終末インタビュー

 Truchinの新著に合わせて彼のインタビュー記事があちこちに掲載されるようになっているが、これがなかなか興味深い。インタビュアーがどういうスタンスで質問をしているか、何を語らせようとしているかが、記事ごとに結構違っているのだ。おそらく彼の見解がそれなりに広まり、賛否を含めいろいろな意見を持つ人が増えてきたために、そうしたインタビュアーごとの特徴が出てくるようになったのだろう。要するに彼も有名になった、ということだと思う(上から目線)。
 例えば一般読者向けにTurchinの考えを分かりやすく紹介することを目的としているインタビューが、Welcome to the "End Times": Peter Turchin saw this coming — and says we can still prevent collapseだ。以前、Ages of Discordのレビューを書いた同じ筆者のインタビューだけに、Turchinの主張の要点をきちんと踏まえ(構造的人口動態理論を最初に唱えたのがGoldstoneである点なども触れている)、読者にできるだけ誤解なく伝えようとしている。
 まず冒頭に、Turchinの名を高めた2010年のNature誌に載せた予測から話を始め、Turchinの研究の進め方(数学モデルを構築してデータと比較する)を紹介。モデルのキモがエリートと普通の市民、国家という3者間の関係にあることを説明するよう促している。さらに4種類のエリートにも触れるなど、まさに流れるような問答が展開されるあたり、わかっている者同士の阿吽の呼吸すら感じさせる、とても親切なインタビューだ。
 もちろん寄り道的な質問もある。1つはアラブの春とそれに関連するエジプトの権力闘争について説明を求めている部分であり、またそこからの連想で欧州の直近500年について話を振っている部分などは、インタビュアーがオリジナリティを出そうとしている部分だろうか。エジプトのムバラク政権崩壊についてTurchinは軍が支配するエジプト政治においてムバラクが軍と関係のない自分の息子に後を継がせようとしたために軍部がムバラクから離れ、彼の政権が攻撃を受けるのを座視したと指摘している。一方、欧州では軍事紛争がずっと続いた結果として軍エリートはむしろ没落してしまったと記している。産業革命によって経済が重要性を増し、また軍の規模が大きくなったためにより幅広い層が力を持つようになったというのがTurchinの解釈で、つまり軍事革命的な観点だろう。
 また米国の独自性についても触れている。1つは地理的に孤立した国家であるために常備軍の必要性が乏しく、軍事エリートの地位が政治や経済エリートより低いこと。もう1つは移民国家ゆえに労働者が連携しにくく、それだけ金権政治による支配が強いという点だ。それを踏まえたうえでインタビュアーは米国の「不和の時代」史について、さらにはトランプについて聞いているが、このあたりはこれまでも繰り返されてきた話なので目新しさはあまりない。
 インタビュアーのツイートもTurchinの議論の基本を紹介するものにとどまっている。入門編的なインタビューだと思う。

 それに比べてアクの強いインタビューが英国人によるIs another American revolution inevitable?という記事。まず最初に2023年の米国は1987年のソ連と似ているのではないかという、ロシア系アメリカ人に対するビーンボールみたいな質問から入り、その後もとにかく変化球だらけの質問を投げつけている。ただそれぞれに質問にTurchinがそれなりに中身のある返答をしているあたり、こういうインタビューも意味があるのだろう。
 Turchinはソ連崩壊前に反政府的行動を取っていたのは工学系の卒業生だが、本当に危険なのは法律系(つまり弁護士)だと述べ、実際に極右民兵組織であるOath Keepersにはイェール・ロースクール出身者がいると指摘している。次に自身の議論はマルクスやヴェーバー、デュルケーム、マルサスなど様々な先達の見解を取り入れたものだと指摘。歴史がサイクルを描くという主張はポリュビオスと同じじゃないかというこれまた意地の悪い質問には、数学モデルとデータの話で反論している。
 次にその理論からどうやってオリジナリティのある対策を引っ張り出せばいいのかという、これまた意地の悪い質問がある。Turchinはエンジニアリングの問題を考えるように対処しなければならず、簡単にはいかないと返答をしているが、このあたりは率直に話している分だけ切れ味は悪い。続いて彼は大衆の困窮化とエリート過剰生産の話をするのだが、弁護士の話をしたとたんにインタビュアーが「弁護士に気をつけろ」「英国には弁護士が多すぎる」とまぜっかえしており、Turchinの話が中断されていたりする。
 かと思うとTurchinの本がシリコンバレーで人気だというところから経済エリートたちが構造的人口動態理論をどう見ているかという話に展開するなど、なかなか興味深い部分もある。Turchinはシリコンバレーの友人が自分の理論をどう見ているかについて言及しており、「彼らは私の結論を好んでないようだ」と話している。どうやら個人的に「終末」が自分に訪れるのを避けるための戦略を探る手段としてTurchinの本を読んでいるようだ。
 もう1つ面白いのはいきなりAIの話が出てくる部分だ。AIは統合をもたらすのか、それともホワイトカラーの仕事を奪うことで解体トレンドを加速するのか。Turchinは実際に仕事を奪われるリスクのある職種としては弁護士も考えられると返答。ただでさえ数が余っている弁護士はさらに余剰となり、彼らは相当に動揺すると見られる。「そして彼らはとても頭がいい。人脈を持ち、野心家で、組織づくりがうまい」。だからこれは災厄へのレシピだ、というのがTurchinの返答である。もちろん使い方次第で変わる話だし、機械を相手に競争するより機械と一緒に競争するような仕組みを作るべき、とも述べている。
 今後の米国政治については悲観的だ。トランプを抑えれば十分だと思っている人もいるようだが、そんなことはない。政治家たちには問題を解決する能力はあるが、そもそも足元の問題そのものに気づいていない。Turchinが先行きのヤバさに気づいてからの15年ほどは「巨石が自分に向けて転がってくるホラー映画のようだった」。避ける余地はなく、今や石がまさにぶつかろうとしている……とまあ、なかなかシュールな回答がオチとなっている。

 次はTurchinの見解に必ずしも同意してはいない人物がインタビューをしたPeter Turchin Wants to Avoid Political Disintegration。インタビュアーのスタンスがはっきりと出ているやり取りになっているのだが、上に紹介したインタビューのように変化球ではなく真正面から直球勝負をしているのが特徴だ。
 インタビュアーはTurchinの予想が悲観すぎると見ており、本の題名にあるような「終末」が来るとは思えないと問いをぶつけている。それに対してTurchinは、危機へと至る道筋は似ているが、その解決法は非常に幅広いという「銀杏モデル」の説明をしており、自分は決して崩壊論者ではないと述べている。またエリート過剰生産について、エリート志望者が増える一方で過去に存在しなかった官僚組織や産業なども生まれているのではとの質問に対し、Turchinは政治以外の分野でも競争は激しくなっていると指摘している(こちらでも地方都市という切り口で述べている例があった)。
 だが質問者は食い下がっている。新たなスタートアップは次々と生まれているし、また民主主義は寡頭制よりも広い範囲で権力を分担することになり、それだけエリートが増える余地があるのではないかという考えだ。それに対しTurchinは、民主主義や資本主義がより強靭な制度を作る可能性は認めつつも、1850年の米国も民主的制度を採用していたが破綻が避けられなかったと指摘している。このあたりはインタビュアーの言い分にも一理あると思える。
 面白いのは続いて人口動態に切り込んだところ。少子高齢化が進む社会ではエリート過剰生産も変わるのではないかとの指摘だ。確かに子供が減ればユースバルジが縮小して社会政治的不安定性を高める圧力も下がる。だが一方で高齢者がいつまでも権力を握り(現在の各国首脳の年齢を見れば一目瞭然)、それはむしろマイナスの影響を及ぼす。トータルとして少子高齢化がエリート内紛争にどう影響を及ぼすかについては簡単には断言できないようだ。
 そしてこのインタビューで最も重要なのは、エリート過剰生産を止めるために「お前らは大衆に属しているんだから権力者や権威ある立場に移動しようとしてはならない」と告げるべきか否か、という問いだ。私自身も前に書いたことがあるが、こういった対応は「反民主的に思える」というインタビュアーの指摘はまさにその通り。過剰生産の抑制は(戦前のNFLで起きたように)既存の秩序を温存し、社会をより階層的にさせるための口実に使われる懸念がある。
 これに対しTurchinは、自分が勤めていた大学では学生の4分の3が困窮しないための資格を求めるためだけに大学に来ていたと指摘。wealth pumpによる富の吸い上げが止まれば、大衆のままでいても困窮せずに済むためエリート志望者自体を減らせるのではないかと述べている。また生産性を高めることで社会がサポートできる新たな職業も生み出せる、とTurchinは述べている。その方法で「資格と結びつかない教育」職種を作り上げるのは善ではないか、というのが彼の結論だ。
 インタビュアーはこの返答に感心していたが、個人的には前半は納得、後半は疑問だと思う。前者はエリートの過当競争を抑制する効果はあると思う。しかし後者は社会全体の成長を支えるイノベーションが尽きてくるに従い、条件達成は困難になる。学者であるTurchinが「知は善」と述べる気持ちはわかるが、実際には役に立たない学問は時とともに消え去るだろう。説得力は半々といったところだ。

 他にもこちらにはインタビュー動画がアップされている。Ages of Discord出版時には知る人ぞ知る状態だったが、あれから7年経過して本当に彼が有名になった様子がうかがえる。
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