リストラ効果

 そういえば6月はほとんどNFLについて取り上げなかった。基本的に1年で最もニュースのない月と言われているし、実際にニュースらしいニュースも見当たらない。かつてであればPro-Football-Referenceのデータをひっくり返して古い時代がどうなっていたかを調べるといった暇つぶしの方法もあったんだが、Stadheadの導入以来、利用するのに登録が必要になったので面倒なのでやっていない。EPAを使ったデータ分析にはこちらこちらが多少は使えるものの、遡れるのが1999シーズンまでなので、いろいろと限度がある。
 オフに積極的に更新をかけてくれるのがOverTheCapなのだが、彼らもまた6月は休暇モードのようだ。たまにPodcastをやる以外には淡々と契約データを更新しているだけ。その中で先日、久しぶりに契約データを使った分析がアップされていたので今回はそれを取り上げるとしよう。Restructuring NFL Contractsというやつだ。
 題名の通り、取り上げているのは契約のリストラ。NFLにおけるリストラは、ベースサラリーなどをサイニングボーナスに変えることを指しており、基本的にチームの都合で実行できるものだ。というのも選手にとってはシーズン中に毎週もらうことになっている金額を前倒しでボーナスとしてもらえるだけの変更なので、それで損することはない。一方、チームにとってはボーナスにすることでサラリーヒットを数年間に分けて計上するのが認められるため、目先のキャップスペースを空けたい場合にちょくちょく使われる。
 OverTheCapはRestructure Potentialというページを作っており、各チームがどのくらいリストラでキャップスペースを確保できるかについてデータで示している。中にはほとんど余地のないチームもある(現時点だとEaglesなど)が、大半のチームでは単純なリストラで10ミリオン以上のキャップスペースを空けることは可能。さらに選手の同意が必要だが、契約延長やVoid yearを使うリストラまで行えばチームによっては70ミリオン以上のスペースを作れるところもある。
 といってもリストラにはデメリットもある。やっていることはキャップヒットの先送りであるため、現時点でスペースに余裕があるチームがわざわざ先送りをする意味はあまりない。むしろ将来においてチームのキャップマネジメントがより苦しくなるだけだ。というわけで分析を見ても、1年前にプレイオフに出たチームの方がそうでないチームよりもリストラでスペースを空ける度合いが高い。現時点でcontenderとなっているチームにとっては、足元どれだけチームを強化できるかが問われるため、少しでもスペースを空けて選手を強化できる余地を残すのが正しい。
 一方、プレイオフに出ていないチームではそこまで積極的でない結果が出ている(ただしキャップ問題のために成績と無関係にリストラを強いられているSaintsという特殊事例の影響があるそうだ)。今年すぐプレイオフに出なければならないほど追い詰められているGMがいるチームならともかく、数年は余裕を見てもらえるチームの場合、むしろ戦力が整うであろう年にスペースに余裕を持たせられるよう、目先はリストラを避ける可能性はある。
 プレイオフチームの場合、リストラでスペースを空ければ空けるほど再びプレイオフに出られる可能性が高まるといった傾向がみられる。逆にプレイオフに出られなかったチームの場合、むしろ控えめにリストラする方がプレイオフの確率が高く出ているのは面白いところ。長期的な影響を見ると極端なリストラをしたプレイオフチームは成績が大きく下がる一方、非プレイオフチームの場合はある程度のリストラをした方が成績が良くなっている。後者はおそらく実力がついてきたチームがリストラ込みで戦力強化を図っている、という動きを反映したものだろう。また、当たり前だがリストラを派手にやったチームほど翌年のデッドマネーが膨らみがちだ。
 一番最後に直近3年間にリストラで開けたスペースと勝率との関係が分布図で示されている(除く1チーム)。全体として右肩上がり、つまり足元の成績がいいチームほどリストラが多いという傾向はみられるが、それほど相関係数は高そうにない。上にも述べた通り、むしろチームの現在の実力に合わせてリストラをする、しないが決まる傾向が強いため、リストラに積極的だから強くなるといった因果関係まであると考えるのは無理だろう。なお特殊事例とされているSaintsを加えた分布図はこちら。まさにoutlier(外れ値)だ。
 なおOverTheCapでは選手をキャップヒット別に分類し、各チームがどのくらいエリート頼りか、あるいはそうでない選手に頼っているかを示すページもある。ただ、現時点ではまだデータが揃っていないのか、あちこちの数字がゼロのまま。最近は少数のエリート(特にQB)と、多数のルーキーに依存したチーム作りが多いのだが、どのチームがその傾向が強くどこかそれほどでもないかなど、このページを見て確認するのも面白いだろう。

 続いて前にもちょっと触れたUSFLの話をしよう。彼らは現地7月1日にChampionship Gameを行い、2年連続でそのシーズンを終えた。米国ではちょくちょくNFLの対抗リーグが登場するのだが、2年連続でシーズンを終えたリーグといえば、2009年から2012シーズンまで存在したUnited Football League以来かもしれない。なお現状プロリーグにどのようなものがあるかについてはこちらに載っている。
 前にも触れた通り、USFLはXFLよりさらに地区間格差が大きなリーグになった。XFLは何だかんだ言って結局両地区に勝ち越しと負け越しチームが存在していたが、USFLは北地区が全チーム負け越しとなったのに対し、南地区には負け越しチームがない。得失点差の格差はさらにひどく、南地区の2チーム(StallionsとBreakers)を除くと全チームがマイナスとなっている。前に計算した「地区単位の得失点差÷試合数」は最終的に10.8となり、こちらもXFLより差がついた。
 Championshipには各地区の1位だったMaulersとStallionsが、それぞれ2位だったチームを破って進出。結果は南地区のStallionsがダブルスコア以上の差をつけて勝利した。そもそもシーズン負け越しのMaulersと勝率が最も高いStallionsでは後者が圧倒的に有利だったのは間違いないが、下馬評通りの結果。XFLのようにあれよあれよと負け越しチームが優勝してしまうアップセット展開は、こちらでは起きなかった。
 さらに各チームのANY/Aについて計算した結果が以下の通り。左からチーム名、オフェンスANY/A、ディフェンスANY/A、両者の差となっており、*はプレイオフ進出チームだ。

Stallions 7.79 5.57 +2.22 *
Breakers 6.03 4.63 +1.40 *
Generals 6.16 5.22 +0.93
Maulers 4.27 4.22 +0.05 *
Showboats 4.51 5.07 -0.56
Stars 5.38 5.99 -0.61
Panthers 4.69 5.98 -1.29 *
Gamblers 4.75 6.77 -2.01

 見ての通り、勝率トップのStallionsはANY/Aで見てもリーグ最強だった。南地区は上位2チームと真ん中付近、そして一番下に位置している。Gamblersがこの数字で勝率5割を達成しているのは驚きという他にないのだが、RBのMark Thompsonが14TDとリーグ最多のTDを記録したことが効いたのかもしれない。彼は1キャリー平均で4.85ヤード、TD率10.4%というかなりふざけた数字を残している。基本的にランプレイはゲームの勝敗にあまり影響を及ぼさないのだが、試合数が少ないとこういうケースも起こるのだろう。
 一方の北地区ではリーグ最下位(3勝7敗)のGeneralsがANY/Aで見ると実は地区で一番強いチームだったということになっている。1ドライブ以内の成績を見ると1勝4敗と圧倒的にツキに見放されていた恰好。逆にそれ以外の3チームは4勝6敗という成績も仕方ないと思える数字で、むしろPanthersはよくこれで4勝もしてプレイオフまでたどり着けた、とほめてもいいかもしれない。残念ながら地区優勝決定戦では負けているのだが、OTまで持ち込んだのだから期待以上というべきか。
 なおXFLと違ってUSFLにはあまり名の知られたQBがいないのが特徴。すぐに目についた選手としてはかつてGiantsでちょっとだけプレイしたことがあるKyle LaulettaがGeneralsに参加していたが、正直それほど活躍した様子はない。今シーズンのUSFLで圧倒的にいい成績を収めたQBといえばStallionsのMcGoughなのだが、彼はNFLのプラクティススクワッドにはいたものの公式戦ではプレイしていない。おそらくXFLの方が選手集めに金をたくさん使ったのだろうと思われるが、それも含め複数の春季リーグが存在するのはやはり厳しいんじゃないかと思わされた。
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