1813年秋

 Failure in Independent Tactical Command: Napoleon's Marshals in 1813"http://stinet.dtic.mil/oai/oai?&verb=getRecord&metadataPrefix=html&identifier=ADA293453"なるサイトを見つけた。米軍の少佐が1994年に書いた論文で、内容は題名通り。ウディノのグロース=ベーレン、マクドナルドのカッツバハ、そしてネイのデンネヴィッツにおける敗北が取り上げられている。
 論者の主張は、独立した指揮を執るのに必要なだけの幕僚組織が整っていなかったことと、戦役の様相が変化していたことに元帥たちもナポレオンも気づいていなかったために彼らは失敗した、というものだ。この主張はどこまで正しいのだろうか。
 そもそも戦役の様相が変化したという論者の主張自体に具体的な裏づけが見当たらない(最終ページにとってつけたように主張がなされているだけ)のが問題。他の部分には脚注もあるのだが、この主張をしているところには脚注すらない。これでは判断不能だ。幕僚組織が整っていなかった点については、少なくともウディノとネイについては具体的論拠が示されているのでまだ分かるのだが。
 逆に論者が否定した説として、元帥たちの能力不足というものがある。ただ、ここで論者が否定の論拠として示したのは、3人の元帥たちが過去22年間成功してきた、というものだけ。確かに彼らは一般的に見れば成功したキャリアを積んでいるのだが、軍の指揮官として成功しているかというとそれは微妙だ。マクドナルドはトレビアで敗北しているし、ネイはそもそも独立した軍の指揮官をほとんど経験していない。論者はポロツクでの勝利をウディノの功績に帰しているが、戦況を変えたのはウディノ負傷後に指揮を執ったサン=シールだとの説もある。
 もう一つ気になるのは参考文献のところ。一次史料より二次史料の方が圧倒的に多いし、一次史料でもフランス語のものより英語文献の方が多い。そもそもティエールの本を一次史料に入れるのはどうなんだろう。ジョミニの本も、本人が現場にいたのならともかく、1813年秋季戦役時点でロシア軍に転じていた彼の本を一次史料にするのは問題だ。逆に存在しないのが連合軍側の当事者による証言。論文の目的からするとそれほど必要性は高くないかもしれないが、フランス軍側だけの史料に頼ると一方的な見方になりかねない。

 とまあ色々と問題のありそうなところを指摘したが、実はこの論文の一番面白いのはこの論文を承認したMonograph Directorの名前。Robert M. Epsteinと言えばNapoleon's Last VictoryやPrince Eugene at Warなどの著者である。おそらく彼が件の少佐の指導教官で、Epsteinが得意としているナポレオンの書簡内容の分析に基づく議論をこの少佐も採用している。ナポレオンの書簡を見る限り彼はどのように戦闘を進めるかをきちんと教えていたが実行されなかった、との話が論文中に出てくる。
 同時代の書簡(命令書や報告書)を基に話を進めるのはやり方としておそらく正しい。ただ少佐が使っているのはナポレオンの書簡がほとんどで、ネイやウディノ、マクドナルドについては(参考文献を見る限り)回想録を使用している。フランスのアーカイヴまで足を運ばないと入手が難しい史料については手を抜いたと見るべきだろう。教官Epsteinがそれを許した、とも解釈できる。
 本職の学者が書く論文だったら、この論文は承認されなかったかもしれない。あくまで軍人が勉強を兼ねて書いたものだからこそ許されたのではないだろうか。

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