また陰謀論

 本日、たまたまテレビを見た時に、国会で議員が911陰謀論らしきものを振りかざしながら質問をしていた。真面目に聞いていた訳ではないので何を言っていたのか不明だが、テレビ用に用意したと思われるパネルの写真は陰謀論でよく見かけるもの。とほほ。
 横目で見ながら思い出したのが、しばらく前にUFOは実在すると主張していた政治家たちだ。これが我らの「選良」かと思うと父ちゃん情けなくって涙が出てくらぁ。私の昔の上司が「どの国であれ国民の民度以上の政治は持てない」と言っていたことまで脳裏に浮かび、暗澹とする。

 911陰謀論がどれだけトンデモか知りたければ奥菜秀次氏の「陰謀論の罠」を読めばいい。世に出回っている陰謀論について、一つ一つ丁寧に、かつ徹底的に、その議論がいかにお粗末なものかを指摘している。ただし、たとえこの本を読んでもビリーバーが宗旨替えすることはないだろう。ほぼリアルタイムであれだけの報道映像が流された事件に対してなお「WTCに飛び込んだのは軍用機」などという与太を信じている人間に、まともな理屈が通用するとは思えない。
 なぜそんなトンデモが信じられるのか。私には理解できないし奥菜氏も首をかしげている。陰謀論の大元に当たる陰謀論メーカーについては、元ホロコースト否定論者たちをはじめとした反ユダヤ主義者たちと関連があるのではないかと想定しているが、陰謀論を広めるプロモーターたちの動機はよく分からないと記している。実際、いくらブッシュ嫌いの人間でも、あの当時の報道や騒ぎを体験したうえで陰謀論に嵌るのはほとんど不可能に思えるのだが、そこんとこどうなんでしょうマーギュリスさん。
 自分が生まれる前の出来事について陰謀論を唱えるのであればそんなに不思議だとは思わない。何しろ自分は見ていないのだし、体験もしていない。であれば「本当は何かの陰謀だったのでは」と疑う人間が出てきてもまだ理解できる。だが、テレビで散々流され、ネットで動画がいつでも見られるようになった現代において、これだけ粗末な陰謀論に嵌ることができるのはもはや一種の才能だ。陰謀論向けに特別にチューニングされた脳を持っていないと難しいのではなかろうか。
 という具合に陰謀論をこき下ろしているのだが、かく言う私がこれまで書いてきたナポレオン関連の「通説に対する異論」も、実は陰謀論的な論理展開をしているものが多い。前回指摘したボロディノの戦いにおけるトゥチコフ軍団の配置についても、トール大佐らによる「陰謀」で公式報道に嘘が記されたと指摘されている。Coppensによる「ナポレオンはワーテルローの戦いでプロイセン軍の接近に気づいていなかった」説も、ナポレオンがセント=ヘレナで史実に反する話を記したという「陰謀」の存在が前提になっている。Hofschroerのようにウェリントンの陰謀を指摘する人もいる。
 そうした陰謀論と、911陰謀論との差は、陰謀の規模にある。トールが自分に都合のいい文章を公式記録に入れたり、ナポレオンがセント=ヘレナでほらを吹く程度のプチ陰謀ならやってやれないことはない。陰謀の実行にさしたる労力は必要ないし、そうする動機もある。だが、911陰謀論は膨大な数の関係者を巻き込まなければ実行できず、おまけに動機はとても変。要するに常識で考えておかしい話はやはりおかしいのである。それをおかしいと思わない人が国民の代表だというのは物悲しい事実であるが。

 奥菜氏の本には911陰謀論以外にもコベントリー爆撃、真珠湾、トンキン湾を巡る陰謀論を紹介している。中でも一番面白いのがトンキン湾に関する詳細な分析。存在しなかった北ベトナム軍の攻撃をきっかけに米軍が報復爆撃に踏み切った事件なのだが、陰謀というにはあまりに情けない展開が笑える。恐怖か興奮状態のため自分たちは魚雷攻撃を受けたと信じ込んでしまった米艦艇の報告もアレだが、事態が確定する前から早々に攻撃準備に踏み切った米国首脳部の暴走ぶりも素晴らしい。陰謀というより、奥菜氏の言う通り意図せざるでっち上げだと考えるべきだろう。
 もし大統領をはじめとした米国首脳陣に同情の余地があるとしたら、不確定な情報を元に決断を迫られた点だろう。トップはしばしば時間的余裕も必要な情報も得られないまま判断を下さなければならないことがあるし、神でない人間がその際に過ちを犯すこともあり得る。だが、このトンキン湾事件の際に、そんなに急いで報復をする必要があったかというとそこは微妙。むしろやる気まんまんのところに都合のいい誤報が入って暴発したようにも見える。イラクに大量破壊兵器があるという誤報を受けて米国が戦争に踏み切ったのも、同じような理由かもしれない。

 ただ、奥菜氏の本で一ヶ所どうかと思ったのは、米西戦争のきっかけとなったメイン号事件。「メイン号の爆発炎上は、アメリカ側の謀略であったことが、後に判明している」と書いているのだが、それは本当なのだろうか。
 あまりいいソースだとは思わないが、wikipediaのUSS Maine"http://en.wikipedia.org/wiki/USS_Maine_%28ACR-1%29"によれば、爆発の原因と考えられているのは石炭庫の自然発火か機雷によるものであり、機雷だとしてもその爆発は事故あるいは戦争を引き起こそうとしていたキューバの反徒によるものではないかとしている。爆発炎上自体を米国の謀略だとする意見はないようだ。
 爆発を利用してスペインに戦争をふっかけたのは確かに米国の陰謀と言ってもいいかもしれない。だがそれはトンキン湾と同様に「意図せざるでっち上げ」と見なした方がいいだろう。もちろん、wikipediaに載っているのがあまり信用できない話で、本当は米軍の謀略を裏付けるきちんとした証拠があるのかもしれない。でも、911陰謀論を信じる人がメイン号陰謀論を信じている(マーギュリス)時点で、私としてはメイン号爆発炎上米謀略説は採用したくないな。

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コメント

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zakio
こんにちわ。はじめてコメントさせていただきます。
single wing offenseについてお詳しいですね。
僕も興味があるのでお話を伺えるとうれしいです。

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desaixjp
はじめまして。私も大して詳しい訳ではありません。そもそも自分でやったこともありませんし、あくまでMonday Morning QBレベルの知識です。その程度の話でよろしければいつでもどうぞ。

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zakio
そうなんですか???
すごくお詳しいように思えます。
以前footballをplayしていらっしゃったんですか?
もしくは今でもplayしていらっしゃるんですか?

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desaixjp
やったことはありません。あくまで「見てるだけ」です。詳しいように見えるのは気のせいだと思ってください。single-wingについても基本的にネットで入手できる情報ばかりに頼っています。逆に言えばネットでかなりの情報が手に入れられるということでもあります。英語サイトを色々とごらんになるといいのではないでしょうか。
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