前回はウクライナ戦争との関連から米国における分断の現状に触れたが、実際問題としてそういう内容の報道が増えていることも紹介しておこう。特に共和党内が一段とトランプ派に乗っ取られつつあるとの報道がちょくちょく出てきている。例えば
「アメリカ共和党 トランプ支持者が地方で“下克上”?」という記事では、ペンシルベニア州で若いトランプ支持者が支部の委員選挙でベテランを追い落として過半数を占めたという話が紹介されている。
それによると運動の中心になったのは20歳の「トランプ氏によって目を覚ました若者」で、選挙の不正を疑って地元で調査を始めたところ、協力的でない地元の共和党支部にいる「20年、30年も支部の役職についている人」に不満を抱くようになったそうだ。かくしてこの若者は「60人以上の仲間とともに立候補」することになったわけだが、そもそも前回選挙時点で選挙権すら持っていなかった者たちが草の根レベルで共和党のエスタブリッシュメントを覆しつつあるのはなかなかシュールな光景である。
続いて
「トランプ派に“乗っ取られる”共和党」という記事ではミシガン州の事例が取り上げられている。こちらもペンシルベニア同様、共和党と民主党が票を取り合っている州だ。ここでは郡委員会の委員を選ぶ選挙で共和党の現職が大量に落選し、代わりにトランプ支持派の政治団体から支援を受けた新人が多数派を占めるようになったという。
この政治団体は新型コロナの感染対策への不満から結成されたそうだが、異なる意見を排除する姿勢を持っているのが特徴だそうで、記事中でインタビューを受けている共和党穏健派の人物はその姿勢に疑問を感じて団体から距離を取ったという。結果、彼は「極右勢力に乗っ取られた」共和党支部から会合への参加も拒否されたそうで、こちらでもまた右派と左派の間ではなく、右派の内部における主導権争いが酷くなっている様子がうかがえる。
さらに郡委員会で多数派となったこの政治団体は行政方針をあっさり変えていった。住民の問題に対処するといった役割が中心だったはずの地方自治体の行政が、いきなり政局に巻き込まれた格好だ。NPO法人は状況に不安を覚えているし、当初は政治団体の指示を受けて当選した委員の中にもやり方に違和感を覚え、「『自分たちと100%足並みがそろわない』からといって、相手を排除するのは勝利をおさめるための戦略ではない」との批判が出てきている。
こうやって既存政党の乗っ取りや内部での分断が進むと何が起きるのか。「第3の選択肢」の模索だ。ミシガンでは共和党・民主党を問わずトランプ派と対立するグループをまとめて候補者を擁立しようとしているそうだが、彼らは地方だけでなく大統領選でも同様の動きを求めているという。と言われて思い出すのは、南北戦争前に米国内で多数の政党が乱立した件。分断が二大政党の間だけでなく社会のあらゆるところに亀裂を作り出しているこの光景は、おそらくかつての「不和の時代」である19世紀米国でも見られたのではなかろうか。
まず最初の質問への回答に
CrisisDBが出てきているので、やはりこの取り組みを本の中で紹介しているのは確かなようだ。それを踏まえて最初はエリート過剰生産やエリート志望者(エリートワナビーとも書いている)について説明し、さらにワット・タイラーの乱を紹介しつつエリートの助けのない、つまり組織化されていない反乱には大した力はないことを説明している。
続いて文中に出てくる「寡頭制の鉄の掟」としてwealth pump(富を吸い上げるポンプ)について話をしている。エリートは自らの権力を自身の利益に変換する強力な誘惑にさらされ、そして彼らを止めるものがなければ実際にそうしてしまうという話で、最近ではサッチャーとレーガンの時代に実際にそうしたポンプが働き始めたそうだ。だがそのうえでTurchinは、自分は「崩壊論者ではない」と断り、過去の例を見ても10~15%ほど大問題にならずに事態が解決された例があると述べている。
続いて、End Timesの中で紹介しているジェーンという架空のキャラクターに言及。左派の「お目覚め」系の人物で、当初は活動家として行動しているが、やがて米国ではもっと合法的なやり方の方が効果的であることに気づくという造形らしい。「私はロシア人であり、だからボルシェビキのようなものは米国では可能ではないと言うことができる」とTurchinは主張している。実際、1970年代に活動した左派グループは人々の支持を得られなかった。
だがTurchinは別に「お目覚め」系のような左派のみについて本の中で言及しているわけではないようだ。それどころか共和党が革命党になる道を歩んでいると述べているそうだし、またタッカー・カールソンをルパート・マードックが解雇したことについても話をしている(自分の利益しか考えないマードックだが、彼の友人たちである金持ちたちがカールソンにうんざりしていたのではないかというのがTurchinの見立てだ)。さらに米国民のうち90%は通過した法案に影響を与えていなかったとの研究結果も紹介。すべてを動かしているのは国民の1%に過ぎず、だから米国は「金権政治」なのだと指摘している。
だが金権政治であっても大衆のための政治を彼らに強いることは可能だ。1890年代に選挙に影響を与えたポピュリスト党の存在や、第一次大戦後のソ連及びボルシェビキ革命への恐れが、そうした政治をもたらした背景にあった、というのがTurchinの考え。そのうえでエリート自身は複雑で大規模な社会には必要な存在であり、エリートの管理者としての仕事と、富や権力の蓄積とを切り離すことは可能だとしている。階層自体をなくすのは現実的ではない、というあたりもこれまで彼が述べてきた通りだ。
というわけでEnd Timesについてのいろいろな情報があった。ただし以前気になった点として挙げた
「永年サイクルが100年」という話がどこから出てきたかは引き続き不明のまま。少なくともこのインタビューでTurchinは「社会がいい時期を過ごす期間」が平均して1世紀かそこいらの長さと述べてはいるものの、「それから解体の時期」が来ると話しているため、サイクル全体が1世紀という主張はしていないように思える。もしかしたらそういう「統合トレンドが1世紀」という部分を誤読した読者が結構いたのかもしれない。
ちなみにEnd Timesなのだが、電子書籍はともかく紙の本を買おうとすると手元に届くのは7月中旬になってしまいそうだ。もちろん現物を米国から運んでくる必要があるためで、逆に言うとこの本が以前購入した
枢軸時代本と違ってオンデマンド印刷でないことが分かる。一応、米国の大手出版社が出す本だから最初から在庫を作る目的で多数の本を印刷しているのだろうが、結果的に外国からは購入に余計な時間がかかることになるあたりは皮肉というか何というか。いやまあ普通に電子書籍を買えばいいじゃないかと言われればそれまでなのだが。
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