狼猟兵

 グーヴィオン=サン=シールの回想録に目を通していたところ、不思議な名前の部隊が出てきた。Chasseurs-du-loup、英語に訳すとhunters of wolfだ。どうやらオーストリア軍の一部隊らしいが、それ以外には何の説明もない。これはloupという固有名詞を冠した猟兵部隊のことか、それともフランス兵はある種のオーストリア軍部隊をこういう名で呼んでいたのか。
 しばらく悩んだ結果、オーストリア側の文献を調べてみるに越したことはないと考えてカール大公のArchduke Charles' 1796 Campaign in Germanyを紐解いてみた。すると48ページ、1796年6月30日現在のオーストリア上ライン軍の中にde Loup Jagersという名前を発見。こりゃどうやら固有名詞らしい。
 続いてネットでLoup Jagerを調べてみると、見つかったのはこちら"http://www.napoleon-series.org/cgi-bin/forum/archive2004_config.pl?noframes;page=49;read=27407"。うーむ、さすがはNapoleon Series"http://www.napoleon-series.org/"掲示板、こんなマニアックな質問が平気で載り、それに平然と答える連中が大勢いるというのはお見事というか何というか。それにしてもChuquetのValmyは私も読んだはずなのだが、この部隊について書かれていたという記憶は全くない。やれやれ。
 当該部隊はそもそも1789年にオーストリア領ネーデルランド(現ベルギー)で集められた義勇兵部隊。当初はChasseurs Wallons(ワロン猟兵)という名で呼ばれており、その兵力はたった1個中隊(68人)だった。後に部隊が拡充され、1792年にフランス革命戦争が始まった時には指揮官であるルルー(Leloup)少佐の名を取ってChasseurs Leloupとも呼ばれるようになったそうだ。
 この部隊は20回の戦闘に参加。1792年から94年にかけてベルギーで、95―97年にはラインで、98―1801年にはイタリアで戦った。その後で当該部隊は解散し、士官たちの大半はティロル猟兵部隊に入ったという。灰色の制服で帽子はキャスケット(casquette)、武器はライフルを使用していたという。
 ルルーは1736年生まれというので、この義勇兵部隊が編成された時には既に53歳になっていた計算だ。部隊編成時は大尉だったがその後は順調に出世して最後は将軍の地位にたどり着き、1804年に死去したという。
 前に紹介したChasseurs Britanniques(元亡命貴族部隊)とは趣が異なるが、彼らもまたその出身地(ベルギー)から遠く離れて戦いを続けた奇妙な部隊である。国民軍が主役として登場してきた一方で、こうした傭兵的な部隊が存在し、国民軍と肩を並べて戦っていたこの時代ならではと言える。


 2月27日追記
 Bulletin et annales de l'Academie d'archeologie de Belgique"http://books.google.com/books?id=sZEEAAAAQAAJ"のp309にLe General Leloup et ses Chasseursという記事を発見。これを真面目に読めばChasseurs Leloupの歴史が分かる、のだろう。さすがにその気力は沸かないが。

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コメント

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RAPTORNIS
「猟騎兵」という単語はヴィゴ=ルシヨンの「ナポレオン戦線従軍記」を読んで知りました。柘植久慶の「ナポレオンの戦場」には騎兵の種類の一覧表がありましたが、槍騎兵と胸甲騎兵しかピンときませんでした。なぜ、騎兵にはいろいろな種類があるのか理解できず、それが却って興味を引きました。当時はフランス語を知らなかったので、漢和辞典を調べたところ、「猟騎」なる言葉があり、騎射のことだということでした。「猟騎兵」とは、馬上で射撃する兵種のことだろうと漠然と感じたものです。今から当時のことを思い出すと懐かしいです。余談ですが、「擲弾兵」について、かなりあとまで手榴弾を装備していたと思い込んでいました。

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desaixjp
私が最初に猟騎兵の名を見たのはおそらく森谷利雄氏の記事だったと思います。名称はともかく機能は軽騎兵というところで納得し、それ以上は追及しなかったような気が。まあそのあたりを気にし始めると「なぜ竜騎兵って名前になったんだ」というもっと深刻な問題に突き当たってしまいますから。

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シェヘラザード
騎兵の訳語は階級名と並んで頭痛ものです。かなり昔はユサールのことを「ひょう騎兵」と書いていたように思います。ユサールはユサールのままでええやんか、と思ってしまのですが、やはり、「軽騎兵」としておかないとまずいのでしょうねぇ。でも「軽騎兵」という一語のみであのドルマン姿の独特な騎兵を想像できるかというと、必ずしもそうではないだろうし……

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desaixjp
訳しようがないので私はユサールと記していますが、敢えて訳すならハンガリー軽騎兵でしょうか。ちなみにHussarの語源はセルボ=クロアート語の追いはぎに由来するとの説"http://en.wiktionary.org/wiki/hussar"と、ハンガリー語の20に由来するとの説"http://en.wikipedia.org/wiki/Hussar"があるようです。後者なら「二十騎兵」ってのが一番いい訳かも。
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