いない。ただ、おかげでAFC東の情勢が変わってしまったのは困りもの。最大の問題はFavre、ではなくPenningtonである。
 FavreがいいQBであることは間違いない。Pro Football Prospectus 2008に載っている今シーズンのFavreの成績予想は獲得ヤード4032、パス成功率64.4%、TD/intは22/13、そしてDVOA23.6%となかなかいい数字である。某アメフト漫画なら、これだけの成績のQBがやってくればそれだけでチーム力が大幅に伸びるだろう。でも、残念ながらそうではない。アメフトは個人技ではなくチームスポーツだからだ。
 Favreの予想数値はあくまで彼がGBでプレイする前提に基づいている。ちなみにRogersの予想数値は獲得ヤード3729、パス成功率61.8%、TD/intは25/13だ。Favreより少し悪いものの、先発としては立派に仕事をしていることになる。DVOAだけ見るなら23.8%予想であり、実はFavreより上。ほとんど先発経験のないQBに対してこれだけ高い予想を出すのは、実はGBの他のオフェンス選手やスキーム自体が優れているからにほかならない。FavreやRogers個人の能力を示す予想ではないのだ。
 そう考えると、FavreがNYJに来たからと言って簡単に上記の予想を達成できる保証はない。いや、むしろFootball Outsidersのスタッフは"Favre at NY"についてもっと悪い予想を立てているようだ"http://www.footballoutsiders.com/2008/08/08/ramblings/6422/"。GBより弱いOL、リーグトップのyards after catchを記録したチームからリーグ26位のチームへの移籍は、Favreの予想について"not good"という結論を導いている。Jimmy Johnsonも「FavreはJetsの助けにはなるが、彼は救世主ではない」との記事を書いている"http://msn.foxsports.com/nfl/story/8423958/"。
 実際、FavreはPenningtonの代わりになる訳だが、果たしてPenningtonより間違いなく優れたQBだと断言していいのだろうか。体の頑丈さについてはそう言っても問題ない。先発の座に就いて以来、休まず先発を続けているFavreと、フルシーズンで先発したことが1回しかないPennington。結論は明白だ。だが、それ以外の点では必ずしもFavre>Penningtonとは断言しづらい。
 たとえばプレイオフ出場回数。Penningtonは先発の座をつかんだ2002年以降、6年間に3回プレイオフに出ている。彼が10試合以上先発したシーズンに限れば100%の出場率だ。一方のFavreは16年で11回のプレイオフ出場。怪我していない時のPenningtonは決してFavreに負けていない。もっとはっきりと数字が出てくるのは1プレイあたりリーグ平均をどの程度上回ったかを示すDVOAで、1995年以降の成績を見るとFavreが11.4%なのに対しPenningtonは14.1%。個々のプレイだけ見るのならPenningtonの方が上と言ってもいい。
 もちろんプロの選手は試合に出てナンボ。NYJの首脳陣が怪我の多いPenningtonより、年寄りでも頑丈なFavreを選ぶこと自体は妥当な判断だろう。だからといってFavreさえ入ればNYJの成績が大きく上回ると考えるのは期待しすぎだろう。Football Outsidersの計算によればこれでNYJの予想勝利数は7.2勝から7.6勝へ0.4勝上向いたとのこと"http://www.footballoutsiders.com/2008/08/07/ramblings/audibles/6430/"。プラス効果は期待できるが、やはりJJの言う通り「救世主」ではない、との結論になる。
 むしろ問題はPenningtonであり、NYJから解雇された彼を雇い入れたMiamiである。PFP2008によるとMiamiの先発争いが予想されていたMcCownの予想は獲得ヤード3114、パス成功率61.6%、TD/intが13/11でDVOAは-5.4%。John Beckに至っては2818ヤード、59.6%、16/13の-19.3%だ。もちろん、彼らがPenningtonに代わったからといって、それまで3.8勝予想だったMiamiがプレイオフ争いまで顔を出すとは思えない。だが、Penningtonの代わりにFavreを持ってくるより、McCown/Beckの代わりにPenningtonを持ってくる方が明らかにインパクトは大きい。
 結論。NYJの成績は去年より上回るだろうが、それはFavreがいなくても予想されたこと。プレイオフ争いに顔を出す可能性が少し高まった、という程度に考えておくべきだろう。問題はMiami。再建期のチームであり今年は完全安牌だと思っていたが、そこまで油断できる相手ではなくなった。AFC東の勢力争いに一番変化をもたらすのはMiamiのPenningtonではなかろうか。

 続いてアメフト漫画早売りネタバレ。一読した際には今週はそれほど拙い描写はないかと思ったが、どうも違和感が残る。それについて説明しよう。
 ショートヤードをQBスニークで取りに行くこと自体はおかしくない。Football Outsidersなどはショートの時にはランプレイの方がパスプレイより圧倒的に成功率が高いと主張しているほどだ。しかしそれは距離にして2ヤード以内の時。NCAAルールではXPはゴール前3ヤードから行われる。NFLなら当たり前とも言えるQBスニークも、NCAAルールで行われている試合であまりにも簡単に決まってしまうと「これでいいのか」との思いが浮かんでくるのだ。
 もう一つはゾーンブリッツの描き方。フィクションの技法として読者が忘れた頃にかつて使ったネタを引っ張り出すのは悪くない。でも、このゾーンブリッツにはどうも現実感が乏しい。そもそもブリッツ自体がパスラッシュではなくランサポートのために行われているのが問題だ。ランサポートブリッツであればQBにはあまりプレッシャーがかからず、おまけにハンドオフフェイクをしているので比較的余裕を持ってレシーバーを探すことができるはずだ。なのにあっさりゾーンブリッツに引っかかるというのはいかがなものだろう。
 ゾーンブリッツはホットレシーバーに投げるQBの裏をかく戦術だ。ブリッツを仕掛けてきた選手のゾーンは開いているから、そこに駆け込んだレシーバーにパスを投げれば問題なく通る、というQB側の思い込みを利用するのがキモ。だが、漫画に描かれたプレイはそういうものではない。単にダウンフィールドが見えていないQBのパスミスだ、と説明した方がすっきりするプレイである。物凄い選手ばかりを集めたチームと説明しているのに、そのチームのエースQBがこれでいいのだろうか。
 という訳でこの作品に必要なのは「これでいいのだ」と断言してくれる赤塚不二夫先生であることが判明した。合掌。

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