パワーランキング2

 承前。

 一般的なファンはギークランキングより専門家ランキングを好む。それではなぜファンランキングは専門家ランキングとギークランキングの中間にあるのだろうか。多くのファンが専門家のランキングが好きなら、ファンランキングもほとんど専門家ランキングと同じでなければおかしいのでは。前回の話を読んで、そういう疑問を抱いた人がいるかもしれない。
 これは説明不足が理由。ファンが専門家とギークの「中間にある」というのは、あくまで基準ランキング(つまり勝率順)との距離を比べた場合に中間的な距離にあるという意味である。専門家、ギーク、ファンの3者間を比較すると、結果は変わってくるのだ。前回と同じ計算方法で順位差絶対値の平均を見ると、専門家とファンの間は1.95、専門家とギークの間は2.52、そしてファンとギークの間は3.13となる。3種類のランキングのうち、もっともかけ離れているのはファンランキングとギークランキングだ。
 専門家ランキングはほぼ勝率順と同じだった。ギークランキングはそれぞれ独自性があり、相互にかけ離れているのも珍しくなかった。ではファンランキングの特徴はどのようなところにあるのだろう。おそらくキーワードになるのは行動経済学などで使われる概念であるヒューリスティクスの一つ、「代表性」であろう。
 友野典男の「行動経済学」によれば、代表性とは「ある集合に属する事象がその集合の特性をそのまま表しているという意味で『代表している』と考えて、頻度や確率を判断する方法である。これはある事象がそれが属する集合と『類似している』と考えてしまうこととも言い換えられる」(行動経済学 p75)のだそうだ。もって回った言い方だが、ここはファンランキングに関する具体例を挙げて説明しよう。
 ファンランキングと基準ランキング(勝率順)の間で最も順位差の絶対値が大きいチームはCincinnatiである。2勝6敗という成績はAtlanta、San Francisco、Oaklandと同じであり、基準ランクは27.5位となる。勝率順に忠実な専門家もこの事実を反映したランキングを作成しており、専門家ランクではCincinnatiは26.75位になる。ところがファンランクだとこれがいきなり19位に順位が跳ね上がってしまうのだ。
 なぜか。ファンがCincinnatiというチーム名を聞いたときに誰を思い浮かべるか考えてみればいい。まずはプロボウルにも選ばれたことがあるQBのPalmerであり、今シーズンMossに次ぐTDレシーブを記録しているHoushであり、獲得ヤードはMossの次でTV画面ではそれ以上に目立つChad Johnsonであろう。彼らは今年もまたいつものように活躍している。そう、ファンはCincinnatiについて考慮する際に、Cincinnatiという集合に属するQBとエースWRという事象がチームを代表するものと考え、そこからランキングを推測している、と思われるのだ。
 実際のCincinnatiは、パスオフェンス以外は崩壊している。ランオフェンスは進まず、ディフェンスはランパスともダメダメ。トータルの実力としては勝率並みの位置にいると考えてもそんなに不思議ではないのだ。だが、ファンはそう思わなかった。熱心な一部のファンを除けば、大半はそんなにCincinnatiの内情に詳しい訳ではない。彼らは自分たちの目によくつく一部の「事象」をチーム全体の特徴と同一視し、そこから判断を下す。だからCincinnatiのファンランクはかなり高くなる。
 ファンランキングと基準ランキングで格差が大きいものを並べると、そのあたりがよく分かる。New Orleansは基準ランク16位に対しファンランクは8位、San Diegoは基準ランク16位でファンランク9位、Chicagoは基準ランク23位でファンランク17位。いずれもプロボウラーを輩出するなどファンの目につきやすいチームが過大評価を受けている。逆に目立つ選手のいないCarolinaは基準ランク16位に対しファンランク22位、Buffaloも基準ランク16位でファンランク21位だ。「代表」として取り上げられる選手があまりいない、もしくは地味で冴えない選手であれば、チーム全体が実態以上に弱く見られてしまうのである。
 ヒューリスティクスとは「問題を解決したり、不確実なことがらに対して判断を下す必要があるけれども、そのための明確な手掛かりがない場合に用いる便宜的あるいは発見的な方法のことであり、日本語では方略、簡便法、発見法、目の子算、さらには近道などと言われる」(行動経済学 p66)。厳密な手順は踏んでいないし、そのため正確さなどに不確定要素が付きまとうが、手っ取り早く回答を見つけ出すやり方、といった意味だろうか。Cincinnatiの実力を測る際にTVのハイライトシーンにおけるPalmerとChadの活躍ぶりを使うのもヒューリスティクスだ。
 それに対し手順を踏んで厳密な解を得る方法はアルゴリズムと言われる。ギークランキングはまさにアルゴリズムの塊だ。そして専門家ランキングは、建前では「知識と経験」という名のヒューリスティクスで作られているように見えるが、実態は勝率順というアルゴリズムにかなり忠実に従っている。3種類のランキングでは、中間的な位置にあるのはやはり専門家ランキングであり、両極端がファンランキングとギークランキングだと考えられる。

 日常生活において、我々はいつも厳密なアルゴリズムに従って物事に取り組んでいる訳ではない。むしろ大半の行動はヒューリスティクスを使ったものだと考えるべきだろう。もしファンランキングが主にヒューリスティクスによって形作られているのだとしたら、それが一般通念だと見なしてもそれほど問題はあるまい。それに対し、アルゴリズム色の強い専門家ランキングやアルゴリズム一本槍のギークランキングは一般通念から離れているとも考えられる。
 ただしヒューリスティクスは「完全な解法ではないだけに、時にはとんでもない間違いを生み出す原因ともなってしまう」(行動経済学 p67)。一般通念は必ずしもチームの実力を忠実に反映しているとはいえない。実力を測るうえではファンランキングより専門家ランキングやギークランキングの方がアルゴリズムに従っている分だけ役に立つ可能性が高い。
 あとは使われているアルゴリズム自体がどのくらい実力を測るのにふさわしいかが問われる。専門家ランキングが依拠している勝率順は、NFLの場合は必ずしも当てにならない。チームごとにスケジュールが異なるうえ、試合数が少ないため様々な偶然の作用で結果がブレ易いからだ。一方のギークランキングは個別のアルゴリズムがかなり異なるため一様に評価することはできない。ただし、チームによっては多くのギークが似たような評価を下すこともあり、この場合はその評価の妥当性が高まると考えてもよさそうだ。
 ここではギークランキングがそれなりにチームの実力を示していると考え、一方でファンランキングがヒューリスティクスに基づく一般通念であると見なそう。その場合、実力に比して一般通念では「過大評価」されているチームと「過小評価」されているチームには、それぞれどんなチームがあるのだろうか。ギークランクとファンランクの順位差を使って調べてみる。
 突出して過小評価されているのはMinnesotaだ。ファンランク24位に対し、ギークランクは実に10位。負け越しているチームとしては随分高い。敗北した相手はPhiladelphiaを除いて勝率5割以上であり、しかも8点差以上つけられたのはDallas戦だけという「惜しい負け方」が高い評価に結びついた一因だろう。8つのランキングの標準偏差は3.04となっており、ギークランキングの中では平均的な散らばり具合だ。
 次に過小評価されているのはそのMinnesotaに勝ったPhiladelphiaで、ファンランク20位に対しギークランクは13.25位だ。こちらも負け越しているが、敗北したチームのうち勝率が5割を切っているのはChicagoだけ。そのChicago戦は3点差の惜しい敗北だった。一方、勝ち星の中には勝ち越しチーム(Detroit)から上げたものもある。標準偏差は2.6。多くのギークたちが高い評価を与えていることが分かる。
 逆に過大評価の代表例がNew Orleans。ファンランクは8位だがギークランクは17.75位にとどまっている。4連勝中とはいえそのうち勝ち越しチーム相手に勝利したのは先発QBの負傷で控えがプレイしていたJacksonvilleだけ。これではそれほど強いデータにならないということだろう。ただ標準偏差が5.35と大きいので、ギークランクもあまり当てにはならない。今後のスケジュールもかなり楽で、最終的には勝率でも8位くらいに上がってくる可能性はある。
 Baltimoreも過大評価が目立つ。ファンランク15位に対しギークランクは23.88位。勝った相手に勝ち越しチームは一つもなく、負けた相手のうち勝ち越しチームは2つだけ。これは評価が下がるのも仕方ないだろう。標準偏差は3.21と決して低くはないがNew Orleansよりは正確さが期待できる。スケジュール的にもAFCの3強(というかリーグ3強)との対戦が残っており、先行きは暗い。

 とまあランキングも見方次第では楽しめるという事例を出してみた。特にヒューリスティクスの実例とも言えそうなファンランキングや、個別のこだわりを見ることができるギークランキングはなかなか興味深い。ただ、専門家ランキングは別。正直言って見るだけ時間の無駄だろう。

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