RMA本

 「戦うコンピュータ」読了。昨年9月に発売された本なのでもしかしたら話は少し古くなっているかもしれないが、とりあえず現時点でのRMAについて具体的に記した本である。RMA関連本は多いが、この本は特に具体的なプロジェクトへの言及が充実しているのが特徴か。
 基本的には事例紹介(大半は米軍の例、RMAを本格的に推進しているのは米軍のみなので当然のことだが)であり、時間がたてば価値が薄れるという意味で際物的な本だ。読むのなら早いタイミングで読むべきだろう。最後にRMAがもたらす課題にも触れているが、一つを除いて当たり前の指摘なのでそれほど面白くはない。
 その問題になりそうは一つとは、兵士の負担が増えるというもの。情報共有によって最前線の兵士にも情報が与えられるため、かつては上官の命令に従うだけだった兵士たちも今後は情報を見て自ら判断することを強いられるわけだ。おそらくそのための訓練も必要になる。そこらへんの兄ちゃんをかき集めるだけでは戦争に勝てないどころか戦えなくなるかもしれない。
 フランス革命戦争以降、戦争の強弱は頭数で決まる時代が続いた。国民国家が強かったのも、イデオロギーなど効果的に頭数を動員できる状況を備えていたからだ。後には頭数より経済力を含めた国力トータルがものを言う時代になったが、それだけの国力を得られた国家は国民国家だけだったため、結果として「総動員こそ強さの源泉」という認識は残った。
 しかし、RMAの軍隊になればそれが変わるかもしれない。素人を大量に動員する軍隊でなく、数は少ないがプロで構成された軍隊が戦場で勝利をつかむ可能性が出てきたのだ。国民兵の時代が終わったというのはまだ気が早いが、変化の兆しは出ているのかもしれない。
 もう少し細かい内容についても触れておこう。一つは著者がたびたび指摘している「バラバラに入ってくる文章を頭の中で組み立てる」難しさをどう克服するかという課題。地図などを使って戦況をビジュアル化するのは、指揮官が判断を下しやすくするために必要な作業であり、RMA軍隊ではそのビジュアル情報が携帯端末を通じて個々の兵士にまで与えられるようになるという。
 だが、そこまで進んだのは最近の話。特に陸軍は保守的で、米軍ですら湾岸戦争のころまでは大きな机の上に地図を広げ、その上に敷いたトレーシングペーパーに敵味方の位置などを書き込んでいたらしい。ナポレオンが色つきのピンを地図に刺して敵味方の位置を把握し、ディバイダーで距離を測りながら作戦を練っていた時代からほとんど変わっていなかったのである。今から思えばびっくりだ。
 しかしもっとびっくりなのは兵站部門における「カンバン方式」だろう。イラク戦争における米軍は、何とよりによってjust-in-timeな補給を実行していたのだという。私は軍隊とjust-in-timeは縁遠いものだと思い込んでいたが、どうやら認識は改めなければならない。
 米軍がカンバン方式を採用したのは別にトヨタに敬意を払ってのことではなく、補給部隊の負担を減らし物資の無駄をなくして税金の無駄遣いを避けようという狙いらしい。税金の無駄遣いと言えば戦争そのものが壮大な税金の無駄遣いという気がしないでもないが、とにかく軍隊という組織においてすら効率性が要求される時代になったということ。
 マーチン・ヴァン・クレヴェルトによれば歴史的に見て軍隊の兵站は機能しないのがデフォルトだった。ナポレオン時代だけでなくそれ以前からずっと補給は現地調達が基本であり、第一次大戦時でもなおドイツ兵がパリ周辺で穀物の刈り取りをやっていたのだそうな。兵站が初めて兵站として機能し得たのは第二次大戦時の米軍なのだが、彼らはそこからさらに先へ行こうとしているらしい。
 RMAの軍隊においては、要請した補給物資が今どこまで来ているかも調べることができる。顧客が注文した荷物の配送状況をインターネットで調べるのと仕組みは同じだ。そんなに効率性ばかり追求すると、災害時にすぐトヨタの工場が操業停止するようにトラブルが発生した時にまずいことになるのではないかと思うが、イラク戦争の時は湾岸戦争時よりむしろ燃料補給は良かったらしい。
 いずれにせよRMA化の流れはなおも進展中のようだ。これとアウトソーシングの流行による戦争請負企業の増加という動きがどこまで進み、行き着く先に何が待っているのか、しばらくはそこに注目するべきなのだろう。

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