仏蘭西弐拾六元帥

 シェヘラザードさんがDelderfieldのNapoleon's Marshalsを翻訳し、出版するらしい"http://blog.livedoor.jp/sheherazade/archives/51123002.html"。ナポレオンの元帥関連本は海外にはよくあるが、日本語のものはこちら"http://w3.shinkigensha.co.jp/books/4-88317-885-4.html"のようなかなり薄い本しかないのが実情。自費出版でも日本語で読める本が増えるのはありがたいことだ。
 元帥本によく紹介されているのが、ナポレオンが主にセント=ヘレナで語った「元帥評」だ。ペリニョンのようなマイナー元帥以外であれば、大概どこかに「ナポレオンは彼についてセント=ヘレナでかくかくしかじかと語った」という文章が載っている。時にはそれが元帥そのものの評価としてネット上で紹介されていることもある。
 しかし本当にナポレオンはそういう話をしたのだろうか。一体そのソースは何なのか。一般向けの元帥本には脚注がないことも多く、結果としてどこから引っ張ってきた話なのか分からないケースが案外ある。たとえばDavid Chandlerが編集したNapoleon's MarshalsにはChandler自身が序文で25人の元帥(除くペリニョン)に関するナポレオンの評価を紹介している。だが、ソースは載っていない。この本は脚注もある真面目な本なのだが、Chandlerは「全部の出典を記すのは面倒だからラス=カーズやグールゴーを参照してちょ(意訳)」としか書いていないのだ。これは困った。
 という訳で、Chandlerが紹介した元帥評の元ネタを探してみた。これが意外と面倒な作業。ネット上にはラス=カーズ本("http://books.google.com/books?q=editions:0-irLalQouKnN9JUlNF&id=5HEuAAAAMAAJ&hl=ja"とか"http://books.google.com/books?q=editions:0OFVKdxeBvBZ159rcyg&id=mYAuAAAAMAAJ&hl=ja")、オメーラ本"http://books.google.com/books?q=editions:0s1HqUR4UitcE6dwqB&id=DVg2AAAAMAAJ&hl=ja"、アントンマルキの本"http://books.google.com/books?id=rMMAAAAAYAAJ"、グールゴーとモントロンの共著"http://books.google.com/books?q=editions:0tp4Gn1G-zB30TSncXdjv0D&id=1roNAAAAIAAJ&hl=ja"などがあり、その中から見つけ出すのはかなり大変だ。
 しかもベルトランなどが記したセント=ヘレナの本はネット上では発見できず。Chandlerはベルトランの本からも引用しているようで、元ネタの分からない元帥も何人かいる。とりあえず分かった範囲で示してみよう。まず、完全にソースが判明したのは以下の17人。

オージュロー:Emmanuel-Auguste-Dieudonne Las Cases "Memorial de Sainte Helene, Tome Septieme." p306
ベルナドット:Barry Edward O'Meara "Napoleon in Exile, Vol. II." p364
ベルティエ:前半はLas Cases "Memorial de Sainte Helene, Tome Troisieme." p31、後半はO'Meara "Napoleon in Exile, Vol. I." p399
ベシエール:Gaspard Gourgaud "Talk of Napoleon at St. Helena" p245
ブリュヌ:Gourgaud, Charles-Tristan Montholon, "Memoires pour servir a l'histoire de France sous Napoleon, Tome Sixieme." p169
グーヴィオン=サン=シール:Gourgaud "Sainte-Helene: Journal inedit de 1815 a 1818" p71
グルーシー:Las Cases "Memorial de Sainte Helene, Tome Cinquieme." p447
ジュールダン:Las Cases "Memorial de Sainte Helene, Tome Sixieme." p420-421
ケレルマン:Las Cases "Memorial de Sainte Helene, Tome Septieme." p252
ランヌ:Las Cases "Memorial de Sainte Helene, Tome Second." p43
マセナ:前半はLas Cases "Memorial de Sainte Helene, Tome Second." p44、後半はLas Cases "Memorial de Sainte Helene, Tome Premier." p386
モンスイ:Las Cases "Memorial de Sainte Helene, Tome Troisieme." p280
ミュラ:O'Meara "Napoleon in Exile, Vol. II." p61-62
ポニアトウスキ:O'Meara "Napoleon in Exile, Vol. I." p191
セリュリエ:Las Cases "Memorial de Sainte Helene, Tome Premier." p387
スーシェ:O'Meara "Napoleon in Exile, Vol. I." p318
ヴィクトール:Gourgaud "Sainte-Helene: Journal inedit de 1815 a 1818" p89-90

 一部だけ分かったのが以下の2人

ネイ:前半不明、後半はGourgaud "Talk of Napoleon at St. Helena" p223
ウディノ:前半はO'Meara "Napoleon in Exile, Vol. I." p220、後半不明

 分からないのがダヴー、ルフェーブル、マクドナルド、マルモン、モルティエ、スールトの6人だ。ルフェーブルはグールゴー本に、マルモンはラス=カーズ本に似た言い回しが出てくるのだが、完全に一致するものは見当たらない。ダヴーはおそらくベルトランの著作に出てくるのだろう。スールトあたりはもっと簡単に見つかってもよさそうなのだが。
 で、このうち一つだけ大きな問題を抱えているものがある。ケレルマンに関する部分だ。Chandlerはヴァルミーの戦いにおけるケレルマンの布陣についてナポレオンが感想を述べたという書き方をしているのだが、実際にラス=カーズの文章を見ると実は大違い。

「私は自分自身、戦争において多分これまで存在した人間の中で最も大胆な人間だと思っているが、その私でもあれだけ危険に晒されていたデュムリエの陣地にはとどまれなかったに違いない。
Memorial de Sainte Helene, Tome Septieme"http://books.google.com/books?id=u1sRAAAAYAAJ" p252(仏語)
Memorial de Sainte Helene, Vol. IV. part the seventh"http://books.google.com/books?id=FHguAAAAMAAJ" p123(英訳)

 Chandlerは「あそこの陣地(post there)」としか記していないが、ラス=カーズの原文は明らかに「デュムリエの陣地(la position de Dumouriez)」となっている。つまりナポレオンがここで評価を与えたのはケレルマンではなくデュムリエに対するものだ。この引用はあまり適切だとは思われない。どうしてもケレルマンに対するナポレオンの評価を取り上げたいのなら、むしろ以下の文章の方が妥当だろう。

「この将軍は個人的には勇敢だった。しかし司令官に必要な才能は全く持たず、下手な部隊配置しかしなかった」
Memoires pour servir a l'histoire de France sous Napoleon, Tome I."http://books.google.com/books?id=VR02AAAAMAAJ" p48(仏語)
Memoirs of the History of France During the Reign of Napoleon, Vol. I."http://books.google.com/books?id=HQgBAAAAYAAJ" p50(英訳)

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コメント

No title

シェヘラザード
相変わらずすごい調査力ですね。感服します。ダヴー評はベルトランが出所みたいです。フランス語の「Dictionaire des marechaux du Premier Empire」にそう書いてあるのですが、ベルトラン本に限ってページ数の言及がないのは不思議です。ひょっとして孫引きで記事を書いた可能性もありますね。

No title

desaixjp
ベルトランの本のうちエジプト遠征に関するものはこちら"http://books.google.com/books?id=TLsNAAAAIAAJ"とこちら"http://books.google.com/books?id=41MQAAAAYAAJ"にありますが、Cahiers de Sainte-Heleneは見つかりません。どこかで見つからないですかね。
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