気候変動

 今回はかなり乱暴な「感想」だ。敢えて疑り深い目で見るとどんな光景が見えてくるかについて、ちょっと実験的に語ってみる。おそらく書いている内容には穴もあるだろうから、話半分というか10分の1くらいに読んでもらうのがいいだろう。

 Noah Smithが気候変動についてのエントリーを記し、それが邦訳されていた。昨夏の異様な暑さについては以前こちらで触れたが、正直ああいう経験をすると温暖化を否定する主張の説得力も猛暑とともに溶け去ってしまう勢いだった。だからSmithも「2023年は一番熱心な懐疑論者でさえも黙らせるのに役立った」と書いている。ちなみに海面水温は2024年に入ってもずっと異常な高さを続けている。船舶用燃料に含まれる硫黄の量削減に伴う航跡雲の減少で日光が増えたとの説もあるそうだ。
 とはいえ猛暑で「悪い情報源」が消え去ったわけではないらしい。右派は「最近になってグリーンエネルギーへの巨大な不信感(中略)を煽り立て」、左派は「馬鹿げた主張をする疑似左派的な情報を入手してしまいがち」だそうで、結果として政治対立に巻き込まれるのを嫌がる多くの人は気候変動への議論を避けるようになるのだとか。そこでSmithがやっているのが、気候変動に関するグラフを紹介して現状を説明するというもの。冒頭に「5つの重要な事実」と述べている部分が基本的に彼の結論だ。
 まず1つめの、気候変動が深刻になっているという話だが、これは2023年の特殊性を示すグラフをいくつか並べることで説得力を持たせようとしているようだ。確かに、繰り返しになるが昨年は異様に暑く、その数字が突出しているのは間違いない。ただしそれは例外的な出来事なのではなく、右肩上がりの傾向が伴っていることを示す数字として、気候に関連する「数十億ドル規模の災害」の推移も示している。細かい点はともかくとして、気候変動に伴って自然災害の増加という直接的な害悪が増えつつある傾向はうかがえる。
 続いて「気候変動は対処可能だけど、まだ未着手だ」という指摘。原文では(google translateによると)「気候変動は管理可能ですが、まだそこには達していません」となる。Smithは「排出量削減のための国家目標を設定したこと」や米国で「二酸化炭素排出量の少ない天然ガスへの転換が進んでいる」ことを指摘しており、つまり対応は始まっているがまだ課題は多いという主張だろう。終末論的シナリオがいくつか撤回されてもなおリスクは大きいと見ているようで、これまた基本的に同意する。
 3つ目は、欧米はもはや最大の問題ではないという指摘。ここでSmithはまず「世界の石炭使用による排出量が横ばいになっている」と指摘しているのだが、その下に出てくるグラフは「化石燃料による排出量」と書かれており、別に石炭に限っているわけではない。さらにその後で欧米では排出量が減っている一方、中国とインドでは増えているというグラフ、続いて石炭発電の建設に関するグラフを載せ、中国及び非OECD諸国こそが石炭火力を増やしているとの指摘につなげている。どうやらSmithは石炭こそ問題だと言いたいらしい。
 中印こそが二酸化炭素排出の主要国になっているとの指摘に異論はないのだが、個人的にはなぜこんな分かりにくいグラフを使うのかにちょっと違和感を覚える。特に石炭発電の建設についてのグラフは、左側が「400ギガワット」「建設中」「全世界」で、右側は「40ギガワット」「建設開始」「除く中国」とグラフの条件が異なっており、何を主張したいのか読み解くのに苦労するタイプのグラフだ。単にそういうグラフしか見つけられなかった、というのがおそらく最も考えられる理由だろうが、個人的にわかりにくいグラフに対しては騙しの意図が入っているのではないかと警戒するのが習い性なので、こういうものを見せられると話の信頼度がそれだけ低下する。
 次にSmithが最も力を入れて語っているのが、グリーンエネルギーは本物だという部分。紹介されているグラフもやたらと多く、もしかしてSmithが本当に言いたいのはグリーンエネルギーに不信感を抱いている右派に対する批判ではなかろうか、という感想を抱いた。で、この多数のグラフだが、増えた分だけ疑いの目を持ってみるとツッコミたくなるものも増えている。
 例えば最初の再生電力の成長経過だが、右端の成長率という数字が何を意味しているのかさっぱり分からない。グラフを見る限り年成長率でないことは間違いないはずだが、こういう何を主張したいのか読み解くのに以下略。続く「この数十年におけるもっとも迅速なエクサジュール」と題したグラフについては、絶対値ではなく世界全体の総発電量に占める割合で見た各発電システムの増加率を見せてもらいたいと思った。次のバッテリーが1年で3倍に増えたというデータになると、伸び率が大きすぎてデータ自体が疑わしく見えてしまうし、念のためググってみたがSmithが紹介しているグラフ以外にはこうした主張をしているものを見つけられなかった。次に出てくるEVの販売数については、一応記事があるので裏付けられるのだが。
 もう一つ気になるのはソーラーパネルの価格グラフだ。Smithは中国が石炭火力に頼っているのを批判しながら、一方でパネルとバッテリーの主要な製造国が中国である点を評価している。特にソーラーパネルについては「中国が大量に生産しているおかげで非常に安価で、実質的に無料だ」と褒めたたえているのだが、ではなぜ中国は安いパネルを使って自ら太陽光発電への大掛かりなシフトをしようとしないのだろうか。太陽光が「今や非常に安価になっている」のなら、敢えてグローバルな批判を受ける石炭火力を追加せずともよさそうなものなのに。
 Smithと真逆の指摘をしているのはこちらの動画。そこでは太陽光パネルを製造するために必要なエネルギーを太陽光発電だけで賄うことはできないと指摘している。3年動かせば太陽光パネルを製造できるだけの電力を生み出せるという計算式もあるのだが、それには「使用した機材やインフラの維持費、作成費、経費は入っていない」そうで、だとすると今の中国がやっているのは「安い石炭火力を使って安く製造した太陽光パネルを安売りする」ことかもしれない。石炭火力がなければそもそも太陽光発電を増やせなかった、という可能性はないのだろうか。
 とまあ再生エネについては疑問がいろいろ浮かぶが、最後に出てくる「排出量の削減に、脱成長は必要ない」という理屈には違和感はない。シュミルの「エネルギーの人類史」でも指摘されていたが、エネルギーの使用に手慣れてくるとヒトは省エネを進めるわけで、それがうまく進めばエネルギー消費を抑えつつ成長を維持することだってできなくはあるまい。デカップリングが再生エネによってもたらされているのか、それともより効率の良い化石燃料使用が理由なのかは分からないが、どちらにせよSmithの主張とは平仄が合う。
 というわけで今回はかなり雑な指摘をさせてもらった。あくまで個人の感想をまとめるのなら、最初と2番目、そして最後にはほぼ異論はないし、3番目も基本的な指摘はその通りだと思う。ただ4番目についてはどこまで信用していいのかよくわからない部分があり、また使われているグラフに関しても真面目に見ているとしばしば違和感が浮かんでくるものがある。再生エネルギー関連技術が進歩を見せているであろうことを否定するつもりはないが、それが幾何級数的に成長しバラ色の未来を今すぐもたらすかのように考えてしまうことには警戒感しか抱けない。
 やはり私個人としては、シュミルが指摘するように派手で耳目を集めやすい「新しいエネルギー源に過大な期待をかけるより、今現在利用できる手段をより効率的に拡大する方が、特に気候変動への対応を進めるうえでも望ましい」と思える。現状、再生エネ絡みの話は本当のイノベーションと投機的バブルとが混ざり合っている状態で、その実力が過大に見えているのではないかと疑っているからだ。もしそうではなく、全部が実力通りならその場合は「めでたしめでたし」で済む話だが、中身がほぼバブルであった場合に反動が来ることも考えるなら、もっと再生エネについては慎重な姿勢にとどめる方がリスクコントロールの面からも望ましいんじゃないだろうか。

 最後に気候とは無関係のグラフ。Turchinが載せている米国の10万人あたりの特許数に関するトレンドからの乖離が、過去に米国に存在していた永年サイクルとタイミングが合っているという話だ。まず1850年頃に底を打ち、1870~1930年頃まで高く、そのあと低下したが1980年頃にまた底を形成して再び上向いたという流れになっており、タイミングが完全に一致しているわけではないがエリート過剰生産と似た動きをしているのは間違いない。
 ただTurchin自身はこれが偶然の一致なのか、実際に関係があるのかについては「さっぱり分からない」としている。タイミング的には遅効性の指標に見えるが、これも単にそう見えるというだけ。それにしてもこういったデータを見つけ出すTurchinの能力にはマジに感心する。
スポンサーサイト



コメント

非公開コメント