日記ならぬ週記である。
アメフト漫画早売りネタバレの前に日本語で読める某NFL雑誌について。現在、店頭に並んでいる最新号を見ると、中身はDallas特集だ。他の地区優勝候補についても書いているが、扱いはIndyが見開きでNEとGBは1ページ、その他は半ページ。結果的に大量のページを使ったうち、両カンファレンスのチャンピオンシップチーム用に使ったのはたった2.5ページ(Giantsはそもそも載っていない)にとどまっている。
正直言ってこれは仕方ない。未来を予想することは人間には不可能だからだ。雑誌の締め切り時点ではDallasが終盤に失速することまでは分からなかっただろうし、たとえそれが分かっていたとしてもunderdogのGiantsが勝利すると予想して雑誌を作るのは不可能だろう。NEの話はシーズン中にも散々取り上げたし、目先を変えてNFC第一シードの特集でもやってみようか、という判断はそれほど酷いものではない。外れたとしても恥じることはないのだ。
一方、どう見ても恥ずかしい記事もある。現在のNFLについてモバイルQB全盛だと言ってしまっている記事がそれだ。BradyがモバイルQBか? Manningは? Breesは? モビリティのあるQBとして知られているMcNairやCulpepperの今シーズンの成績はどうなっている?
そもそもこの記事中で「モバイルQB」とされているQBたちがどのような基準で選ばれたのか不明だ。何しろ記事ではFavreもモバQ扱いしている。ちなみにFavreのキャリアネットパスヤード(グロスのパスからサックを引いた分)は58769ヤード。一方ランは1786ヤードだ。ネットパスヤードに対するランヤードの比率を計算すると3.04%となり、今シーズン登録しているQBたちのうちキャリアパス試投が100以上ある74人の中で42番目。この雑誌の基準だとPenningtonもLeftwichもHasselbeckもモバQになってしまう。
もしかしたら編集部は「モバイルとはランで稼ぐQBのことではなく、サックを避ける機動性を持ったQBのことだ」と主張するかもしれない。ではその基準で調べてみよう。パス試投+被サックを分母、被サックを分子として計算するとFavreは4.77%で74人中11番目に少ない。なるほどこれならいいようにも思えるが、他のQBたちがまずい。最大の問題はClemensで彼の被サック率は10.99%と74人中72位。他にもWallace(66位)、Roethlisberger(65位)など、被サック率のやたら高いQBたちがモバQとして紹介されている。
実際には足が速くてよく走るQBはサックも多いのが一般的傾向。上の74人のQBについて被サック率とネットパス/ランヤード比率の相関性を調べるとプラス0.312となった。つまりパスに比べてランの比率が高いQBほど、サックを受ける率が高いという相関関係が出ているのだ。典型はCulpepperで、ネットパス/ランヤード比率が12.17%(平均は4.93%)、被サック率は8.47%(平均6.78%)となっている。CarrやLosman、Alex Smithも同じだ。逆の典型がPeyton Manning。ネットパス/ランヤード比率が1.72%で、被サック率も3.41%と低い。BreesやPalmerも同じである。
もちろん、例外的なQBもいる。例えばGarciaはネットパス/ランヤード比率が9.07%と平均より高いにも関わらず、被サック率は4.57%と平均を下回る。Bulgerはネットパス/ランヤード比率が1.39%と平均を大きく下回っているのに、被サック率は7.52%と高い。しかし全体的な傾向においてはモバQ(ランの比率が高いQB)ほどサックを受けやすいのが現実である。逃げ回ろうとするQBより、腰をすえてさっさと投げ捨てるQBの方が、サック回避能力は高いのだ。
ちなみに今シーズンは塀の中で試合に出られなかったVickは、ネットパス/ランヤード比率が37.28%とものすごく高いが、被サック率も9.75%とかなり高い。その意味では典型的なQBであった。
そういえばアメフト漫画でも「モバQが時代の流れ」とばかりにRBにQBをやらせていたが、先週からスターターQBが試合に戻ってきた。でも「骨を折っても試合に出る選手がNFLにいる」という理屈で腕を折った選手を戻すのはどうなのだろう。前にも述べた通り、私の記憶にある範囲では腕を骨折した選手は少なくともギプスをして出場していた。指の骨折とかだとテーピングだけで出てきた選手もいたかもしれないが、さすがに腕が折れてしまうと簡単にはプレイできない。スーパーボウル(シーズン最後の試合)でも、骨折したHarrisonは腕を吊ってサイドラインから試合の経過を見ていた筈。
ましてパスを投げるとは。いやもちろんやろうと思えばできるだろうが、健康な選手を出場させるよりはどう考えても不利。そもそも身体能力的には並みという設定の選手なのに、怪我しているかどうかを隠すことで相手に警戒させるというのが無理がありすぎる。
さらに細かいことを言えば怪我人がブリッツしてきた時に相手QBがボールを投げ捨てたのも意味不明。どうせその後でパントを蹴るなら相手がタックルできるかどうか見定めるためにわざとサックを受ける手もあるはずだ。あるいは相手チームのパントを怪我人がレシーブどころか触れることもできず、他の選手が慌てて取りに行く場面があったがこれもまた訳の分からないシーン。パントの場合、レシーブチームが触れていないのであればそのまま見送って蹴ったチームにカバーさせても何の問題もない。
要するに漫画的盛り上がりを演出するためリアリティを犠牲にしているのが今週号の話である。それはそれで漫画としては正しい。特に主要読者であり、おそらくアメフトなどほとんど知らないであろう日本の小学生向けの漫画としては。やっぱりこの漫画は「アメフト漫画」ではなく、あくまで「ジャンプ漫画アメフト版」なのである。
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