所得と格差と平均寿命と

 某所で格差のない国ほど平均寿命が長いとの説があることを紹介していた。で、本当なのか気になったので集められるデータを使って思いっきり簡単に調べてみた。使ったのはWHOの平均寿命に関するデータと、wikipediaに載っている「国の所得格差順リスト」。さらに他の要因として考えられそうなものとして一人当たりGDPをwikipediaの「国の国内総生産順リスト」から引っ張り出した。
 所得格差はジニ係数で算出している。ジニ係数は0から1の間の数値を取り、0に近いほど格差は小さい。wikipediaには国連とCIAが出しているジニ指数(ジニ係数のパーセント表記)があるので、それを利用した。他にOECDによる調査もあるが、対象国数が少なすぎるので今回は使っていない。
 ジニ指数(国連)と平均寿命の双方でデータが取れる国・地域は125ヶ国であり、その相関係数は-0.470だった。格差が大きい国ほど寿命が短いという相関関係が存在する訳だ。ただしその係数はそれほど高くない。ジニ指数(CIA)と平均寿命の相関係数も-0.484(128ヶ国)と似たようなものだ。
 次にGDP。wikipediaにはIMF、世界銀行、CIAがそれぞれまとめた一人当たりGDPが出ており、しかもそれぞれ為替レートを使ったもの購買力平価ベースで算出したものがある。計6種類のデータだ。まず為替レートを使ったもので平均寿命との相関係数を調べると、IMFが0.599(177ヶ国)、世銀が0.606(178ヶ国)、CIAが0.596(188ヶ国)となった。いずれも似通った数値であり、ジニ指数よりは相関性が高い。
 しかしもっと相関性が高いのは購買力平価ベースで計算した場合。IMFなら0.659(177ヶ国)、世銀は0.654(178ヶ国)、CIAは0.631(191ヶ国)となる。ジニ指数と比べるとその相関性の高さは明らか。ま、この程度のことは私が指摘するまでもなく、たとえばこちらのページ"http://www2.ttcn.ne.jp/honkawa/1620.html"の一番下にグラフ付きで紹介されているくらいよく知られた話だ。寿命と所得とは相関性が高いのである。特に貧困国において。
 では格差より所得の方が寿命にとっては重要だ、という結論でいいのだろうか。貧困国まで含めればそうなるのは当たり前だが、所得が比較的高い国の場合もそれが当てはまるかどうかは気になる。実際、上のページのグラフを見ても、日本より一人当たりGDPの高い米国の寿命は決して日本より高くない。もしかしたら、所得の高い国では所得より格差の方が寿命に大きな影響を及ぼすのではないだろうか。
 そこで一人当たりGDP(購買力平価ベース)が5000ドル以上の国を対象に調べてみた。まずCIAの調査した分で計算すると、5000ドル以上の国におけるGDPと平均寿命との相関係数は0.536(105ヶ国)。貧困国を除くと相関性が下がる。さらに、CIAベースで5000ドル以上の国のみを対象にジニ指数(CIA)と平均寿命の相関係数を調べるとこちらは-0.623(74ヶ国)。なんと、GDPより相関性が高くなっているではないか。
 これはうまくいきそうだと思ったのだが、念のため他のデータも活用して調査したところそうともいえないことが判明。まずIMF調査のGDP(5000ドル以上)と平均寿命の相関係数は0.566(101ヶ国)、そのIMFベース5000ドル以上の国のジニ指数(こちらは国連を利用)と平均寿命の相関係数を調べると-0.561(68ヶ国)。あれ、GDPとほとんど同じではないか。
 世銀のデータを使うともっと拙くなる。世銀GDP(5000ドル以上)と平均寿命の相関係数は0.564(100ヶ国)、その5000ドル以上の国のジニ指数(国連)と平均寿命の相関係数は-0.509(65ヶ国)。ジニ指数よりGDPの方がより相関性が高くなってしまうのである。一人当たりGDP5000ドル以上の国だと、データ次第ではあるが全体としては所得も格差も同じくらい寿命と相関していると考えてよさそうだ。
 ではもっと金持ちの、一人当たりGDP1万ドル以上の国の場合はどうだろう。GDP(CIA)と平均寿命の相関係数は0.429(72ヶ国)、その1万ドル以上の国のジニ指数(CIA)と平均寿命だと-0.613(52ヶ国)。GDP(IMF)と平均寿命は0.509(73ヶ国)、ジニ指数(国連)と平均寿命は-0.511(49カ国)。そしてGDP(世銀)と平均寿命は0.437(64ヶ国)、ジニ指数(国連)と平均寿命は-0.607(44ヶ国)だ。これまたデータによって微妙に差はあるものの、全体に格差の方が所得より寿命と相関している傾向は窺える。
 結論。格差が寿命と関係しているのはおそらく事実。でも貧困国の場合はむしろ所得の方が重要。格差と寿命との関係が強まってくるのは、かなり豊かな国になってからだろう。

 最後に一言。使ったデータを見てもらえば分かる通り、そもそも対象年がばらばらだったりする。そういういい加減な調査なのであまり信用しないように。非常に大雑把な結論だと思ってほしい。

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コメント

No title

SLEEP
寿命については色々思うんですよね。
女性より男性が短命なのは生命体として女性がより強いから、みたいなのが一時期はやりましたが、喫煙や飲酒、兵役なんかの仕事やレジャーの影響が大きいですよね。
日本(およびその他先進国)とアメリカで言えば、国民皆保険制度の有無が大きいように思います。たしかにこれは格差ではあります。まあクリントン夫妻でも実現できませんでしたし、アメリカ人は国家に自分の財布を握られるのがそのぐらい嫌なんでしょうね。

No title

desaixjp
WHOのデータを見ると192ヶ国中179ヶ国で女性の方が平均寿命が長いので、女性の方が長生きと言っても問題ないのでしょう。ただ、今より出産時の死亡が多かった時代には、必ずしも女性の平均寿命が長いといえなかった可能性はあります。
男女の平均年齢差が大きい国の代表例はロシア(女性の方が11.3歳も長生き)。日本も結構差が大きく、全体で19位です。上位には旧ソ連諸国や韓国、日本など、自殺が多いといわれている国が目立っているような気がします。
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