機動性の5要素

 ウクライナでの戦争だが、先週出てきた話の中で実に興味深かったのは戦争の現状と今後の方策についてウクライナの総司令官ザルジニーが言及していた件だ。それを簡単にまとめたのがISWの1日の報告。それによると現在の戦争は守備的で動きのないものとなっており、ウクライナはもっと戦場で機動性を取り戻さないといけない、のだそうだ。
 2022年にはウクライナの反撃も成功したが、現状で次第に戦争が守備的な性格になりつつあるのは、ロシアとウクライナ両国の軍事力が均衡しているため。双方の技術的及び戦術的な均衡下ではウクライナ側によるロシア戦線の深くドラマチックな突入は困難であり、第一次大戦のような手詰まり状態が生まれているとザルジニーは認めている(ゼレンスキーは手詰まりではないと主張しているようだが)。そしてこうした手詰まりが乗り越えられるかどうかを左右する要因として、2023年の夏以降に特に目立つようになってきた「5つの主要な作戦構成要素」があると指摘しているそうだ。
 その要素とは①制空権②ロシア地雷原の深い突破③対砲兵戦闘の効果拡大④必要な予備の創出と訓練⑤電子戦能力の確率――となる。ザルジニーによると、例えば①の制空権を得るための戦術的解決策として彼が推奨しているのは前線に沿った空の優位を得るためにドローンの能力を大幅に増すことだ。ロシアの防空能力を圧倒し、ロシア側の攻撃ドローンを中立化し、安いドローを「大量動員」することでロシア側の前線監視能力を引き下げ、ロシアの攻撃ドローンをターゲットにした特別ドローンを開発し、そして全戦線にわたって電子戦を展開する。最後の件は⑤とも関連するが、電子戦に必要な指揮統制を導入し、生産能力を増やすといった対応も求められるし、対電子戦能力の拡大と電子戦を想定した新たなドローンの開発も必要だ。
 対砲兵戦闘での優位のためには偵察や攻撃用のドローンをより活用し、対砲兵部隊を支援するためのGPS強化と装備の数を増やすべきだという。地雷原突破のためにはセンサーの能力向上、地雷除去能力の拡大、対ドローン装備の充実が求められる。さらに予備戦力を準備するための徴兵や予備兵を集める手段の構築、作戦を改善するために必要な指揮統制と兵站支援なども必要だとしており、現代的な情報技術の活用もロシア軍に先んじることを可能にする。そしてこうした能力をウクライナ自前の防衛産業が持つこと、加えて長距離攻撃能力と非対称的な弾薬の使用こそが、ロシア軍との間にある均衡を破るために必要だと指摘している。
 戦闘が膠着し、消耗戦と化していることはこれまでも指摘されているし、その状況を打破したいという意図はよくわかる。興味深いのはそのための手段として紹介された5つの要素のうち4つにおいてドローンが重要な役割を果たしているとザルジニーが認識しているっぽい点だ。ドローンについてはこれまでも戦争のゲームチェンジャーになるならないかといった議論がなされてきたが、ザルジニーの発言を聞く限り言い回しはともかく極めて重要なツールであると見ていることは間違いなさそうだ。少なくともドローンの面で弱体だとかなり不利な立場に置かれることを恐れているのは確かだろう。
 ウクライナの副首相も「ドローンは戦争においてゲームチェンジャーになる」と話している、との報道も出てきており、その重要性が増しているのは確かなのかもしれない。もちろんドローン単独で戦況を変えられるわけではないことはザルジニーの発言通りだが、それなくしては戦争が成り立たなくなってしまうようなインパクトは感じられる。ウクライナは国内でのドローン生産量を2023年末までに100倍以上に拡大するそうで、安く大量に消耗するドローンはこれから戦場で当たり前の存在になるのかもしれない。
 特に重要なのはドローンが質よりも量を求められているという点ではなかろうか。ほぼ使い捨てと言ってもいいかもしれないが、こうしたアイテムをいかに短期間で大量に生産できるかは今後の戦争に備えるうえで結構重要になってくる可能性がある。もちろんドローンを使いこなす人間側の対応も必要であり、となると全面戦争のリスクに備えるならどの国も国内でドローンを扱える人材をできるだけ育成する必要がある。むやみと規制をかけるような政策はむしろマイナスに働きかねず、多少行儀が悪くてもドローンを容易に使えるような環境を整備したほうがいいのかもしれない。
 そしてもう1つ、制空権絡みで航空機とかヘリコプターという発言が全くISWのまとめに出てこない点が驚きだ。もしかしたらSEADやDEADのために米軍並みの圧倒的航空兵力をそろえる必要はなく、時期や範囲を限るならドローンだけで十分おつりがくるのかもしれない。これは覇権国としての地位を守りたい米国にとっては深刻な問題となる可能性がある。安価なドローンの大量投入の方が、やたら高価な航空機やヘリと育成に多額の費用と時間を要するパイロットを使うより容易に制空権を握る手段として優れているのなら、どの国もそちらに走るだろう。これからもまだ戦争の様相は変わっていくのかもしれない。

 現実化しつつある将来の戦争は横に置いておいて、足元の状況を見るとロシアのアウディーイウカ攻撃はかなり歩兵突撃に依存しているそうだ。ロシア軍は受刑者を集めた「シュトルムZ」という部隊を以前から使っているが、その状況に変化はないもよう。彼らは必要な砲兵支援なしでの「肉弾攻撃」に使われており、数日間の活動で40~70%の損失を被っているのだとか。ロシアの軍事ブロガーですらこの方法については批判しているというが、そりゃ無理もない。結果、ロシアのアウディーイウカでの攻撃で「裏付けのとれた戦果」はなかなか確認されていないようだ。
 そんな中、ロシア国内で騒ぎとなっていたのがダゲスタン共和国で起きた「イスラエル人の乗った民間機包囲」事件。ダゲスタンはイスラム教徒が多く、ガザ地区を巡る事件がここにも飛び火した格好だが、これがロシア国内でいろいろと波紋を呼んでいる様子をISWが2日の報告で言及している。どうも当局はできるだけイスラム教徒への処罰を限定したいそうだが、ロシアび極右はこうした「ポグロム」に対する寛大な姿勢を糾弾しているのだそうだ。
 また3日の報告でも、民間機包囲の際に逮捕された者たちの解放を要求する11月5日のデモに参加するようダゲスタン住民に訴えるテレグラムチャンネルがあることをロシアの軍事ブロガーが批判。「慈悲を持つのは弱さを示す」と当局を批判していることを紹介している。どうやらロシア国内ではパレスチナ側に立つイスラム教徒とそれに不満を抱くロシア極右とが内輪もめをしているっぽい。
 前回も指摘した通り、この内輪もめに巻き込まれているのがカディロフ。3日の報告では彼がチェチェンのナショナリストに対し、プーチンの支援者である自分の立場を苦しくしてくれるなとアピールをしているとの話も載っていた。ロシア国内ではムスリムの方が人口増加率が高く、現時点では15~20%、21世紀半ばには3分の1に達するとの見通しもあるそうだ。米国でヒスパニック以外の白人の割合が低下し、それが分断をもたらしているのと同じような現象がこれから強まる可能性がもともとあったところに、今回の戦争で火の粉が飛んできたというところかもしれない。10月31日の報告では当局が特に辺境地域での権威的支配が弱体化していることに対する懸念を強めていると書かれており、今後はイスラム教徒とロシア人との対立にも注意した方がいいかもしれない。

 ウクライナ戦争以外だと引き続きガザ問題が関心を集め、その分だけウクライナへの言及が減ったという話もあったが、その指摘自体は事実でも「大多数の武力紛争は、何のニュースにもなっていない。現実には、それがデフォルト」とする声も出ている。残念な話ではあるが、それが事実なんだろう。正直、ガザでさえいつまでも関心を集めていられるかどうかはわからない。そう考えると世の中というものは基本的に非情なものと考えた方がよさそうではある。
 アジアでは中国の不動産不況が引き続き厳しそうなこと、一方でその中国の軍事活動に懸念を抱く割合が高まっていることなどが伝わっていた。中でも興味深かったのが韓国の元政府高官が書いていた「分析の失敗はいつも機械ではなく人がおかす」という分析だ。ハマスの攻撃を見抜けなかったイスラエルの失敗について述べたものだが、原因は情報機関よりも政治の無能ではないか指摘している。特に権威主義的な指導者は「政策決定プロセスをまひさせ、組織を破壊する」。情報の失敗をもたらすうえで最も重大なのは偏見であり、「偏見という培地で生まれ育つ」極右ほど「安保に無能」というのが結論だ。個人的には別に極右に限らず偏見に基づく発想の持ち主なら左右問わず同じことをやらかすのではないかと感じるが。
 最後にいつもの大喜利。まずは戦争と平和(ピンフ)、次はプーチン御用達の回転ずし、そしてフリー素材など。あと画像認識を使った影武者分析もここに入れておこう。
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コメント

onigi
「ドローンは歩兵が運用する兵器だから、陸上兵器だ」だという固定観念があったので、制空権のためにドローンを強化するという発想が即座には理解できませんでした。もうドローンは飛び道具ではなく(少なくともザルジニー氏の認識では)立派な航空兵器となっているのですね。衝撃的です。

desaixjp
実際にウクライナでドローンがどんな使われ方をしているのはわかりませんが、もしかしたら以前のイメージとはかなり違う存在になっているのかもしれません。
とはいえ戦争当事者の一方の発言なので、ザルジニーの言うことが全部正しいかどうかもわかりません。
衝撃的な変化が起きている可能性を認めたうえで、ただし鵜呑みにはしないくらいのスタンスがいいような気がします。
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