18世紀の義勇軍は「大貴族や資産家が出資して設立した私設軍団」であり、常備軍に欠けていた柔軟性と適応力を備えていた。構成メンバーは戦争捕虜であり、人海戦術などに使われていた一方、常備軍よりもイノベーティブな戦い方を見せ、また18世紀版の諸兵科連合部隊も形成していたという。ただ彼らは最終的にフリードリヒ大王によって常備軍に統合され、その設立者の中には国外に逃亡したものもいるそうだ。ヴァレンシュタインのように「帝国の軍権を独占」していた存在よりも、最後は国家に抑え込まれた義勇軍の方がワグナーに近いのではないか、というのがこの記事の説明。
こちらのサイト によれば義勇軍は12個ほど存在していたようだ。ただそれを見ると構成メンバーは「戦争捕虜」と簡単に説明できるようなものでもないようで、1759年に編成された
クライスト義勇軍 に最初に参加したのはハンガリーからの脱走兵だったし、ベルリン、マグデブルク、メクレンブルク、ライプツィヒからの志願兵を集めたとも記されている。またクライストは自発的にではなく国王の命令でこの部隊を創設し、指揮を執ったという。
もちろん私設軍団もある。
ルボミルスキーの作った義勇軍 は彼が提案し、費用も自身で賄ったものであり、その軍務を提供する代わりに少将の地位をもらうという形で運用されていたそうだ。こうしたタイプの軍務は以前にも紹介している通り、
既に16世紀の後半には生まれており 、つまり別にフリードリヒ大王が最初ではない。そもそもフリードリヒ自身、18世紀前半にハンガリーが使っていた
パンドゥール をモデルに義勇軍を編成したとの指摘もある。
フリードリヒの時代をわざわざ取り上げたのは、こうした義勇軍が常備軍と並立していたわかりやすい例だったからだろう。三十年戦争時は傭兵軍から常備軍へとシフトしていた時代であり、国によっては傭兵軍のみというところがあった。それに対して絶対王政の時代は常備軍がデフォルトとなっており、それに付加する形で義勇軍が使われていた。ワグナーとの比較において使いやすいのは後者の時代だった、というだけの話だろう。
そもそも
有力者が自前で民兵集団を作る動きは2014年にウクライナでも実行されている 。またそれらがやがて正規軍に編入されているのも18世紀プロイセンと同じ。さらには19世紀のプロイセンで見られたクリュンパー・システムのような取り組みも生じている。歴史的に見れば正規軍のみが軍隊という時代の方が例外であり、自発的に集められたか(ウクライナの例)政府の意図を補完するために作られたか(ワグナー)の違いはあっても、こういった準軍事組織の存在自体は別に珍しくはないのだろう。
それによるとロシアは将来の戦争において「マネジメントの優勢」と情報支配の重要性に焦点を当てているそうだ。敵より優れ、より速い意思決定をすること、また情報面での優位が物理的な作戦の成功にとって重要である、というのが彼らの強調点。
ハイブリッド戦争 という切り口もそうした思想から出てくるのかもしれない。通常の軍事作戦に情報キャンペーンを組み合わせてターゲット国を攻撃するといった内容のようだ。
ウクライナ侵攻は彼らのハイブリッド戦争の到達点、になるはずだったが実際にはその軍事計画における戦略的作戦的な失敗をさらす結果となった。彼らはシリアでの経験から「限定された行動」や同盟国との作戦といったコンセプトを発展させていたが、実際の戦争では西側との間にある指揮統制面でのギャップを埋めることに失敗している。それでも彼らは引き続き情報支配を優先しながら大規模な通常戦に備えるという対策に取り組んでいるそうだ。
中国軍の近代化は3つのアプローチから成り立っている。ドクトリンの変更とイデオロギー的厳密さ、現代戦を形作る先端技術の開発、そして戦争経験のなさを埋めるための訓練手法におけるイノベーションだ。彼らは2049年に米軍と同等あるいはそれを凌駕するのを目標としており、そのためには兵站や偵察、コミュニケーションといった高度に統合されたシステム間の包括的な争いである「システム戦」を重視している。そこでは情報や意思決定における支配の確立が大切で、情報操作や破壊活動も含まれる。そして彼らもまたハイブリッド戦争を重視しているという。
具体的には精密射撃や敵の指揮統制の破壊を狙う一方、AIや自動兵器、さらには脳波制御兵器を使って戦争の速度や複雑さを増すことを狙っているらしい。そして中越戦争以降、実際の戦争経験がない人民解放軍の訓練をどうするかも重要で、ロシアや米国の戦訓を学びつつ仮想敵部隊を使ったシナリオをテストしたり、AIを使った戦争ゲームを行うなどの方法で経験不足を補おうとしているそうだ。ロシアよりも先端的だとも、あるいは夢想的だとも言えそう。
これらを踏まえ、西側が付け入るスキがどこにあるかについても言及している。まず中国についてはその近代化がロシアよりも広範で複雑な一方、経験のなさもあってか中身はより不明瞭だと指摘。ロシアについてはウクライナ戦争を通じて訓練、人材、リーダーシップの弱点が浮き彫りになっており、シリアがもたらした経験も士官たちがウクライナで損害を受けていることでうまく移転されていないとしている。またロシア軍の持つ上意下達の文化も指揮統制の発展を妨げている。
中国がAIや他の技術を軍事的意思決定に統合することに過剰な信頼を抱いている点は、長期的に見て人材を生かすことを妨げる要因になりそう。ウクライナでの開戦前に米国が情報公開を通じてロシアの意図を世界中にばらした点は、ロシアが情報戦争に過剰な信頼を置いている点を明らかにした。むしろ情報と通常戦力をバランスよく使おうとしている中国の方がロシアより米国にとって厄介な敵になる可能性がある。同盟政策についてはロシアが事前に作った同盟を生かした作戦と遠征に焦点を当てているのに対し、中国の遠征戦についてはまだ発展途上だ。
中国軍の近代化は強力な防衛及びテクノロジー産業に頼ったものだが、習近平が進めている経済改革や国家による産業統制はイノベーションを制限する可能性がある。ロシアが苦戦しながら学んでいる市外戦やUAVの使用についても、中国はドローンへの過剰な依存、小規模な部隊の自律性を認めることへの躊躇、作戦エリアに対する政治環境などの読み間違いといった点から苦戦するかもしれない。またモデル作りやシミュレーション、仮想敵部隊の使用などで中国は米国を超えそうだが、そうしたものへの依存が高まると彼らのドクトリンに欠陥のあるコンセプトが根付くことも考えられる。
以上の考えられる中ロの欠点を踏まえ、米軍はまず作戦や戦術レベルで最近の戦闘経験が多いことが利点となる。また訓練や分散化された指揮構造も、ウクライナで見られるように西側の優位だろう。だが戦略レベルだと米国は意思決定過程が遅く、包括的でないため、明確な目的設定作りなどが困難である。また米国は中ロと異なり戦争と非戦争作戦を分けて考えがちであり、彼らのハイブリッド戦や政治的キャンペーンに効果的に対抗するため、外交、情報、通常戦争を統合しなければならない。それでも米国は同盟国やパートナーシップ、透明性、先端技術で強みを持つ、とこの文章は指摘している。
これを読んでとにかく興味深いのは、ウクライナで
「新しい時代の軍隊」 の欠点がいろいろと明らかになった後でも、まだそういう概念が根強く存在していることだろう。確かに過去の戦争において将軍たちは「前の戦争を想定して備える」ことに注力した結果、時には革新的な敵に散々に打ち破られてきた。だから中露はハイブリッド戦争と言い出し、米国も戦略面でより統合した対応が必要、みたいな言い分が出回っているのだと思われる。
だが、過去をなぞるだけではダメだからといって、安易に未来の戦争を「予想」して大丈夫なのか、という懸念は浮かぶ。
専門家であっても予測がとても難しい ことは前にも指摘した通りで、だから中ロが思い描いている「未来の戦争」が本当に効果的なのかどうかはやってみなければわからない(ISWもその部分の欠点を指摘している)。そして少なくともロシアの取り組みは目下のところ「大外れ」に見える。
それでも中ロが「当たるも八卦当たらぬも八卦」に走っているのは、彼らが覇権を持たない国だからだろう。
持たざる者の方が冒険的な行動に出やすい のだとしたら、米国より中ロの方がAIやハイブリッド戦争なる目新しい概念に過剰な夢を抱きがちなのも無理はない。逆に強者である米国はこれまでの勝ち筋を守る方が合理的な選択であり、従って後は中ロの求める「新しい戦争」が本当に世界をひっくり返すほどの新しさを持っているかどうか次第。
20世紀の途中から科学が低迷している のが事実なら、中ロの取り組みは夢物語で終わる可能性が高いと思うが、さてどうなるか。
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