2023NFL week1

 NFL2023が開幕した、のだがその前に1つ。FiveThirtyEightが毎年載せていたElo ratingが姿を消した。昨年まではレーティングに加えてゲームごとの簡単な予想まで掲載していたが、今年はNFLのデータどころか5月以降、スポーツ記事自体がまったく更新されておらず、要するにメインテーマである政治の方に完全に集中しているように見える。おそらくスポーツ関連はマネタイズできないといったような理由でもあったんだろう。
 結果としてNFLのアナリティクスがらみで、無料かつ無登録で利用できるサイトがまた1つ姿を消したことになる。かつて良く利用していたPro-Football-Referenceは数年間からデータをちょっとでも加工しようとすると登録が必要になっているし、老舗のFootball Outsidersは有料化への道を歩んだがうまくいかなかったようで、サイト自体は既に姿を消している。そこで使われていたDVOAの指標はファンタジーゲーム用のサイトに移って使われているそうだ。
 アナリティクスに従事していた人々はメディアに所属するか、あるいはチームに雇われるという形でサバイバルをしているようで、無料無登録で見られるところはESPNが運営しているFPIのページと、後はNFLfastRのデータを使っているこちらこちらくらいになってしまっている。いずれもアナリティクスの歴史という点ではあまり古株ではないところだが、それだけこの業界も移り変わりが激しいのかもしれない。祇園精舎の鐘の声。

 そして開幕週で1番の驚愕だったのが、MNFでJetsに移籍したばかりのRodgersが開幕4プレイで負傷退場した件。どうやらアキレス腱を断裂した恐れがあるそうで、まったくもって不幸としか言い様がない事態となった。せっかくサラリーカットに応じて2年はJetsでプレイする姿勢を見せていたのに、そのうちの半分をこれで棒に振ることになってしまうのだろうか。
 Jetsファンにとっても(ゲーム自体は勝利に終わったものの)夢が悪夢に変わった夜だったかもしれない。こちらの記事で触れられている通り、1999年の開幕戦(前年チームをConference Championshipまで連れて行ったTestaverdeがアキレス腱を断裂した)を思い出した人もいるだろう。あのゲームはいろいろな人の運命が交錯した試合だったが、今週のMNFは負傷したRodgers、絶不調だったAllen、予想外の出場機会を手に入れたWilson、勝ってしまったSalehなどにとって、将来どんな意味を持つのだろうか。
 Jetsファンほどではないが落胆しているかもしれないのがPackersファン。Rodgersがシーズンエンドとなれば来年の1巡を手に入れる条件とされていた「65%以上のプレイ参加」はもうあり得ない。Packersが手に入れるのは2巡となるが、ただしBarnwellが指摘している通りRodgersのいないJetsの成績が低迷すれば、その指名権は2巡上位となるわけで、実際にはあまり差はないかもしれない。
 その他、開幕週で目立ったのはアウェイチームの好成績。開幕戦でLionsがChiefs相手にアップセットを食らわせたのを皮切りに、日曜日は14試合中9試合でアウェイが勝利。半分を超える5試合(Jaguars、49ers、Packers、Rams、Cowboys)は1ドライブを超える点差で勝利しており、ツキではなく実力差でホームチームをねじ伏せたように見える。とはいえ事前のオッズを見ればアウェイ勝利にアップセットが目立っていたのは確かで、Barnwellが紹介しているアップセット3ゲームのうち2つはホームが負けた試合だ。
 また特にAFCで有力候補とみられていたチームの敗北が第1週では目についた。Chiefs以外にBengals、Chargers、そしてRodgers相手のはずがWilsonになったおかげで楽勝と思われたBillsなど、高額QBを抱えるチームが敗れている。上でも述べたFPIのデータを見ると、1週目が終わった時点で最も高い数字を出しているのはCowboysの6.3で、それにChiefs(5.7)、49ers(5.4)、Bills(5.1)が続いている。逆に下位を見るとCardinalsが圧倒的に低い-9.8で、以下Texans(-5.7)、Colts(-5.5)、Panthers(-5.2)が続いている。
 ただアナリティクス的にそれよりも気になったのは、全体としてQBの成績が悪かったこと。上でも紹介したサイトに載っているQBのAdjusted EPA/playを見ると、16試投以上を記録しているQBたちのうち、この数字がプラスになっているのはたったの13人しかいない。これはデータを遡れる2012シーズン以降では最も少ない。過去の記録を見る限り、どれだけ少なくても開幕週にこの数値がプラスになったQBは17人はおり、つまり過半数は確保していた(多い時は26人もいた)。マイナスのQBが19人も出ている今年の開幕週がかなり異様であることが分かるだろう。
 ちなみにここで言うEPA/Pには、QBのプレイのうちペナルティは含むがパス成功後のファンブルは除いている。そしてターンオーバーについて一定以上のマイナスにはしないようキャップをはめているのがAdjustedの数値だ。pick 6のようなプレイは、インターセプトされるところまではQBの責任だとしてもそこからのリターンは他の選手の責任やツキも絡んでくるため。例えばMahomesの開幕週は通常のEPA/Pは-0.046となるのに対し、Adjustedで見るとプラスの0.039と水面上に出てくる。第3Qのpick 6についてMahomesに全責任があるわけではないと考えて計算すればそうなるわけだ。
 そのAdjustedの方のデータで過半数がマイナスに陥るのはそうそうないし、Adjustedでない方に至っては11人しかプラスを記録していない。そもそもパスはランよりも効率のいいプレイであり、当然そのEPA/Pもプラスになることが期待されている。それを達成できていないQBがこれだけ大勢いるというのは、いくら各QBにとって数ヶ月ぶりのプレイだとはいえ期待外れもいいところ。もちろんそういう週がたまにあること自体は不思議ではないのだが、落胆したファンは多いのではないだろうか。
 なぜこうなったのか。そもそも先発候補ではなかったのにかり出されたDobbsとか、ルーキーたち(Stroud、Young、Richardson)、2年目のドラフト3巡(Ridder)や5巡(Howell)といった選手たちがマイナスになるのは仕方ない。問題はベテランたち、それも高額サラリーをもらっているBurrow、Hurts、Watson、Jackson、Allenといったあたりがマイナスに沈んでいる点だろう。もちろん彼らだって人間であり、時にはEPA/Pがマイナスになることだってあるだろう。それが重なるケースだって起こりうるのは確かだ。だがベテランの安定度がこの10年ちょっとの中でもかなり低く見えてしまうのは否定できない。
 知っての通り昨年限りでBradyが引退し、これで21世紀初頭のNFLを席巻したForever QBsの生き残りが1人まで減った。その生き残りのRodgersがシーズンエンドとなった開幕週に歩調を合わせるかのようにQBたちが不調になったのは、もしかしたら優秀なQBが山ほどいる時代の終わりを告げているのかもしれない。さらに期待の若手たちの不調が続くようなら、以前に比べれば低レベルのQBたちがドングリの背比べをするような流れがしばらくは続く可能性すらある。今のNFLは、どうもMontana以外に大したQBのいなかった1980年代を彷彿とさせる。

 ちなみにその高額QBたちのうち、最後に開幕前に駆け込みで契約延長がなされたのがBurrow。Bengalsが彼に提示した金額は5年275ミリオンで、年平均55ミリオンは7月に延長したHerbertの52.5ミリオンを超えてもちろんリーグ最高額だ。Herbertが契約延長した際にFitzgeraldはBurrowの契約額を年53ミリオンから53.5ミリオンと予想していたが、それと比べるとかなりの大盤振る舞いになった形。なおBurrowの保証額は219ミリオン以上と報じられている。
 契約の詳細はSpotracによるとこちらの通り。ただしOverTheCapと違ってニューマネーの分について毎年どのくらいの支払いをすることになっているのかはちょっとわからず。ただ、この契約が今後のQB市場に影響を与えるのは確かだ。年平均50ミリオンを超えるQBは4人にまで増え、来年以降に新たに契約するスタータークラスのQBたちは少なくともこの水準は要求してくるようになるだろう。とはいえ順当なら来年のオフに契約延長が話題になるはずの3年目QBたちの成績は正直冴えない。過去2年間の彼らの1プレイあたりQB EPAを見ると、最も高いJonesでも0.052で、Lawrenceは0.041、Fieldsに至っては-0.036だ。同じ2年目までの成績でHerbertが0.186、Burrowが0.158だったのに比べるとかなり低い。
 もちろん今シーズンの活躍次第で彼らの中に3年目終了時点で契約延長を勝ち取るQBが出てくる可能性はある(Allenがそうだった)が、現時点でそれを予想するのは無理。それ以外に高給取りQBたちの中で契約から時間が経過している選手を探すと、名前が挙がってくるのはGoff(2019年に契約延長後トレード)、Mahomes(2020年に契約延長)という開幕戦で対戦した2人のQBくらい。正直、Goffは契約更改より前に先発としてふさわしいことを立証するのが優先だと考えるなら、後はMahomesがいつ契約見直しを本気で要求し始めるかになりそうな気がする。
 もう1つの大型契約は49ersがNick Bosaと結んだ5年170ミリオンだ。これまでEdgeの最高額はT.J. Wattの年平均28ミリオンだったので、34ミリオンというこの金額はかなり大きな上昇と言える。おそらく参照されたのはWattよりもIDLであるDonaldの契約(年平均31.7ミリオン)だと思うが、それでもでかいのは間違いない。数字を見ると2026シーズンから急にキャップヒットが増え、一方で解雇した場合のデッドマネーは急激に減るようになっているので、とりあえず2025シーズンまではきちんと使うつもりなのだろう。そして初戦で敗れたChiefsはDLのJonesと急いで1年契約を結んだ
 DLがQB以外では最も高給取りなポジションとなっているのは間違いない。後はWRのトップクラスがそれに匹敵するくらいだろう。おそらくQBに次いで投資効率の高いポジションだと思われているのがその理由。以前、パスラッシュよりパスカバーの方が大切という話を紹介したことがあるが、少なくとも各チームのGMたちはパスラッシュに価値を感じているもよう。
 後はOverTheCapに、Giantsがキャップの関係でDaniel Jonesの契約をリストラした(ベースサラリーをサイニングボーナスに変えた)という話が載っていた。また残されていたオフっぽい話として、PatriotsのCBが銃を巡る事件で社会奉仕と保護観察処分を食らったという話もあった。
スポンサーサイト



コメント

非公開コメント