26人の行進

「ヴァンデ軍の1個中隊を指揮していた30歳のド=ボーリー夫人は、この交戦で注目を集めた。ド=ボーリー夫人を先頭にした彼女の中隊は味方の退却を援護し、本物の女戦士(アマゾン)のように戦った」
The Society of Military and Civil Writers "Wars of the French Revolution, Volume I" p147

 1793年、王党派が共和国政府に反旗を翻したヴァンデ地方では、共和国軍がシャレットに従うアマゾンに苦しめられていた。それから15年後、今度は共和国軍の後継者たるナポレオンの帝国軍がスペインのサラゴサでアウグスティナという名のアマゾン相手に苦戦することになる。シェヘラザードさんのサイト"http://www.geocities.jp/rougeaud1769/women.htm"に、この女戦士の話も紹介されている。
 そして現代。ここでもまた三色の花形帽章と鷲章旗の下に集いしつわものたちが「アマゾン」に苦しめられている。長谷川哲也氏やシェヘラザードさんのサイトには、デルダフィールドの「ナポレオンの元帥たち」を入手しようとした戦友たちの戦果報告(というより被害報告)が書き連ねられている。どうやらkonozama状態になった人々もかなりいたようで、だとするとamazon経由で本を入手できた私は幸運だったのだろう。

 原著を持っているデルダフィールド本だが、改めて日本語で読むとこれが意外に面白い。プロの翻訳家の手にかかると、原著者が小説家であることが良く分かるのだ。英語で読んだ時にはとりとめのない挿話がバラバラに並んでいるだけの印象が強かったが、日本語で読むとそれが読者を退屈させないため次々と新しい話題を提供する工夫であったことが窺える。これに比べるとグーヴィオン=サン=シールの回想録などはロジックはしっかりしているものの読んでいて辛い文章だろうなと思える。
 もちろん、小説的手法に優れていることと、内容の正しさとは無関係である。というか、予想通りだったが改めて読んでみてかなり間違いが多い。それもごく基本的な事実関係の間違いが。たとえばアスペルン=エスリングの戦いにおいてランヌがアスペルンを、マセナがエスリングを守ったと書かれているのだが、これは逆。wikipedia"http://en.wikipedia.org/wiki/Battle_of_Aspern-Essling"ですら間違えていないのに、なぜデルダフィールドはこんな勘違いをしたのだろうか。
 他にもライプツィヒ会戦においてメッケルンで戦っていたのがマルモンではなくネイになっていたり、ワーテルローで最初に壊走したのがバイラントのオランダ=ベルギー旅団ではなくナッサウ旅団になっているなど、細かい突っ込みはいくらでも入れられそう。元帥たちに話を集中しているため、他の将軍たちなどは有名どころでもほとんど名前の紹介だけに終わっている点なども、この時代に詳しい人にとっては物足りないだろう。
 もっともシェヘラザードさんもあとがきで書いているように、この本を読む際にはそうした細かいところは無視していいのだろう。これはあくまでナポレオニックとの接点がほとんどない人に分かりやすく紹介するための物語、という位置づけで考えるべき本だ。これを読んでさらにナポレオニックに関心を抱いてくれる人が増えればそれでOKなのである。
 幸い売れ行きはいい、というか良すぎ。200部はあっという間にほぼ完売し、追加はデジタル版として販売することになりそうだとか。自費出版のナポレオニック本に200人以上の人が関心を持ってくれたのだから、ナポレオニックファンとしては万々歳。むしろ私としても何らかの側面支援をするべきかもしれない。

 という訳で、次回からナポレオン本人による元帥評を紹介しよう。Chandlerの元帥本などにも皇帝による評価は載っているのだが、問題は引用元がはっきりしないこと。私が取り上げるのは引用元が明らかに分かるものだけに絞るつもりだ。彼らに元帥杖を与えた本人が、彼らをどのような目で見ていたのか、参考になれば幸いである。
 25人分を紹介するまで、今載せているジュールダンの回想録翻訳はしばらく停止する。ちなみになぜ25人分なのかというと、ナポレオンはペリニョンについては全く言及していないため。さすが元帥中最も無名な人物、セント=ヘレナで暇をもてあましていた陛下にすら無視されるとは只者じゃねえ。

スポンサーサイト



コメント

No title

シェヘラザード
心強いお言葉、ありがとうございます。アスペルン・エスリンクは、マッセナが「エスリンク大公」になったので勘違いしたのかもしれませんね。ペリニョンはウェブで調べても情報がほとんどなくて困りました。長谷川さんのカバー絵のおかげも大きいですが、思っていたよりも出足が伸びておどろきました。マルボもかなりいい加減らしいですが、ナポレオニックは基本書が絶望的に不足していますから、とっかかりとして抄訳だけでも紹介する意義はありそうですね。

No title

RAPTORNIS
ぼくも元帥本をAmazonで入手しました。用心のため、セヴンアンドワイにも注文していましたが、届いたというメールが来ました。
実は今、さらに別のAmazon相手に苦戦中です。どういうことかについて、いずれまたお話しします。
(ヒント ぼくは水産学部卒でアクアリストです)

No title

desaixjp
>シェヘラザードさん
どうやら増刷の可能性も出てきたそうで、おめでとうございます。ナポレオニック本に「増刷」なんて言葉が当てはまる時がやって来るとは想像もしていなかったので、まさに感無量です。こりゃ、私もがんばって側面支援しないと。
マルボは少し目を通しただけですが、今まで翻訳されなかったのが不思議なくらいよくできた「お話」です。ラサール将軍に関する逸話など、面白すぎて多分ウソが混じっているなと思わされるほどで。マルボは正直ではなかったかもしれませんが、文才はあったのではないでしょうか。

No title

desaixjp
>RAPTORNISさん
シェヘラザードさんのblogに報告した人でamazonからの入手に成功していたのはRAPTORNISさんだけでしたね。結構高いハードルだったのではないかと。
別のamazonってのは、南米にある川とかそのへんでしょうか。amazon流域の魚といっても私が知っているのはピラニアとピラルクくらいですけど。

No title

RAPTORNIS
本日、近所のセヴンイレヴンにて受け取りました。用心のためとはいえ、2冊購入してしまいました。もし、入手できなかった方がいらしたら、お譲りしようかと思っていましたが、増刷されるということなので、記念として手元に残しておくことにします。

>結構高いハードルだったのではないかと。
Amazon.co.jpにて、2年前からMike Robinson著のThe Battle of Quatre Bras 1815という本を注文しているのですが、いつも入荷が先送りになってしまいます。入荷数が少ないのでしょうか。Amazon.co.ukでは品切れ扱いなのですが。

>南米にある川とかそのへんでしょうか。
ピンポンです。ぼくは小学生時代からの熱帯魚ファンで、今でも家でアマゾン河原産の魚を2匹飼っています。具体的なことは、いずれまた…。
余談ですが、沖縄などの海にいるメガネモチノウオというベラ科の魚は“ナポレオンフィッシュ”と俗に呼ばれていますが、これは和製英名で、実際の英名はHump-head Wrassです。

No title

desaixjp
amazonでは私も注文したまま1年以上届かない本が2冊くらいあります。もう気長に待つしかないでしょう。
ナポレオンという言葉で検索した時に引っかかるものとして「ヒル」「ダイナマイト」などと並んで多いのが「フィッシュ」です。ネット上にある魚類の画像の中で、おそらく私が最も多数の画像を見ているのがメガネモチノウオでしょう。別にナポレオンフィッシュ自体には何の興味もないんですけどね。

No title

rot*on*li*ht
ペリニョン・・・・
長いこと日本語版ウィキでも無視されていましたね。
見かねてついページを作成してしまいましたが書くことがなくて困りました。

No title

desaixjp
Napoleon and the Marshals of the Empire"http://books.google.com/books?id=K5tyQIgif8MC"という本がありまして、ナポレオン本人と元帥たち26人の簡単な伝記が掲載されているのですが、ペリニョンの伝記はたった3ページ。もちろん全元帥中最短です。いやほんとに凄い元帥です。
非公開コメント

トラックバック