黄金虫

 セント=ヘレナにおける記録の中でベルトランのものはネット上には見当たらない、と以前に書いた。なぜ見当たらないのか。こちらの文章"http://www.time.com/time/magazine/article/0,9171,816496,00.html"を読めば推測できる。
 タイム誌の1952年5月19日号に載った「元帥と主人」という題名のこの記事を読むと、ベルトランは1844年に死去した時、自分の残したセント=ヘレナでの記録を娘に遺贈した。彼女はそれをフランス政府に渡し、彼女が死んだ25年後に公表するようにと伝えたそうだ。結果、この記録が歴史家の前に姿を現したのは1946年だった。
 この時点でベルトランの記録をネット上で見るのはかなり困難になる。google bookなどは多少でも著作権法上の問題がありそうなものはほとんど公開しようとしない。実際、元は1840年代に出版された本であっても部分的にしか見られないものもある。1946年以降に出版された本になると、著者が100年以上前に死去していたとしてもネットで閲覧できる可能性はかなり低くなるだろう。
 おまけに、ベルトランの本にはもう一つの、より根本的で厄介な問題があった。何しろその文章は以下のようなものだったのだそうだ。

"N.a. j. et. d. sa. sal. de bil une Ba; il. dde au Gm. sil sa. ce. q. c'e. C'une ma. de G. il d. dab. q. cest un bal. p. ses enf. Est ce p. ser. a desc. sur un remp; pen d'esp. p. un ing. sa f...."

 ベルトランと同じフランス人でもこの文章は読めないだろう。まさにエドガー・アラン・ポーの黄金虫の世界。これの解読に挑戦したのはポール=フルーリオ・ド=ラングルなる人物で、3年かかってどうにかこの暗号のような記録を読み解くことができたのだそうだ。要するに、現在出版されているベルトランの本は、実際はド=ラングルが書いたようなものだとも言える。これでは簡単にネットで読むことはできないだろう。
 となれば本を実際に購入する手しかないのだが、どうやら英訳されているのは全3巻のうち最終巻のみ。全てをそろえるならフランス語でということになるようだ。そこまでするつもりは毛頭ない。という訳でチャンドラーの元帥評の元ネタを全て調べるのは当分は不可能と考えた方がよさそうだ。
 ただ、ナポレオンの「最後の言葉」については新たな情報が手に入った。タイム誌の記事の最後の方に、こんなことが書かれていたのだ。

「1821年5月5日早朝、彼[ナポレオン]は叫んだ。『誰が出て行ったのだ?』そして言った。『軍の先頭!』」
"http://www.time.com/time/magazine/article/0,9171,816496-3,00.html"

 タイム誌は英語でAt the head of the Army!と記しているが、おそらく元はtete armee、あるいはそれと似た言葉だったのだろう。アントンマルキらの唱えた「先頭、軍」という台詞に関する裏づけが、一つ増えたことになる。

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コメント

No title

シェヘラザード
うわー、ベルトラン本の正体って暗号書だったんですか。これでは探しても見つからないはずですね。こういう状態だと、ベルトランの記録は但し書きつきで引用、ということにしないとだめみたいですね。

No title

desaixjp
暗号というより一種の速記だったのかもしれません。読む側にとっては同じですが。ちなみにabebooksで見ると英訳本だけなら結構安く入手できそうなので注文してしまいました。ベルトラン本より、ネットでも見つからず古書でもなかなか見当たらないモントロン本(英訳)の3、4巻の方が入手は難しいかもしれません。
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