不条理サラリー

 トレーニングキャンプ開始を前にしてNFLではいくつかの契約話が出てきている。その中で改めて印象付けられるのがRBの受難だ。
 例えばBengalsのMixonはチームとの間で「契約リストラ」に合意したと報じられている。本来2023シーズンのキャッシュ(支払額)は10.1ミリオン、キャップヒットは12.8ミリオン弱となっていたが、今回の契約見直しでベースサラリーから4.39ミリオンが差し引かれたそうで、それだけ支払いとキャップヒットも減ると考えていいだろう。
 さらに2024シーズンのベースサラリーも4.67ミリオンカットされるそうで、こちらのベースサラリーは約5ミリオンにまで減る計算。2年間のキャップヒットは25.9ミリオンから16.9ミリオン強まで下がる。Mixon自身はこの見直しで先発RBの地位を保つことができるようだが、リーグ全体で言うならこの2シーズン、キャップヒット10ミリオン超のRBがこれで1人減ってそれぞれ5人と4人になるわけで、まさにRBのマーケットはぎゅうぎゅうと絞られている状態にある。
 今回の報道についてOverTheCapのFitzgeraldは「リストラという言葉は間違った使い方だ」と言っている。実のところ一般的な用語としては別に間違ってはいないと思うが、NFLの契約関連では確かにこれは誤解を招く。NFLの場合、リストラとはすなわちベースサラリーなどをサイニングボーナスに変更する、という意味であり、つまり契約額トータルは変わらないし、一般的には選手との合意は必要ない。しかし今回の契約はそうではなく、Mixonが契約額の引き下げに合意したという意味だ。Korteは「再交渉」という言葉がいいのではないかと述べている。
 Mixonが再交渉を通じて契約額の引き下げに合意したのは、単純に彼との契約がチームにとって割に合わなくなってきたからだ。2020年のシーズン開始直前に4年48ミリオンの契約延長を締結した彼は、現時点でRBの中ではリーグ5位の高給取りであり、リーグで1桁しかいない年平均10ミリオン超のサラリーをもらっているエリートRBだ。しかし彼は契約延長後の3年間、レギュラーシーズン50試合のうち36試合にしか出場できず、シーズン1000ヤード超のランを記録したのは1シーズンのみにとどまった。
 EPAで見るとさらに数字は冴えなくなる。BengalsのランプレイのシーズンEPAを見ると、過去3年間に最も大きなマイナスを記録したトップ4のうち3つをMixonが占めている。もちろんランのEPAは基本的にマイナスのケースが多く、だからエースRBであるMixonにマイナスが積み重なるのは仕方ないのだが、それでも3年間に500キャリー以上を記録したRBたちの中で、MixonのEPA/Pはリーグ全体で下から数えて4番手(-0.104)にあるのは、うれしくない数字だろう。もちろんこの数字は彼だけでなくOLやプレイコールにもかなりの責任があるはずだが、リーグ内でも高額のサラリーをもらっているRBにふさわしい数字とは言えない。

 実のところ、RBの大型契約はその大半が失敗に終わっているのが実情だ。例えばMixonと同じく2020シーズンの前に4年64ミリオンという驚愕の契約を結んだMcCaffreyは、2年で10試合しかゲームに出場できず、2022シーズンの前に49ersにトレードされた。同じ2020シーズンに5年75ミリオンの契約延長をしたKamaraは1年間丸ごとプレイできず、その後はフィールドに戻ってきたもののランの平均獲得ヤードは以前より大幅に低下している。
 今や生き残っているほぼ唯一の馬車馬RBとなっているHenryが4年50ミリオンの契約を結んだのも2020年。彼は同年に2000ヤードのランを達成し、翌年は1000ヤードにとどかなかったものの、2022シーズンは再び1500ヤードを走るなど、上記の面々よりは活躍している。ただしEPA/Pで見ると-0.009とわずかながら水面下に沈んでいるのは事実。加えてTitans自体も再建モードに入っているのではないかとの声があり、Henryのトレードの可能性について言及している例もある。
 サラリー上位陣で期待に応える活躍をしていると言えるのは、2021年に3年36.6ミリオンの契約延長をしたChubbくらいだろう。彼は直近2年間に連続して1000ヤード以上走り、しかも1キャリー平均で5ヤード以上の数字を出している。直近3年間のEPA/P+0.034は、500キャリー以上しているRBたちの中では文句なしで最高の数字だ。もちろんこれもまたOLやプレイコールのおかげという面が多々あるはずだが、それでも期待に応える数字なのは確か。OTC Valuationでも13ミリオンと、キャップヒットを上回る数字を残している。
 問題は、こうした期待外れの大型契約RBたちの中で、McCaffrey以外はもっと前の「大物RB」たちより実質的に安い金額しかもらっていない点だ。そのあたりが分かるのがFitzgeraldのThoughts on Saquon Barkley’s Contract Situationというエントリー。McCaffreyの他にElliott、Gurley、Johnsonを含めた一昔前の高額RBと、Kamara、Henry、Chubb、Mixon、Jonesを並べた足元の高額RBたちの契約を分析した表が載っている。
 見ての通り、少し前のRBたちは1年目にキャッシュで平均25ミリオン近くをもらっており、その数字は4年目には60ミリオンちょっとまで増えている。それに対し、現在のRBたちがもらうキャッシュは1年目で15ミリオン強。4年経過してもその数字は50ミリオンにとどかない計算だ。一昔前のRBたちがこの契約を結んだのは2018~2020年、それに対して今のRBたちの契約は2020~2021年に締結されたもので、ちょうどコロナショックのあたりを境にRBのサラリーが容赦なく見直されたことがわかる。
 右肩上がりで増え続けてきたキャップがCovid-19のため2021シーズンにいったん落ち込むという現象が起きたことも、こうしたサラリーの見直しが進んだ理由の1つだろうが、もちろんそれだけで説明はつかない。むしろQBのサラリーは2020年から急騰に転じているわけで、RBのサラリーが相対的のみならず絶対的にも減少に転じたのは、そのあたりでRBというポジションに対する評価がほぼ固まってきたからと考えるのがいいだろう。そう、RBs don't matterという概念が大半のチームに根付いたのが、この頃だと思われる。
 おそらく2010年代末にかけて高額のサラリーを手に入れたRBたちが軒並み振るわない状態に終わったことが、実際に失敗したチームだけでなく他チームも含めて「手痛い教訓」になったのではなかろうか。上に書いたMcCaffreyの他にJohnsonは契約途上でトレードされ、ElliottとGurleyはキャップへの負担を分ける目的で6月1日以降に解雇された。現在もどこかのチームに所属しているのはMcCaffreyだけだ。RBはもとからキャリアの短いポジションとして知られているが、特に新たな労使協定以降を見ると、ルーキー契約に続く契約が終わるまで持ちこたえることすら難しい様子がうかがえる。

 で、そうした状況を踏まえてFitzgeraldが上記エントリー内で分析しているのがGiantsのBarkleyに関する指摘だ。彼についてはチームによるフランチャイズタグに不満を抱いており、レギュラーシーズンゲームをホールドアウトする可能性に言及していると伝えられているのだが、それに対しFitzgeraldは意味がないと否定的な見解を示している。実のところホールドアウトしてもチームにとってマイナスはほとんどないし、それに1年間プレイせずに押し通しても来年FAになれるわけではない。単にプレイしないことに対する罰金を科されるだけで、金銭的にも将来的にもメリットはない、という理屈だ。
 Barkleyの不満もわからなくはない。彼は足元の労使契約に含まれる奇妙なルール(5年目オプション)のせいで4年目よりも5年目の方が低いサラリーになってしまっている。さらに今年はフランチャイズタグという、これまた彼本人の意思とは無関係なところで金額を決められてしまったわけで、Barkleyが不満を抱くのは当然だろう。5年目オプションという変なルールではなく、チーム都合で契約を延長するときは前年より20%上乗せするというルールがあれば、彼の今年の契約額は14ミリオン強となっていたはずで、それなら彼も納得したかもしれない。でも現実はそうではない。
 実はBarkleyはチームが提案した2年26ミリオンの契約を拒否したと伝えられている。この金額は上に紹介した「一昔前」のRBたちに比べれば低いものの、足元の高額RBたちを見るとおよそ市場価格通りの数字だ。おそらくBarkleyにとって現状で最善の選択は、この提案を受け入れることだったんだろう。もちろんそれでも不満が残る可能性はある(期間2年は短すぎるなど)が、現状を見ると致し方ない選択に見える。
 とはいえBarkleyを巡る状況が彼の目から見ればかなり不条理に見えるのは間違いない。彼自身が選んだわけでもないルールのせいでこうした理不尽を味わった結果、彼がやけくそになっているとしても個人的には同情する。RBの受難についてはこれまでもいろいろと触れてきたが、足元サラリー関連で彼らほどシュールな状況にさらされている例は他になかなかないと思う。
スポンサーサイト



コメント

非公開コメント