残念な運命

 NFLではHall of Fame Gameが開催され、プレシーズンが始まった。今年はJetsとBrownsのゲームだったが、当然ながら双方のスターティングQBは出場せず。コーチングスタッフにとってはロースターの境界線上にいる選手を選ぶうえで重要なゲームなのだろうが、そういう部分に注目するファンはよほどマニアックな者に絞られそう。せめてドラフト上位指名のルーキーQBでも出てくれば面白そうだが、この両チームはベテランを使う予定なのでそのような事態も起きない。
 昔はプレシーズンでもスターターQBが出てくるのは珍しくなかった。かつて日本で開催されていたアメリカンボウルでは、例えばFalconsとColtsが出場した際にPeyton ManningとMichael Vickが短時間とはいえプレイするなど、プレシーズンであってもファンサービスをやっている印象があった。今ではむしろレギュラーシーズン前に怪我などされたら困るという配慮の方が先に立つようになった。ゲームの目的を考えると合理的な判断ではあるが、結果的にプレシーズンへの関心が薄らぐ一因にもなっている。
 
 というわけでプレシーズンについてはここまで。今回はOverTheCapからNick Korteのエントリーを紹介しよう。基本的に補償ドラフトのプロとでもいうポジションの人物だが、それ以外にも面白い切り口の話をちょくちょく書いている。例えば5年目オプションに関するThe Trends Of Fifth Year Options, 2011 To 2020では、5年目オプションがどのくらい行使されているか、ポジションごとやチームごと、指名順ごとの行使率などが調べられている。これを見ると行使された数が半数を割り込んだのは2020年ドラフト組が最初だったことが分かる。もっと長い時間がかかるとこの傾向がどうなっていくのか、興味深いところだ。
 でも今回主に取り上げるのはWhich Players Could Face Negative Contract Fate In 2024?というエントリーの方だ。といってもこの内容を説明するにはまずContract Fateについて解説する必要がある。新しい労使契約が結ばれた2011年以降のベテラン(つまりルーキー契約は除く)を対象に、契約年数とポジションごとにそれぞれの契約が最終的にどのような結末(運命)を迎えたかを調べたものだ。
 結末は5種類。解雇、減額、契約終了、増額、延長となる。最初の2つがNegative Contract Fate、最後の2つがPositive Contract Fateで、特に何の変更もなく契約を終えた場合は中立扱いだ。まず契約年数別に見ると、2年契約の選手ですら途中で解雇あるいは減額を迫られる割合が半分に達していることが分かる。Negativeな結果が最も多いのは4年契約だったりとか、5年以上になると減額の割合が2割に達するとか、契約年数ごとにいろいろと特徴があることも判明する。また契約が長くなるほど終了まで続けられる選手の割合は減っていく。
 ポジション別だとまずオフェンスではQBとLTのNegativeな比率の低さが目立つ(とはいえどちらも5割には達しているが)。オフェンスの中では契約額の高いポジションですらその有様であり、従って他のポジションはもっと厳しくなっている。解雇が最も多いのはRBだがNegative全体でいえばWRの方が多い。RBほどではないが、FitzgeraldによるとWRもルーキー契約が過ぎると次第にパフォーマンスが低下していくようで、それがNegative Fateと関係しているのかもしれない。
 一方、ディフェンスでは全ポジションでNegativeの確率が6割を超えている。解雇だけでも5割を切っているのはEdgeのみ。ただし彼らはその分だけ減額が多く、Negativeの合計で見ればむしろIDLの方が低い。逆の方で極端な位置にいるのがCBであり、解雇が6割を超えているポジションは彼らだけだ。一方で彼らの減額はSTを除くと最も低く、Positiveな比率はRBに次いで低水準だ。RBほど極端ではないがCBも全盛期の短いポジションであるあたりがこうした傾向の背景にあるのかもしれない。
 この記事中ではさらに具体的な事例をいくつか紹介している。その中には前に触れたMixonの例もある。彼はRBで4年契約という、どちらもNegativeになる可能性が高い条件を抱えていた。彼と同じ立場にあった選手は過去に20人いたが、Positiveな結果を得た例は1つもなく、契約終了にこぎつけたのも3人しかいなかったという。Mixonが減額を強いられたのも、過去の例から見れが想像可能だったというわけだ。
 他に紹介されているのは同じく減額に応じたSのByard、契約を巡ってキャンプをホールドアウトしているIDLのJones、同じく契約に不満があると報じられているIOLのMartinだ。注意しておきたいのは、それぞれ過去の契約がどうであったかについて触れている一方、彼ら自身についてはこれまでのプレイのレベルを含めた判断が必要だと書いている部分。Contract Fateは契約年数とポジションだけを見ており、選手の能力は一切考慮していない。
 以上を踏まえて改めてWhich Players Could Face Negative Contract Fate In 2024?を見てみよう。ここでは2024年のNegative Contract Fateが60%以上で、また2024年に4ミリオン以上のキャッシュをチームが支払うことになっている選手計104人を並べている。例えば一番上に出てくるWhitehairの場合、2024年は5年契約の最終年で、ベースサラリーが10ミリオンを超えている。IOLはNegativeの比率がそれほど高いポジションではないが、彼と同じ立場で過去に契約を全うできたものと延長を勝ち取った者はそれぞれ1人しかいなかったという。
 3~5位には高額契約をしたRBたち(Chubb、Conner、Kamara)が並んでおり、やはりRBはこの指数で厳しい状況に置かれているのが分かる。一応このエントリーではChabbが「逆境に打ち勝つ」可能性をい見込んでいるものの、ラスベガスでの暴行事件に関連して3試合の出場停止を食らったKamaraなどは厳しい状況にあると見られる。またWRがトップ42人のうち16人を占めており、こちらのポジションもNegativeが多い様子がうかがえる。
 チーム別で言うと注目されているのがChargers。ここにはNegative Contract Fateの比率が高く、なおかつキャッシュが20ミリオンを超えるWRが2人もいる。Chargersはそもそも2024年のキャップヒットがキャップスペースを20ミリオン以上上回っている5チームの中の1つであり、Herbertとの大型契約も考えるとどこかでキャップ調整を強いられる可能性は高い。他の4チーム(Bills、Dolphins、Browns、Saints)に属する選手たちも、それだけ環境的には大変だと言えるだろう。
 もちろん、こちらでも選手個々の能力などは考慮に入れていない。だからAaron Donaldのような規格外の選手をここに入れていいのかという問題は当然ある。それでも全体的な傾向を見るうえでは参考になるだろう。というわけでキャッシュにNegative Fateの確率をかけた数値をチームごとにまとめると、30ミリオンを超えるチームが11ある。中でも突出して多いのがJaguars(59.4ミリオン)で、それに続くのがBuccaneers(50.1ミリオン)、Broncos(43.2ミリオン)、Steelers(42.0ミリオン)あたりだ。他のメンツを見るとずっとキャップ問題に苦労しているSaints(38.1ミリオン)や、昨シーズンのSuper Bowlに出たChiefs(37.1ミリオン)とEagles(36.8ミリオン)なども顔を出している。
 こうした数字はあくまで参考値にしかならないし、上にも書いた通り個々の選手の能力は反映していないため、これらのチームが揃って同じ状況にあるとは言えない。それでもチーム再建に取り組んでいるJaguarsにとっては今年が勝負の年らしいというのは見えてくるし、6年連続負け越しの後にこの状態になっているBroncosはここまでのチーム作りに何か問題があったのではないかと推測したくなる。それも含めていろいろと考える材料になりそうなデータではある。

 そういえば、そのBroncosの新HCであるSean Paytonが前HCのHackettをディスり、それに対してJetsのOCとなっているHackettが反論するという動きがあった。選手間でのディスり合いは正直珍しくないが、コーチングスタッフがやるのはあまり聞いたことがない。昔に比べてコーチをクビにするサイクルが短期化している印象はあるが、そのせいでコーチ側もあまり余裕がなくなってきているのかもしれない。
スポンサーサイト



コメント

非公開コメント