日記ならぬ週記である。
海外のサイトを見ると、NFLのディフェンス選手のプレイに対してしばしば「タックルの基本がおろそかにされている」との批判が見受けられる。タックルの際には顔を上げて相手を見るのが原則なのに、顔を下げて頭から突っ込んでいる。両腕で相手を包み込む(wrap)ようなタックルがなされていない。そして、こうした批判の大半が正当なものであることも確かだ。NFLの選手は自らの運動能力に頼り、基本をないがしろにしたようなタックルをすることがまま見受けられる。
ただ、選手側にも同情の余地はある。彼らは単にタックルすることだけを求められているのではない。彼らに求められているのはターンオーバーを引き起こすこと。頭から突っ込むのはヘルメットを相手の腕にぶつけてボールをこぼさせようとするためだし、彼らの両腕は相手の体を包むことよりもボールを叩き落すことのために使われるケースが多い。もちろん、単にいい加減なタックルをしていることも多いのだが、それだけではないことは窺える。
加えて、プロ・アマを問わず「いい加減でも構わないタックル」が必要とされる局面も存在する。ボールキャリアーの足止め効果が期待できる場合だ。アメフトではボールキャリアーがスクリメージラインを超えればディフェンス選手は一斉に彼の方へ向けて移動を始める(パスートという)。つまりタックルに行こうとしている選手は1人ではなく最大11人に達する訳だ。最初に相手に接近したディフェンス選手にとっては、後ろに続く味方が大勢いることを意味する。
その場合、このディフェンス選手はあくまで基本に忠実なタックルをするよう心がけるべきだろうか。できるときはそうするべきだが、体勢が崩れていたりブロッカーをかわす必要があったりして基本通りにタックルできそうにないケースもあるだろう。その場合、体勢を立て直すのに時間をかけていたのではボールキャリアーを捕まえきれない。体勢が崩れていても、場合によってはタックルが不可能でも相手の進路を妨害できるなら、一気に突っ込む方が望ましい。自分のタックルは失敗しても相手の動きを鈍らせ後続の味方を助ける効果が期待できるからだ。
つまり、チームスポーツであることを踏まえて行動しろ、という意味である。基本は大切だし、原則基本通りに行動すべきだが、チーム全体を考え自分が捨石となって味方を支援できる場合にはそのように動いた方がいい。いい加減なタックルをして相手に振り払われたとしても、それによって相手の動きは鈍り、その間に味方の他の選手が集まってきてくれる。結果として相手に大きなゲインを許さないことができる訳だ。
以上を踏まえてアメフト漫画早売りを読むと、作者がいかにアメフトのチームスポーツ的側面を無視しているかがよく分かる。最初にかわされたディフェンス選手たちは、たとえタックルしきれなかったとしてもボールキャリアーの速度を落とすことくらいはできた筈なのに、漫画の中ではその効果は皆無であったかのように描写されている。一方、主人公によるタックルが振り払われたシーンでは間違いなくボールキャリアーの速度が落ちた筈なのに、誰もパスートに来ない。
挙句にいちどは振り払われたディフェンダーがそこから立ち上がってもう一度ボールキャリアーに追いついてしまうという、物理的にあり得ない現象が生じている。ジャンプ漫画で現実の物理法則が通用しないのはいつものことだし、それはもう諦めるしかないのだが、それにしてもチームスポーツとしての側面を完璧に無視しているのは実に苛立たしい。漫画ではなくアメフトのファンで、なおかつこの漫画を楽しめる人ってのは、果たしてこの世に存在するのだろうか?
コメント
No title
確かにスポーツ漫画は経験者や熱心なファンには楽しめないものが多いです。私はキャプテン翼はサッカーではないと本気で考えていますし・・・・
逆に歴史漫画はどんなにフィクションが多くてもある程度楽しめるのにその差はどこにあるのでしょうか・・・・考えると面白いです。
2008/06/21 URL 編集
No title
歴史漫画も含めてですが、読者を楽しませる努力と工夫をどこまでしているかが一番重要でしょう。アメフト漫画は最近になって「頭の悪い展開」に走っているのが最大の問題。一方ナポレオン漫画はまだ笑わせてもらえるところが評価できます。
2008/06/22 URL 編集