中国バブル

 ウクライナの戦争ではウクライナ軍のアウディーイウカからの撤収が終わったもよう。ISWの19日の報告によるとロシア軍の前進はアウディーイウカを奪った後で「ドラマティックなほどに遅くなった」そうなので、おそらく新しい防衛陣地を用意したうえで撤収が行われたのだろう。退却という点ではウクライナの敗北となるが、4ヶ月の時間と多大な損害を踏まえるならむしろウクライナの勝利と主張する記事もある。
 この記事によると当初、両翼からの大掛かりな包囲を目指したロシア軍は、それがうまく行かなかったのを受けてより小さな範囲を包囲する作戦に切り替えたのだという。その結果、ウクライナ軍を退却に追い込むのには成功したが、その際に追撃をしようとしたロシア軍機が計6機撃墜され、さらに23日には2機目となる早期警戒機A-50を撃墜したとウクライナ側が発表している。もしかしたらウクライナ側が追撃を予想して罠を仕掛けたのかもしれない。
 とはいえ基本はロシアが国力でウクライナを押しつぶそうとしている流れに変わりはない。そのやり方が決してスマートとは言えない(軍事侵攻から2年でロシア軍の死者は7万5000人になったとの話がある)のは確かだが、総動員令を出した後のフランス革命軍のように下手な戦いでも数で圧倒すれば勝てるという考えなんだろう。加えて西側からの砲弾支援が滞っていることもあり、それが数で圧する策に寄与した可能性はある。もちろん、繰り返すがこうした戦い方はピュロスの勝利をもたらすだけだと思われるが。
 実のところ、ロシア側にとってはだらだらと出血覚悟で小規模な攻勢を続けるより、1793年にフランス軍がやったように総動員をかけて一気に数の優勢を確保した方がまだマシなはず。そしてそれをやる機会が訪れるとしたら3月の大統領選が終わった後になる。プーチン再選という選挙結果自体はもう決まっている(rigged)ので、その後にプーチンがどのような決断をするかによってこの戦争の様相は大きく変わる、のではなかろうか。ISWの24日の報告によると相変わらず動員は不人気らしいが。

 とまあ今週はウクライナの話は簡単に終わらせて、以下は最近かなりデジャヴを感じる中国の話。日本がようやく「失われた30年」を乗り越えて日経平均最高値を更新し、「もはや『バブル後』ではない」とはしゃいでいる一方、中国ではまさに30年前の日本のようにバブル崩壊しつつある、という記事が増えている。改めて忖度も遠慮もしないマネーの無慈悲な動きがよくわかる展開だ。
 中国のバブルを形作っているのがかつての日本と同じ不動産であるという点もデジャヴにつながっている。前に住宅在庫が1.5億人分という話を伝えたが、こちらの記事では中国に空き家や空室が30億人分あるという話を載せ、「14億人でさえ住みきれない」という元幹部の発言を紹介している。特に規模の小さな地方都市で価格下落が深刻らしい。
 こうした住宅価格の下落はどのくらい中国人の家計の懐に影響するのだろうか。こちらの記事では「フェルミ推定」を使って、実際にどのくらいのダメージが発生しそうかについて推測している。まず中国人を都市戸籍の6億人と農民戸籍の8億人に分け、都市部の平均世帯人数は3人、農村は4人として、それぞれ2億戸の住宅に人が住んでいると計算。一方、過去20年で都市部に総数4億戸のマンションが建設されたそうで、それに合わせ都市部の古い住宅の半数(1億戸)が廃棄されたと仮定し、現在の中国の住宅は総数7億戸と推計している。もし1戸に4人が住むのなら28億人分というわけで、上の報道にある30億人分に近くなる。
 都市部に注目するのなら2億世帯で5億戸の住宅を抱えているわけで、1世帯あたり2.5戸の住宅を持っている計算となる。もちろん実際に住んでいるのは1戸だけで、1.5戸は投資用の不動産だ。マンション平均価格は2000万円程度と言われているが、都市部の平均収入は1人あたり200万円、夫婦共働きだと400万円となり、年収の5倍でマンション1戸が買える金額だ。年間2000万戸のマンションを建てるのに要した費用は400兆円となり、これはGDP推計値の3分の1に相当するそうで、不動産業がGDPの3割を占めるという説とも一致する。
 2.5戸のマンションを購入するのに必要な金額は5000万円、中国の1世帯あたりローン残高は500万円ほどになるそうで、つまり4500万円分は返済済みなのだろう。居住用ではなく投資用のマンションのみを見ると時価は3000万円となり、ローンを差し引いた2500万円が世帯の資産となる。もちろんこれは推定平均値であり、実際には多くの世帯は居住用のみを持ち、一部世帯が大量の投資用不動産を抱えていると考えるべきだろう。不動産バブル崩壊はそうした土地持ちならぬマンション物件持ちたちに最も大きなダメージを与えることになる。
 ではこの膨れ上がったバブルはどこまで弾ければ妥当な価格になるのだろうか。中国のGDPが1200兆円だとした場合、都市部の居住用マンション2億戸の適正価格は最大でもGDPの2倍という経験則を当てはめれば、1戸あたり1200万円となる。誰も住まない投資用のマンション3億戸は無価値だ。この場合、各世帯(平均年収400万円)は1200万円の資産と500万円のローンを抱えていることになる。資産価値がマイナスになるような事態にはならないものの、4500万円分はあったはずの資産価値が700万円と6分の1未満に急落する。
 記事ではこうした結末について「すぐにはそのような状態にならないが、紆余曲折を経ながら10年程度の時間をかけてそこに着地する」という見通しを示している。実際には日本の場合、15年ほどの時間をかけて下落しており、底値に近付いたからといってすぐに上向くとは限らないことも推測できそうだ。大きく膨らんだバブルが弾けると、結果として「失われたウン十年」になりがちなのは、ここまでたどり着く時間に加えてその後もなかなか資産価格が上がらないという別の問題も重なるからかもしれない。
 さらに中国についてはもう1つ、面倒な問題がある。日本の場合、株価の下落が1990年代初頭から始まり、バブル崩壊に至ったのは同後半になってからだったが、一方で人口減が始まったのは2000年代半ばとタイミングはずれていた。土地価格は人口が減り始める時には既に底に到達していたわけで、それは回復を遅らせる要因になったとしてもバブル崩壊のダメージを増やすことにはつながらなかった可能性がある。それに対して中国の人口減はまさに今始まっているところだ。株価下落とほぼ同時に人口減に見舞われたということは、不動産が底を打つまでに日本と違って人口増がそのダメージを抑制してくれる効果は期待できないことを意味する、というかむしろダメージを増やすように働く恐れすらある。
 おまけに足元では地政学的リスクの結果として中国をグローバル経済から急速に切り離そうとする動きが広まっている。特に顕著なのは2023年の直接投資が82%も減って30年ぶりの低水準になっていること。もちろん当局による改正反スパイ法の施行などが原因で、つまり自業自得なのだが、中国はこれから急速に市場の縮小に見舞われるリスクも高まっている。いくつもの悪条件が重なって襲ってきている真っ最中かもしれないのだ。
 それに対する中国側の対応も、むしろマネーの不信感を煽っているのが実情。例えば最近だと政府が機関投資家に対して「株式市場の取引開始直後と終了直前に株式を売り越すことがないよう指示した」との報道があった。またトップを挿げ替えたばかりの証券行政当局が空売り監視のタスクフォースを立ち上げたそうで、つまり数字の辻褄を合わせるために売らせないという外面だけを糊塗する方法を本格的に導入しようとしているらしい。以前から中国をはじめとした権威主義的体制の国々についてはGDPをごまかしている疑惑があったが、次は株価が対象になったのかもしれない。
 さらには中国経済に対してSNSで悲観的な発言をすることにまで目を光らせ始めたとの報道もある。そうやって実態を隠せばさらにマネーは逃げるだけであり、だから悪いニュースを隠そうとする動きそのものが「最悪のニュース」だという指摘も出てくるようになっている。実際、隠せば隠すほど外部は疑いの目を剥けるわけで、例えばこちらの記事では「山東省日照市莒県のある村で、一人の男が村民数十人をナイフや銃で襲い死傷させるという凄惨な大量殺人事件が発生」という、真偽不明な話までが出てくるようになっている。
 急速に悪化しているように見える経済状況は、大衆の不満を逸らすべく政府が一段と冒険主義に走るリスクを高めかねない。前々から権威主義国家の対外政策は結局のところ国内事情優先だと指摘しているが、中国がその例外である保証はどこにもないだろう。というか実際に中国企業の中には民兵組織の創設を行っているところがあるのだそうだ。1970年代以降、つまり改革開放が始まって以降はほとんど見られなかったこの行動が再来しているのは、一義的にはより権威主義的な方法で不満を抑え込もうとするのが狙いなんだろう。加えて将来の戦争に備えた予備役増という効果もあるとしたら、これもまた地政学リスクの増大につながる。
 そして地政学リスクが高まれば高まるほど、中国は世界経済からさらに切り離される。経済面で言えば彼らの行動は、ロシアと同様に自ら墓穴を掘っているのと同じに見える状況だ。例えばISWの19日の報告にはUAEの銀行がロシア人の口座凍結をしているという話が載っているが、そこまで行かずとも中国との取引を警戒する動きは、今のままだと強まりこそすれ反転しそうにはない。どうやらタタールしぐさとは、自国民を困窮させるリスクを高めてでもエリートの専制を強めようとするところに特徴があるようだ。
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