Super Bowl LVIII

 Super Bowl LVIIIはChiefsが連覇を達成。連覇は2003-04シーズンのPatriots以来だからその点では珍しさもあるが、実はそれよりも物珍しかったのはこのプレイオフにおけるChiefsのスケジュール難度は2007シーズンのGiantsを超えて最も厳しいものだった、という点かもしれない。確かにシーズンのSRSで見るとChiefs(3.7)より強いDolphins(4.4)、Bills(6.5)、Ravens(13.2)、49ers(11.8)を立て続けに打ち破っての優勝なのだから、滅多にない話なのは確かだろう。逆にいえば彼らはこのプレイオフで異様にツイていたとも考えられる。
 ゲーム自体はPurdyのEPA/Pが0.19、Mahomesが0.16となり、わずかに49ersの方が有利な程度。全プレイでも49ersが0.00だったのに対してChiefsが-0.02とリードは微妙で、要するにかなり均衡した試合だったことが分かる。ANY/Aだと49ersが7.70、Chiefsが6.37となっており、EPA/Pよりははっきり49ersの優位という数字が出ている。といっても実際にはターンオーバーは両チームとも2回で、ANY/Aほどの差があったとは言い難い。要するに点数だけでなく内容的にも非常にバランスの取れたゲームだったということで、そりゃOTにもなる。単なるゲームとしての評価をするならいい試合だった、と言える。
 ただGiantsの時とは異なり、結末に関しては特に目新しさがないこともまた事実。とりあえず5シーズンで3回優勝したChiefsが、これでDynastyと呼ばれるだけの要件を揃えたのは確かだが、戦国乱世を期待するファンにとっては「またかよ」感が強くなった。覇権を握るチームこそ代わったものの、21世紀に入っても相変わらずDynastyの登場を防ぐことができないあたり、戦力均衡を唱えるスポーツリーグとしてはいかがなものだろうか。あとPatriotsファンとして残念なことがあるとしたら、元PatsのThuneyが負傷で出場できなかった点だろう。
 なおこのゲームで2つのTDを決めたMahomesは、プレイオフにおけるPeyton Manningの記録を抜いたそうだ。まだ上にはFavre、Rodgers、Montana、Bradyが残っているのだが、来シーズンにはそのうち3人はまとめて抜いていてもおかしくない。さすがにBradyの記録はかなり遠い(まだ半分にも達していない)が、前にも書いたように強力なライバルがほとんどいないMahomesなら記録の更新は十分可能ではなかろうか。とりあえずPlayoff Chokerの名をほしいままにしている他の有力QBたちが汚名返上できるかどうかが問われそうだ。

 Super Bowl以外の話題としては、各種のアワードが発表された。まずはMVPだが、予想通りLamar Jacksonが選ばれた。そして今年もまたMVPを取ったチームが優勝できないという結果になった。連続記録は昨シーズンに途切れたものの、それでもハードルが高い状況は続いていると言える。あとOPOYに選ばれたのがMcCaffreyというのはどうなんだろうか。いや確かにRBでEPAプラスを記録したのは立派だが、それを言うなら200キャリー以上で彼より高いEPAを記録しているRBは他にもいる。
 コーチ陣以外ではPatriotsでEliot WolfがGM的な仕事を担うことが報じられた。ちょっと古いNFLファンなら名前を知っているであろうRon Wolfの息子だそうだ。そのPatriotsを去った後に次の仕事を見つけられなかったBelichickについては、Bradyが「驚きだ」と話をしていたという。またSteelersのオーナーはベテランQBをトレードで手に入れる可能性を否定しなかった。Pickettの成績を鑑みるなら当然の判断だろう。
 次のシーズンに向けては、ブラジルで開催するゲームにEaglesが出場することが発表された。さらに2025シーズンにはマドリードでのゲーム開催も行うという。こういった感じで米国と欧州に絞り込んだ国際展開を行うのがNFLの方針なのだろう。一方で今シーズン最後の不祥事、というわけでもないだろうが、AFCのChampionshipでスタジアム上空にドローンを飛ばした男が告発された。世にトラブルの種は尽きまじ。

 最後にアナリティクス関連で一つ。最近になってEPAの使い方にちょっと異論を提示する見解が出ていた。そこで紹介されているblogのエントリー、Slow Down Using EPA for Everythingで指摘されているのは、要するに最近のアナリティクスは何でもかんでもEPAを使いすぎではないか、という点だ。EPAという指標には当然ながら一定の特徴があるのだが、それをあまり考えずに使っている人が増えているのではないか、という話である。
 まず紹介されているのがダウンごとのEPA結果のグラフだ。場所は50ヤード地点、自陣25ヤード地点、そして敵陣5ヤード以内のケースが載っているが、細かい差はともかく基本は似通っている。見るとわかるが、最初の方のダウン(1stと2nd)では平均値と中央値が割と近い水準にあり、全体としても中央付近に結果が集まっている。つまりこれらのダウン数では結果に大きな差が出にくいことが分かる。一方、FDを取れるかどうかによって結果が大きく変わる3rdと4thでは中央値と平均値が大きくずれているし、全体として結果がプラスとマイナスに大きく分かれている。
 こうしたダウン数ごとの特徴に加え、EPAを選手個人の能力に帰する問題点も文中では指摘されている。そのうえで筆者が問題視しているのは、FDを取ったか取らないかによって結果に大きな差が出てくる点、上に紹介したようにシチュエーションによってEPAの数字が大きく変わる点、及び実際のプレイに基づいたデータは一種の選択バイアスをもたらしているのではないか(例えば優秀なチームほど敵陣でのプレイ回数が増え、彼らのデータがEPA全体に反映されやすくなるなど)という点だ。
 そのうえで筆者は、状況によってはEPAより普通にヤードを使った方が実情を表すこともあると指摘している。その実例として示しているのが、3rd downで5ヤード以内の時のEPA、獲得ヤード、及びTotal Adjusted Net Yardsを並べたものだ。これらのデータのシーズンごとの安定性を見ると、EPAは他の2種類に比べて非常に低い。FDを取れるかどうかによって数字が極端に変わるEPAは、実際にこのシチュエーションでどのくらい距離を稼ぐことができるかをヤードで見るよりも安定性に欠ける、という主張だ。
 EPAについてはEPA, Point Differential, and Over-Analyticsでも他の計測法との比較がなされている。ここでは勝率や得失点差といったシンプルな評価法と並べ、例えば今シーズンの勝率との相関係数で見ても、またシーズンを挟んだ安定性を見ても、さらには翌シーズンの勝率を占ううえでも、実はEPAより得失点差の方がわずかながら高い相関係数を示していることが指摘されている。これは得点、失点についても同様で、翌シーズンの総得点を知りたければ今シーズンのオフェンスEPAを使うより総得点を使った方が微妙な差ではあるが相関は高くなる。
 というわけでどちらも他の伝統的な分析法に比べてEPAがそれほど優れているわけではないと指摘している。その主張自体には異論はないのだが、一方でEPAの方が様々なシチュエーションに応用しやすいというメリットがあるのは否定できない。むしろ問題はシチュエーションに凝りすぎて母数が少なくなってしまうケース。これは確かに「使いすぎ」と言える状態だ。困ったことに最初のエントリーで分析に使っている3rd downで5ヤード以内というシチュエーションにもこの問題は当てはまる。25回という母数で、果たしてどれだけ意味のある数字が出てくるだろうか。ダウン数ごとのEPAのグラフなど面白いものもあるが、異論もあるような記事だった。
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コメント

brkn
この試合で非常に興味深い選択だと感じたのは、オーバータイムに入ってコイントスに勝ったSFが先攻(レシーブ)を選んだことでした。
プレーオフルールで
・必ず両チームに1回の攻撃機会があるので先攻逃げ切りは無い(オンサイドの場合はよくわからないので除外(^-^;)
・試合時間は決着がつくまで青天井となるので先攻が時間を使うだけ後攻の攻撃時間が減るということはない
となるので、レギュラーシーズンの「オーバータイムは先攻の勝率が高い」という条件は適用されないと思います。

その前提でSFは先攻を選択しましたが、私は
・先攻の得点状況に応じて後攻は「ギャンブルすべきか否か」を状況により迷いなく選択できる
ので、4回目のプレー選択のリスク勘案が減り(先攻はギャンブルしにくいが後攻はしやすい)有利そうに思いました。
SFの先攻を選んだ判断は否定的に感じました。

ただ、この試合の展開として思ったのは
・4Q終盤のKCのDLは疲れが見えてCMCのランも出ている感じだったので、休憩時間を与えず攻撃した方が有利と判断した
・終盤のドライブはKC O#だったので、コイントスのインターバルがあってもSFはD#を休ませたいと判断した
これは他の人のアイディアですが
・後攻を選んで先攻となる2連続のKCドライブの加点を防ぐのは困難と判断して先攻を選んだ
(SFもKCもそれぞれのオーバータイムのファーストドライブで同じ得点(7・3・0)だった場合、3シリーズ目のKC O#が得点すれば勝敗が決する)

詰まるところSFの選択、先攻を選ぶか後攻を選ぶか、どちらがより有利な選択だったと考えられるか?
結果的にはKC O#は1回のギャンブルを成功させ、決勝のTDを決めて勝負に勝ちましたが。
desaixjpさんのご意見、分析を知りたく思います(^-^;

desaixjp
Shanahan自身は両チームが1回ずつオフェンスを終えた後の「3度目」が取りたかったと述べているようですね。
https://www.nfl.com/news/49ers-kyle-shanahan-explains-decision-to-receive-ot-kickoff-in-super-bowl-loss-we-just-thought-it-would-be-better
確かに両チームが1回ずつオフェンスした後はサドンデスになるので、その場合はこれまでのOTルールと同じになり、先行有利です。
一方、どちらも1回ずつオフェンスを行うことになっているカレッジの場合、一般には後攻有利と言われていますが、実はそうでもないという研究があります。
https://www.frontiersin.org/articles/10.3389/frai.2020.00061/full
2013-19シーズンのカレッジでのOTを調べたところ、後攻を選んだチームの勝率は51%だったそうで、言われているほどの差はありません(Table 2)。
しかも両チームが1回ずつオフェンスを行った時点で決着がついた事例だけみるのなら、151試合のうち後攻が勝ったのは71試合で勝率は47%に低下します(Table 3)。
Shanahanの言い分、つまり1回目は先行を取り、サドンデスになる2回目以降も先行を選んだ方が実は有利だという主張には、一定の論拠があるのかもしれません。

brkn
ありがとうございます!!(^^)/
3回目のドライブがある場合は逃げ切れて有利だから、先攻を選択したということですね。
興味深いです。

先攻のドライブの結果は、2ptやPAT失敗をいったん除外すると
① 7点
② 3点
③ 0点
があって、
①の場合は3回目のドライブの可能性が高い(後攻がPATを成功させる可能性は低い)のでかなり有利
②③の場合は後攻側が「追いつくか・勝ち越すか」と「ギャンブルを前提としたプレーコールをするか・しないか」の選択肢がありそうで、有利
のように思いました。

教えていただいた記事を読むと、Shanahanも事前に決めてはいたけれど確信まではなさそうなニュアンスを感じましたが、選択のキモとなるのは、先攻でTDをとれる可能性・自信の度合で変わるのかな?と感じました(^-^;

カレッジのデータの方も興味深いですね。
なぜ後攻が有利な結果とならないのか、1回の攻防で決着の場合は先攻の勝率が高いのか、イメージする感覚(後攻の方が選択肢が広くて有利なのでは?)と事実としての結果のギャップは、もう少し考えてみたいと思います。
ありがとうございました(^^)/

brkn
この記事ですと、KCのReidはコイントスに勝ったららキック(後攻)を選ぶようMahomesに指示していたようですね・。・
現状では正解は無いのか?
めったに起こらないことが残念ですが、議題としてはかなり面白く思います(^-^)

https://www.theringer.com/nfl/2024/2/12/24070402/san-francisco-49ers-receive-kick-overtime-decision-kyle-shanahan-super-bowl

desaixjp
カレッジのOTルールは基本的にNFLと違いますし、プレイオフのOTルールも変わってからの実例が乏しいので、まだ定石が生まれていないということなんでしょうね。
ただシーズンのドライブ数とオフェンスのTD、FGの比率を見ると、49ersがおよそ3回に1回はTDを取っている一方、Chiefsは5回に1回程度です(FGは49ersが11.7%、Chiefsが18.5%)。
49ers的には得点力の高い自分たちの方が点数で相手を上回る可能性は高いから、先攻を取ることによる「相手がどうするか分からない」デメリットを気にするより、上に述べたようなメリットを取った方がいいと思ったのかもしれません。
逆に得点力で劣るChiefsの方はできれば49ersの動きを見たうえで対策を打ちたいと考え、だから後攻を選ぶつもりだったとも推測できます。
結果的にはシーズン中のさして高くないTD率にもかかわらずTDにこぎ着けたChiefsが勝利したわけですが、それは結果論でしょう。
今後、プレイオフでのOTが増えてくれば、そこから有利な選択肢が見えてくるのかもしれません。
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