閑話休題。今回は現代の問題の中に「高齢化」がかなり色濃く影を下ろしているのではないか、という話をする。基本思い付きなのであまり真面目に取らないように。
例えば
社会学者の話でも、古い時代の空気に合わせて世に出てきた社会学者が、その後のアップデートがまったくできておらず、結果としてネットで叩かれている面があることを指摘した。
こちらでは米国の政治家の高齢化が大きなテーマになっていることを紹介。共和党のマコネルは81歳、来年の大統領選に出ると見られる両党有力候補2人はそれぞれ78歳と81歳であり、レーガンが大統領を辞めた時(77歳)すら上回る。
米国だけではない。目下最大の地政学的問題となっているウクライナ戦争を引き起こしたプーチンは戦争を始めた時点で69歳。さすがに後期高齢者が並ぶ米国よりはマシに見えるが高齢者の範疇には入っており、つまり軍国老人が暴走している状態だ。習近平は68歳定年という慣例を破って3期目に突入しており、下から見ればいつまでも権力の座にしがみついている老害と言われても不思議はない位置にいる。高齢化問題といえば高齢者の健康とかそういうものと思いがちだが、それとは全然異なる面で高齢者が様々な問題を現代社会にもたらしているように見える。
そして同じことは、最近やたらと話題になっている某アイドル事務所についても言えるのではないか。そう感じた理由の1つは
こちらのエントリー。事務所問題に関連したファンによる「攻撃的なツイートが目立つ」ことについて、ファンの側が認知的不協和に陥っているのではないかと述べた文章で、彼らが加害者の名前を関している事務所を支持し、被害者側を罵っている理由をそういう観点から説明しようとしている。
そこで興味深かったのが、ファンたちが事務所を辞めた被害者や彼らを支援するものたちに「不細工、貧乏、負け組」という意味の悪口を浴びせているのは、逆に「イケメン、金持ち、勝ち組」が好きだからではないかと指摘しているところ。ファン(主に女性)は「社会的ステータスのある男性が好き」なのであり、逆に「負け犬には価値がない」と見ているのではとの見解だ。
話を戻すと、事務所の会見を受けてファンによるバンドワゴニングの動きも含めいろいろと書いているのが
こちらのエントリー。内容は非常に多岐にわたっているのだが、ここではファンの行動を「暴走」といいつつも、その気持ちも「わからないではない」としている。だからファンに対してではなく事務所に対して「被害者を中傷しないようにアナウンスしてほしい」と述べている一方で、日本社会について「権力者の悪事には異常に寛容だが、弱者には冷たい」という空気があると指摘し、バンドワゴニングそのものは非難している。そして事務所の問題についてそんなに騒がなくていいという空気が存在することに対し、「価値観がバグっちゃってる」と批判を浴びせている。
象徴的なのはMeTooについて言及している部分だろう。この運動が欧米で広がったのは2017年からだが、
実は運動自体はそれより10年も前から始まっていたそうで、要するに欧米でもセクハラや性的暴行への批判が当たり前に行われるべきだという価値観が生まれ、それ以前の価値観が実は「バグっていた」ことに人々が気づいたのは、本当にごく最近のことだったのだ。だが上記のエントリーでは古い価値観が「バグっている」と断言し、そしてそれに
一定の支持がついている。
そう、こちらも社会学者問題と同様、いやそれ以上に、ごく最近になって生じた価値観の変化がトラブルを広げている要因だと考えられる案件なのだ。今回の件は英国のメディアの報道から火が付いたが、10年前だったら欧米メディアだってこの件に目を瞑っていたことだろう。何しろ
自分たち自身がセクハラを放置していた過去があるくらいで、メディア自身も急激な価値観の変化に四苦八苦していると考えられる。エントリー内でメディアに対し厳しい批判がなされているのも、そうした背景があるからだろう。
ファンも同じ。既に
9年も前の記事で「若い人と比べて“黄色い声”が出ない」と書かれているし、
こちらでは昭和や平成初期のファンは10代の女性が熱狂的に応援する姿が多かったのに対し、「昨今は30代、40代、もしくはそれ以上のファンがいることが当たり前」になっていると説明。アイドル側もそれに合わせたのか、デビューする年齢が高齢化していると指摘されている。
そしてメディアのえらいさんやファン歴の長い人間たちがこの世界に入ってきた当初は、今とは全く違う価値観が当たり前のように跳梁跋扈していた。そういう人々はおそらく
芸能界に「ヤクザがいるのは普通」という感覚をある程度共有してきたわけで、彼ら彼女らにとってセクハラが社会的に問題であるという感覚自体がかなり目新しいものではないだろうか。それこそLGBTがらみでも
こういうネタが2017年までテレビで流されていたわけで、価値観の変化についていけない者がメディアにもファンにも実は大勢いることがうかがえる。
もちろんメディア側は変わらなければならない。少なくとも
人権侵害に関するデューデリジェンス(適正評価手続き)は必要だろう。今の時代、そこを避けてしまう方がむしろ将来的なリスクにつながりかねないからだし、実際に避けているメディアが多い点はそりゃ問題視されても仕方ない。いくら「昔は違った」からといって、そういう商売で飯を食っているのだから、もらった金の分は社会的責任を果たす義務があるんじゃなかろうか。
だがファンはどうなんだろうか。ファンの中心である女性たちの中でも、そこそこの年齢の人たちにとっては、「勝ち組の男についていこうとする」価値観は昔からなじんでいた当たり前のものだったかもしれない。そもそも昔は男女差別が今より激しく、男についていく以外の選択肢がほとんどなかった時代もあるわけで、その頃からあったバンドワゴニング的な指向をそのまま持ち続けている人が一定数いると考えても不思議はない。
加えてファンは別に金をもらって商売としてファンになっているわけではなく、むしろ自腹を切ってファンをやっているのだ。そういう人たちが他人に間違った価値観だと指摘されて大人しく折れると果たして考えられるだろうか。むしろ意固地になって抵抗してもおかしくない。何しろ自分の金で自分の応援したいアイドルを応援しているのだ。そもそも変わることに期待する方がおかしいくらいに思える。
そしてこうした「高齢化した価値観をアップデートできていないファン」の存在は、問題の事務所だけにとどまるものではない。おそらくプーチンを支持しているロシアの高齢者たちも、あるいはTurchinから革命の党になっていると指摘されている共和党でトランプを応援しているやはり年齢層の高い白人たちも、同じく価値観の変化についていけてない人たちなどで構成されているのだろう。世界中で高齢化が進んでいることを考えるなら、似たような問題は今後も世界中のあらゆる場所で起きる可能性がある。現代の問題に高齢化が色濃く影を落としているというのは、そういう意味だ。
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