陰謀だあっ

 いつも楽しく読ませてもらっている大阪大学の菊池誠教授のblog"http://www.cp.cmc.osaka-u.ac.jp/~kikuchi/weblog/"に、本日ショッキングな書き込みを発見。

「某所で見ましたが、リン・マーギュリスも陰謀論者になったんですか?」
「ダークサイドに堕ちた模様。
http://www.patriotsquestion911.com/professors.html#Margulis

 まぢですか。いささかニューエイジっぽいところがあったとはいえ、科学とそうでない世界との間はきちんと峻別できているとの話を聞いていたのに、まさかこんなことを言いだすとは。それにしても引っかかる陰謀論のネタがあまりと言えばあまりにも低レベル。こちら"http://www.1101.com/suzukichi/2006-10-11.html"には陰謀論を茶化した話が紹介されているが、マーギュリスにはその程度のことも想像できなかったのだろうか。だとしたら、確かに「がっかりだ」と言うしかない。

[15日追記]

 マーギュリスは上のサイトに載っている発言の中で、米西戦争の原因となったメーン号事件も米政府の陰謀だと断言している。だが、それに対してはネットのあちこちから「あれは事故だろう」というツッコミが。どうやらこれは、陰謀論に免疫がなかった学者バカ(褒め言葉)がたまたま見かけた「9.11陰謀論」に引っかかってしまった、という単純な話ではなさそうだ。マーギュリスは初心な陰謀論者などではなく、陰謀論中毒と考えた方がいいのではなかろうか。

 それだけにとどまらない。もう一つ、彼女は地雷を踏んでいる。HIV否定論だ。AIDSの原因はHIVであるというのは現在の通説であるが、これを否定しようとしている人たちが一部に存在する。そしてこちら"http://scienceblogs.com/aetiology/2007/03/post_33.php"を見ると、マーギュリスはそうした否定論者と歩調を合わせるような発言をしているのだ。彼女は、HIVが原因だという説は細胞学とウイルス学の基準から見て間違っており、HIVテストはいかがわしいもので、「HIVがAIDSを引き起こす」証拠はどこにもないと言い切っている。
 医学関係者が積み上げてきた数々の証拠や、HIVに対する対策が一定の効果を上げていることなどは彼女の視界に入ってこないらしい。彼女は「医学者は縄張り意識ゆえに誤解している」と主張するものの、論拠があっての指摘ではなく"I believe"、つまりそう信じているとしか述べていないのだ。彼女は生物学者であり進化の分野では専門家だが、医学者ではない。専門外の人間にお前らは誤解しているなどと断言されれば、普通の人間なら「何様だてめえ」と激怒するだろう。そもそも、まともな学者なら自分の専門外に口出ししたうえにその分野の専門家を間違っているなどと言い放つことは控えるはずだ。まともな学者なら。
 HIV否定論は現実に深刻な問題を引き起こしている。南アフリカの例について紹介したのがこちら"http://hw001.gate01.com/uneyama/aids.html"やこちら"http://blackshadow.seesaa.net/article/52502651.html"、否定論者を簡単に紹介したのがこちら"http://sci-tech.jugem.jp/?eid=343"で、こちら"http://transact.seesaa.net/category/1349187-1.html"にはより詳細な話も載っている。9.11陰謀論は遺族や被害者に対して礼を失しているとはいえ、それで人が死ぬことはない。だがHIV否定論は現実に死者を増やしている。マーギュリスほど知名度のある人間の発言がどれほどの影響を及ぼすか、それを考えるのなら、HIV否定論に与する発言の方がより大きな問題だとも言える。
 マーギュリスは本当に科学者なのだろうか。科学以前に常識で考えればおかしいことがすぐ分かる陰謀論を複数信じ、その分野の専門家がほぼ合意していることに対して専門外から口出ししたうえに専門家連中は誤解し本質的にまともな教育を受けていないと断言する。これが科学的思考に長けた人間の取る行動とはとても思えない。もしかしたら彼女が過去に成し遂げた業績は、科学者でない人間が非科学的思考を積み重ねたらたまたま現実と答えが一致した、という事例だったのではないかと思えるほどだ。a wrong clock being right twice a day.
 そこまでは言わないとしても、彼女が過去に成し遂げた業績と、最近になって行っている一連の発言とは別々に分けて判断すべきなのは確かだろう。マーギュリスのすることだからと言って信用したり支持したりするのはおかしい。陰謀論に与し、HIV否定論に歩調を合わせるマーギュリスについては、私ははっきりと批判すべきだと思う。

 問題は偉大な学者にもかかわらず後からトンデモに足を踏み入れた人間は、彼女以外にもかなりいること。HIV否定論者のデュースバーグもその一例であり、他にもアレン・ハイネック、ウィリアム・ショックリー、ブライアン・ジョセフソンなどがいる、という指摘があった。専門分野で業績を積み上げた人間が専門外ではあっさりニセ科学に走るというのは、それほど珍しくないらしい。

 絶望した! トンデモ化する有名科学者の多さに絶望した!

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