フィクション動画

 随分と昔に呼んだ漫画の1シーンを動画にしたものがあった。個人制作でこうした動画が作れる時代になっているのだから大したものだが、同時に最初に読んだ時の感覚、つまり時代的にかなり異なるものが同じ画面の中に登場することについての違和感も思い出してしまった。そのあたりについて辻褄合わせができないか、ちょっと考えてみたい。
 当時、何より気になったのは機関銃と重装騎兵が同時に存在していること、というか機関銃に掃射されながら重装騎兵が防御側の砲台を破壊している点だ。乗馬にまで鎧を着せていたような騎兵が存在していたのは主に中世までで、16世紀になるとこうしたメン・アット・アームズは馬に鎧を着せない槍騎兵へと取って代わられるようになった。要するに火薬兵器が一般化すると重装騎兵はすぐに姿を消していったわけだ。一方、機関銃が実用化されていったのは19世紀の後半。重装騎兵とは300年ほど時代がずれている。
 同時代に存在したことがないため、機関銃が重装騎兵を相手にどのような効果を発揮したかについて厳密に考えることはできないが、機関銃が登場する以前から戦場における騎兵の役割がどんどん低下していたのは確かなようだ。ナポレオン戦争期には派手な突撃もあったがクリミア戦争では突撃が多大な損害をもたらし、南北戦争の頃には偵察などの方が主要任務となっていた。20世紀に入ってからも一部の歴史家は「騎兵には依然として未来がある」と語っていたものの、その予想は外れた。
 重い鎧をまとった重装騎兵はそもそも飛び道具の的になりやすく、そして薄い鉄板程度では火薬兵器の放つ弾丸から身を守るのは難しい。だから機関銃と重装騎兵が同じ戦場にいたとしても前者の圧倒的勝利で終わってしまうのは目に見えているし、であればそもそも重装騎兵自体が史実と同様に姿を消してしまっていると考える方が辻褄が合う……と考えたくなるのだが、ここではフィクションに都合のいい設定を作るのが目的。原作者が漫画の中で機関銃や自動小銃を登場させなければ他の描写との辻褄合わせも問題なかったのだが、今更言っても詮無い話なので、何とか手立てを考えよう。
 そもそもこの漫画の世界は、一度人類文明が滅んだ後の世界という設定だそうで、かつて存在した科学文明の遺品を発掘するなどして利用していたとある。ならば武器や防具についても発掘品を使っており、それが特殊な能力を持っていたと考える方がいいのかもしれない。例えば重装騎兵が着用している鎧が異様なほど軽い、という設定だ。これなら乗馬に着用しても動きは鈍らずに済むだろう。
 ただし軽量なだけだと防御力は変わらないだろう。実際、機関銃に撃たれて鎧に穴が開くシーンも動画内にある。そうなると機関銃を相手に密集して突進する騎兵はやはりどう考えても不利。機関銃も実は発掘品で数が極めて限られているから突撃が可能だった、という理屈も考えてみたのだが、動画を見ると他に自動小銃のように連発している銃を持つ兵もあちこちにおり、つまり弾丸をばらまくことができる武器が数えるほどしかないと考えるのも難しそうだ。
 となると残された手段は1つ。銃の有効射程をマスケット銃並みに短くするしかない。発掘したはいいが弾薬が劣化しており、遠距離まで飛ばないとか無理に飛ばすと弾薬が砕けてしまうといった設定を持ち込めば、至近距離になるまで騎兵を攻撃できなくなる。これに騎兵の機動力向上を組み合わせれば火器が騎兵に与える損害を限定させることが可能となり、つまり騎兵を使った突撃シーンを描く説得力が増す。加えて、突撃を受けた側が騎兵を持ち出して対抗しようとするのもやはり騎兵が有効だから、という理屈もつけられる。

 もう一つの問題は最初の方に出てくる城塞の形状だ。さして厚くもない壁が異様な高さに聳え立っている(動画だけでなく原作がそうなっている)。動画制作者のツイートを見ると「高さは35メートルくらい」に相当するのだとか。これは現実と比べるとほとんど考えられないレベルの高さに達している。
 Andradeが記しているが、欧州も中国も城壁の高さはおよそ10メートルほど。ただし厚みは全然異なり、薄い欧州の城壁に比べ、中国はまるで堤防のような分厚さを誇っていたという。もちろん個別にはいろいろなケースがあるが、一般的には10メートルほどの高さが広く見られたと考えてもよさそうだ。もちろん高いところで30メートルあったバグダッドのような例も見受けられるので、絶対に35メートルの城壁がないとは言わないが、尋常ならざる高さなのは間違いない。
 問題は作中でこの城塞を攻めるために「攻城砲群」が展開させられていること。砲台にはこれまた大型の大砲が設置されているシーンがあり、これが砲車に載ってほぼ真横を向いている。こうした使い方は前装砲時代のキャノンとそっくりなのだが、一方でこれらの大砲が後装式である場面もあり、つまりこれもまた発掘品である可能性をうかがわせるものとなっている。
 一方で射撃の際に「装薬を減らせ」という発言があるので、大砲の砲弾や火薬については発掘品ではなく自前で用意している可能性がある。機関銃や自動小銃用の薬莢を製造するのは難しいが、火薬を入れた袋と砲弾レベルなら自作できる程度の技術水準は残っている(さすがに尾栓を製造する技術はないので大砲自体は発掘品)、という想定である。自作の砲弾と火薬では十分な距離と威力を保つことができず、そのため砲台は比較的城塞に近く、また大砲はほぼ真横を向いて直接照準で城壁を狙っている、という理屈を持ち出すことができそうだ。
 問題は、たとえ自作の砲弾や火薬であってもこの薄い城壁なら簡単に破壊できるのではないか、という点にある。欧州では15世紀半ばの時点で中世風の城壁が大砲の攻撃に対して持ちこたえられなくなったと言われている。その対応策としてルネサンス式要塞が登場するようになったのだが、例えば五稜郭の土塁が高さ5~7メートルにとどまっているように、火器に対抗して作られるようになった城塞は分厚く低い壁を持つのが特徴。漫画に出てくるような高いだけの城壁では防御力が足りなさそうだ。
 鎧のように発掘したロストテクノロジーを使って城壁を築いたという考えもあるかもしれないが、鎧のようなサイズのものならともかく、城塞丸ごとサイズはさすがに無理がある。この世界にはたまたま異様に硬い岩石が存在するのだという理屈も考えたが、そもそも騎兵が城塞から出撃する際に自分たちで城壁を爆破して穴を開けているわけで、つまり城壁自体の防御力が高いと考えるのも不可能だ。防御側の射線を邪魔するであろう円筒形の塔などがある点は、ロケット兵器を使ってある程度死角をなくしていたのだと主張することはできそうだが、でも壁の薄さと高さはそうは行かない。
 となると後思いつくのは大砲の威力をさらにもう一段下げることくらいだ。例えば砲弾を鋳鉄製ではなく岩石製にしてしまう方法があるだろう。あまり勢いよく射出すると城壁にぶつかったところで石弾の方が砕けてしまう、というのはどうだろうか。さらに砲身は発掘品なのでその口径は金属製の砲弾に合わせたサイズとなっており、比重の軽い石弾をこのサイズに合わせると破壊力の足りない軽量の砲弾になってしまう、ということも考えられる。さすがに粘土製の砲弾までは行かないと思うが、石弾なら作中に出てくるやたらと高い城壁についても説明がつけられる、のではなかろうか。

 もちろん漫画も動画もフィクションなんだから、こうした辻褄の部分を無理に合わせる必要はそもそもない。面白ければそれでいいのだ。だからここで書いたことは基本的に野暮であり、そんなことを気にせずにエンタメとして消費する方がずっと真っ当な態度だろう。にもかかわらずこういった点が気になってしまうのは、前にも書いた通り一種の呪いのようなものである。
 逆に言えばフィクション、つまり物語を通じて現実を理解しようとするのは実は危うい、という意味でもある。先日紹介した本がまさにそういう指摘をしていたように、「フィクションを純粋にフィクションとして楽しむ」ことが実は難しい点が改めて強調されるようになっている。何がフィクションで何がそうでないのか、その境界線には意外に注意した方がいいのかもしれない。
スポンサーサイト



コメント

非公開コメント