Herbert契約延長

 NFLではキャンプが始まったのと合わせるように、さらにいくつかの大型契約の話が出てきている。まずはリーグ最高額をもらうことになったHerbert。Chargersは彼と5年262.5ミリオンの契約を結んだそうで、年平均52.5ミリオンという金額はこれまで年平均で最高額だったJacksonを0.5ミリオン上回った。2020年ドラフト組の中ではHurtsに次ぐ契約延長、ということになる。
 当然ながらFitzgeraldが早速この契約に関するエントリー、Breaking Down the Justin Herbert $262.5 Million Contract Extensionをアップしている。Herbertにとってこの契約の最大の強みは、かなりの大金を前倒しで得られる点にあるそうだ。彼への支払額を見ると延長初年度となる2025シーズンには100ミリオンの達するのだが、この数値は過去80ミリオンが最高額だったそうで、つまり途中で契約を打ち切られるとしてもそれまでに十分な報酬を手に入れられるわけだ。
 実際にHerbertの契約Jacksonの契約を比べてみよう。契約延長初年度からの累計支払額を年ごとに並べると両者の数字は以下のようになる。

Herbert 100m 124m 160m 212m 262.5m
Jackson 80m 112.5m 156m 208m 260m

 見ての通り、時間とともに両者の差は縮まり、3年目以降はあまり差のない数字になる。つまり3年目以降までチームに残ってプレイを続ける場合はどちらの契約も大した違いはないのだが、それ以前に解雇されるような場合にはHerbertの方がより大きな金額をゲットできる計算だ。その代わりにChargersはより大きなキャップヒットを計上することになるわけで、単なる年平均額ではわからない微妙な損得がそれぞれに存在しているという。
 とはいえ一般に注目されるのは年平均額。それもあってFitzgeraldはQBの契約市場全体への影響についても言及している。QBも含めてNFLのスターターたちの契約は直前の最高額を参考にしながら形作られている。一流の選手たちなら最高額を上回る契約を目指すのが当たり前なのだが、その最高額の基準となる年平均額がこのところ少しずつしか上昇してないし、今回も上がらなかった。この流れがどうなるかは次の注目対象であるBurrowの契約次第なんだろう。
 ただしFitzgeraldによると、Herbertの契約があまり最高額を引き上げなかった理由には「契約があと2年残っていた」点もあるそうだ。Jacksonのようにギリギリまで引っ張るのではなく、前倒しで契約するからその分だけ割り引かせろ、ということかもしれない。もしBurrowが今シーズン開始前に延長する場合は同じ条件になるため、その分だけ上昇幅は絞られる可能性がある。Fitzgeraldは年平均だと53ミリオンから53.5ミリオンあたりを予想している。
 またこれでHurtsとやたら急いで契約延長したEaglesの方が結果的にうまく立ち回ったように見えることとなった。彼が契約延長初年度に手に入れる金額は60ミリオンとさらに安くなる。5年目の累計額は255ミリオンとそう変わらないのだが、早めにクビになった場合にはEaglesの方が傷が浅くて済む、という理屈だ。おまけにEaglesは大量のvoid yearを使ってキャップヒットを後ろ倒しにしているため、序盤の負担はさらに下がる。もちろん途中で解雇した際にはそれだけデッドマネーが膨らむことにはなるのだが。
 もう一つ、Eaglesが本当にうまくやったかどうかを判断するうえでは、HurtsとHerbertのフィールドにおける成績も勘案しなければならない。彼らがプロ入りして以降の3年間、Herbertは0.142の、Hurtsは0.129のQB EPA/Pをそれぞれ記録している。そんなに差はないようにも見えるが、プレイ回数がHerbert(2259)に比べてHurts(1305)はずっと少ない点には注意が必要だろう。要するにHurtsの方が今後の成績が上下にぶれるリスクが大きいわけで、実際の評価はそのあたりも含めて考える必要がある。
 ちなみに彼らより上の成績でまだ契約延長が決まっていないのはBurrow(0.162)のみ。後は下にTagovailoa(0.120)がいるが、この数字と怪我のリスクを考えた時、彼がQB契約最高額を変えるような延長をすぐに勝ち取るかどうかは不明だ。彼については5年目オプションが既に行使されているため、来年のオフに契約延長を行う時間的余裕もまだある。今シーズンの成績を見てからの可能性も踏まえておいた方がいいんだろう。
 2021年以降のドラフトQBたちの契約延長話が出てくるのは早くて来年から。と言ってもQB EPAで見る限り、食指の動くようなQBはいない。現状ではJonesが0.056、Lawrenceが0.050にとどまり、Fields(-0.052)とWilson(-0.123)はそもそも延長すべきかどうかもよくわからない、というかWilsonの延長はよほどのことが起きない限りあり得ないだろう。QB豊作と言われた2021年より、今のところは2020年のドラフトの方がよほど充実していると言える。
 なおそのWilsonの首筋を涼しくしているRodgersも契約の見直しを行った。トレード後の時点でJetsが彼に保証している金額は110ミリオンに達していたが、これを75ミリオンまで引き下げる2年契約をしたのだ。報道を踏まえてOverTheCapに載った新たな契約を見ると、今年のキャップヒットは9ミリオン弱、来年も17ミリオン強と、チームの負荷はかなり減る。しかも2年プレイした後ならカットしてもデッドマネー49ミリオンと普通に契約を続ける場合(51.5ミリオン)より負担が下がることになっている。
 RodgersのトレードについてはJetsがPackersとのチキンレースに敗れたとの評価が一般的だった。Fitzgeraldが言っていた通り、事実上の1年レンタルだと考えるならあまりにもばかげた投資額になってしまうのがその理由。だが今回の見直しによって、1年の場合はともかく2年プレイした後の解雇なら総額75ミリオンほどの投資で済む計算になる。Daniel Jonesより安くCarrと同水準なのだから、引退間近のベテランに払う金額としてそれほど常識外れではなくなっているだろう。Fitzgeraldは「Jetsにとって素晴らしい取引」と褒めたたえている。
 もちろんトレードで失うことになるドラフト権は2年しかプレイしない選手に対しては払いすぎなのは間違いない。またRodgersの年齢を考えると、そもそも彼が全盛期のような活躍をできるかどうかわからない点も重要だ。というかそれこそがこのトレード及び契約見直しが妥当であったかどうかを評価する唯一の基準と言ってもいい。彼のQB EPA/Pは2020~21シーズンは超一流の数字だったが、昨シーズンは急激に低下して0.053と並みかそれ以下のQBレベルに落ち込んでいる。今年40歳になるRodgersがかつてのレベルの活躍をできるのか、それとももうタンクにガソリンは残っていないのか、それ次第ということだ。
 昔書いたことがあるが、大半のQBは39歳になると急激に成績を落とす。最近になってBradyとBrees、あるいは39歳でいい成績を残したRiversといった例外が出てきたおかげで何となくQBのキャリアが長くなっている印象があるが、一方でPeyton Manningはやはり39歳のシーズンに成績を急落させて引退に追い込まれたし、Roethlisbergerはそれ以前から成績が低迷してやはり39歳のシーズン終了後に引退した。RodgersがBradyらの側になるのか、それともManning側になるのか、そのあたりを現時点で見通すのはまだ無理がある。ここも今シーズンの注目点と言えるだろう。

 あとはキャンプがらみのニュースなのだが、上でも紹介した「次の大型契約」として注目されているBurrowが、何とカートで運び出されるようなけがを負った。どうやらふくらはぎの捻挫らしく、数週間は様子を見ることになるらしい。まだキャンプも始まったばかりで、レギュラーシーズンまでには1ヶ月半ほどあることを踏まえるなら現時点でそれほど心配する必要はないかもしれないが、ファンやチームにとってはそうも言えないだろう。
 Burrowがチームにとっての救世主であることは否定できない。1年目こそ低い成績だったが、足元では2年連続でカンファレンスのチャンピオンシップ以上までチームを引っ張ってきているわけで、得点を見てもその原動力となっているのがオフェンスであるのは間違いないだろう。Burrowに万が一のことがあればせっかくここまでチーム力を高めてきた取り組みが無駄になりかねない。契約延長もさることながらまずは健康を祈っている関係者が多いことだろう。
 あとはBelichickのクビが涼しくなっているのではないかという記事が出ていた。NBAのPopovichが契約延長を勝ち取った事例と比較しての話だが、個人的にはあり得なくはないと思う。さすがに昨シーズンのOCの選び方はオーナーの不信を招いても仕方ないほど意味不明だった。ただ現時点でチーム内に後継者がいるかどうかは不明。以前ならMcDanielsがいたが、今だとMayoあたりの名前が挙がっている。ただしプレイコールはSteve Belichickが出しているそうで、そろそろこのあたりも気にした方がいいのかもしれない。まあ今年の成績を見てからだろうが。
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