H5N1

 先日、NHKで新型インフルエンザに関するドラマ"http://www.nhk.or.jp/special/onair/080112.html"とドキュメンタリー"http://www.nhk.or.jp/special/onair/080113.html"が放送されていた。H5N1型の鳥インフルエンザが人間に感染する事例が増えており、いずれは新型インフルエンザへと突然変異を起こして世界的流行(パンデミック)をもたらすのではないかという話だ。
 インフルエンザのパンデミックに関して言えば、有名なのは第一次大戦末期に世界で流行したスペインフルー(スペイン風邪とも言われる)。アルフレッド・クロスビーの書いた「史上最悪のインフルエンザ」"http://www.msz.co.jp/book/detail/07081.html"は私も読んだことがあるが、その中で印象的だったのは米国西海岸の都市がインフルエンザに備えて既に流行に見舞われた東海岸に対応策を問い合わせたという話だ。返事は「棺桶をたくさん用意しろ」。流行のピーク時には棺桶の製造が間に合わず、死体がそのまま放り出されていたらしい。ドラマでも火葬が追いつかず冷凍庫に死体を運び込む場面があった。
 国立感染症研究所のQ&A"http://idsc.nih.go.jp/disease/influenza/pandemic/QA02.html"によると、スペインフルーの患者数は世界人口の25-30%または3分の1で、致死率は2.5%以上だったという。それでも全世界で4000万人から最悪1億人が死んだといわれており、足掛け5年にわたった第一次大戦の死者を上回る被害を与えた。その後で起きたパンデミック(アジアフルーと香港フルー)はさらに軽症で、死亡者数はスペインフルーより大幅に少なかった。
 では、今パンデミックが懸念されているH5N1型はどうなのか。WHOに報告されたヒトへの感染確定症例数"http://www.who.int/csr/disease/avian_influenza/country/cases_table_2008_01_15/en/index.html"は今年1月15日時点で症例350人、うち死亡217人。致死率は単純計算で62%になる。この数値がどのくらい恐ろしいかを知りたければエボラ出血熱と比較してみればいい。あれだけ恐ろしいといわれているエボラウイルスの致死率はエボラ・スーダンで50-70%、エボラ・ザイールで50-90%だ。H5N1型鳥インフルエンザはヒトに感染した場合、エボラウイルス並みかそれより少し低い程度の致死率に達するということになる。
 エボラウイルスの場合、基本的には血液や体液の直接接触によって感染すると言われている。空気感染はしないらしい。つまり、致死率は高いが感染しないよう注意を払うことで対処できる部分がかなりある。それに対してインフルエンザは飛沫感染が中心で、時には飛沫核感染(空気感染)もあると言われている。要するに感染しやすい病気だ。スペインフルーの時も大勢の人間が感染したが、一方で死亡率はエボラに比べればずっと低く「みんなが罹り誰も死なない」病だと思われていたようだ。
 研究者の中にはH5N1型のヒト感染について、WHOに報告されているのは特に重篤な事例だけであり、把握されていない軽症例が多数あるのではないかとの意見もあるそうだ。もしそれが事実なら致死率62%は氷山の一角だけを捉えた数字であり、実際はそんなに恐ろしくないことになる。しかし、最近出たこちらの記事"http://www.cbc.ca/cp/health/080116/x011623A.html"によると、過去の事例を研究したところ、把握されない軽症例が多数ある事態は考えにくいという結果が出たそうだ。H5N1型の異常に高い致死率は、ウイルスの破壊力をそのまま示している可能性がある。
 致死率60%で飛沫または空気感染するウイルスなど、考えうる限り最悪の恐怖である。スペインフルーなみの致死率でも社会体制や経済活動に深刻な影響が出るのではないかと懸念されているというのに、感染者の6割が死ぬ病気がパンデミックを起こしたりしたら、ドラマ以上の惨事、パニックになるだろう。むしろ小松左京の「復活の日」並みの事態を想定した方がいいかもしれない。まったくもってとんでもない話である。
 悲観的な話ばかりでもアレなので一つ付け加えておく。上の記事によればタミフルは一定の効果があるそうだ。

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