ウクライナの政権転覆に失敗した時点で、ロシアの戦争目的はクリミアの保持が表に出てきている印象だった。ドニプロの水路確保や陸橋による補給路確保も、要はクリミアを確保し続けるための手段と言えなくもない。ところがドニプロでは自らダムを破壊して水路を遮断してしまい、さらにクリミア自体、軍事的拠点としての価値が失われてしまうと、この戦争の目的自体が失われかねない状態だ。資産を守るために流血してでもスロヴィキン線を守ることには説明がつくが、不良債権と化しつつあるクリミアのために流血する意味はあるのだろうか。
問題視されているのは砲弾だけでなく砲身もしかり。大量の砲撃を続けたせいで
交換バレルが不足しているのではとの声も出ている。既に7月時点でロシアの砲兵について
「バックアッププランがない」とする記事が出ていたのだが、そこではロシアの主力が152ミリ榴弾砲と120ミリ迫撃砲であることを指摘。最初の頃は前者を使った激しい砲撃を行っていたが、最近は砲弾が減っていること、イランには同種の大砲がほとんどなく、北朝鮮製の砲弾は2010年に韓国領を砲撃した際に300~400発のうち80発しか命中させられないなど信頼性に欠けるといった点を紹介している。
そのうえで砲身の話もしているのだが、見境なしに砲撃しまくった結果、ロシアの152ミリ砲身は戦争開始から既に6000本ほどの交換用砲身を必要としている計算だそうだ(
こちらのツイートによれば戦車なども含めると必要な砲身はひと月で7000~1万にも達するという)。問題はその製造に必要な軍事目的用の高品質鋼鉄の入手が困難であること。こうした鋼鉄は主に日欧で製造されており、一方ロシアは民事用の低品質な鋼鉄に集中しているし、彼らに材料を提供できそうな中印は自前で使用する分以上の生産能力は乏しいそうだ。結果として同じく数の多い120ミリ迫撃砲の使用が増えるが、こちらは射程が5~10キロと榴弾砲(20キロ超)より短いためにウクライナの対砲兵攻撃に対して脆弱。さらに古い240ミリ迫撃砲も持ち出しているそうだが、砲撃準備や撤収に長い時間を要する兵器のためこちらも対砲兵攻撃のいい的になってしまうらしい。
やはり
戦争を単純な砲兵の決闘と見なすのは間違いなんだろう。少なくとも大砲の数だけ計算すれば結果が分かると考えるのは、複雑な世界を理解する手法としてはあまりに雑。もちろん
兵器や弾薬の生産能力を計算に入れればそれで済むというのも誤りであり、産業の基盤を構成する素材にまで視線を向けなければまともな分析はできない。どうしても戦争を「何とかの決闘」として説明したいのなら、むしろ第二次大戦と同様「経済力の決闘」と見た方がいいのかもしれない。
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