まず最初の引用元はシンガーの書いたFamine, Affluence, and Moralityというやつで、脚注によるとその259ページがシンガーの黙示的差別意識を示しているらしい、んだけど、上のリンク先を見てもらうとわかる通りシンガーの文章は引用元の229ページから243ページまでしかない。259ページはその次の筆者が書いているThe Marxian Critique of Justiceの範疇に入ってきてしまうのだが、そこに差別意識を示す文言があるとしてもシンガーとは関係ない。ただし一つの可能性として、数字のフォント(例えば3を5)を見間違えた、もしくは文章にする際に書き間違えたという可能性はあると思う。
もう1つ興味深いのは永年サイクルの期間について100年と述べている部分で、同じ表現はこちらの書評にも入っていた。Ages of Discordを読んだ限り150年周期とかなら理屈に合うのだが、100年という数字はどこから出てきたのだろうか。以前、遊牧民については1世紀という永年サイクルがあると説明していたので、それと関係しているのかもしれない。またEnd Timesの中では一夫多妻なら一夫一妻より短いサイクルになるという説明もしているようで、そこから100年というサイクルが出てきた可能性もある。
最後にThe Timesに載っているEnd Times by Peter Turchin review: we’re in a mess, blame the eliteという書評もあるが、ここでははっきりwokeness(お目覚め系)の台頭が「文化エリートが古い伝統主義者を貶めるために使う武器」だと書いている。これまでも紹介してきたように、先進国で起きている分断の背景にエリート過剰生産とエリート内紛争があるというTurchinの理屈が正しいのなら、当然そうした結論も出てくるだろう。前半に紹介した出典ロンダリングや空引用に精を出している面々も、アカデミアの世界におけるエリート志望者=対抗エリートだと考えれば、そうした悪質な手法がエリート内紛争のための手段であると推定できる。
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