NFLドラフト2023 上

 2023年のNFLドラフトは初日が終了。全体としてそれほど派手な動きはなかったように思えるが、個人的にちょっと意外だったのは4人指名と言われていたQBが3人指名にとどまったこと。CommandersやBuccaneersあたりが4人目を指名するんじゃないかと思っていたが、どちらもあっさりスルー。Lamar Jacksonの時のように1巡指名しておけば後で5年目オプションが使えるという判断からEaglesやChiefsあたりにトレードダウンを持ちかけるチームが出てくるかもと思ったもののそれもなく、最後は淡々と終わった。
 この日のトレードで目立ったのはTexansがCardinalsを相手にトレードアップし、全体2位と3位を立て続けに指名したあたりだろう。Texansは今年の12位と33位、来年の1巡と3巡を渡し、Cardinalsから全体3位と105位を手に入れている。こちらのツイートを見ても分かるが、伝統的なJohnsonやHillのチャートで見てもTexansは支払いすぎ(1巡上位なみの追加価値を手放している)であり、今年のディフェンストップの選手を手に入れるためとはいえやりすぎなように見える。
 確かに昨シーズンのTexansはオフェンスがリーグ最弱(EPA/Pは-0.168)だったし、2位指名でそこの穴埋めを図ってStroudを指名したのは当然の判断。一方、ディフェンスはリーグ18位(+0.010)とさしてよくも悪くもない。パスディフェンスだけに限ればほぼリーグ平均値であり、PRWRはリーグ14位と真ん中の少し上になる。パスカバーはいいのにパスラッシュがそれほどでもないからそこを強化するという考えなのかもしれないが、そもそもローテで回すのが当たり前のDLについて1人のスター選手に多すぎる投資をするのは妥当なんだろうか、という疑問が浮かぶ。
 一方、Cardinalsはその後でLionsに12位、38位、168位を渡して代わりに6位と81位を手に入れていた。こちらもトレードアップした方がマイナスなのは同じだが、Cardinalsが手放したのは4~5巡あたりだそうで、最初のトレードで儲けた分を考えるなら十分に許容範囲だろう。10位と11位でOTが指名されたのを見ても、Cardinalsはそれより上でOTを指名したかったのかもしれない。ただ、Lionsではなくもう少し下のチームと交渉する手もあったかもしれない。
 次はEaglesが10位と来年の4巡を付けて9位のBearsとトレード。彼らはここと、さらに30位の指名で立て続けにGeorgia大のディフェンスを指名している。昨年も同大のディフェンスを2人指名しており、ほとんどPhiladelphia Bulldogs状態だ。ただESPNのbig boardを見る限りどちらも見事にstealを決めており、相変わらずRosemanキレキレやなといった感じ。来年の4巡1つでこれだけの成果を上げたのだとしたら、現時点までは成功と考えられそうだ。
 次にSteelersが17位と120位を出してPatriotsから14位をゲット。古いJohnsonやHillのチャートだとSteelersが得したことになるが、アナリティクス関連のチャートはやはりトレードダウンした方が得となっている。ただしこちらも差額は4~5巡で、それほど気にするものではないだろう。ただトレードダウンの結果Patriotsはトップ10入ると言われていた選手を17位で指名できたので、これもまたstealと言えるかもしれない。
 この日の残るトレードは2つ。まずGiantsが25位、160位、240位を出してJaguarsの24位を手に入れ、次にBillsが27位と130位を出してやはりJaguarsから25位を手に入れた。Jaguarsは3つの追加指名権を手に入れたわけで、その点はプラスだったと言える。ただ実際に指名した選手を見るとこの3チームの中では1巡中位で指名されると見られていたTEを指名できたBillsが現時点では最も上手く立ち回った格好。もちろんこの指名が本当に当たりかどうかはまだ分からないが、こちらもstealと呼べそうだ。
 逆に一番批判を浴びていたのがLions。彼らは2つ指名権を持っていたのだが、うち12位で指名したのがRBであり、こんなに上位でRBを指名することともっと後でも指名できたであろう点が指摘されていた。さらに彼らは18位でILBまで指名20年前のドラフトかよとツッコミを受けていた。実際、今の時代にRBやILBを1巡で指名するのはかなり珍しい事態であり、big boardでは全体2位という評価を受けていたRobinsonですら実際に指名されたのは8位にとどまったし、それですら批判の対象になっていた。どんなに優れた選手であってもRBというポジションにいる限り、チームにもたらす付加価値は限定されてしまうのだろう。
 そして1巡候補と見られながら、結局初日はどこにも声をかけられなかったWill Levis。さすがに2巡のどこかでQB不足のチームから指名されるだろうとは思うが、思ったより人気がなかったのはちょっと驚き。前にこちらで紹介したQBRのランキングでは上位と見られていたQBたちの中でも最も低く、そのあたりが敬遠されたのかもしれない。YoungとStroudは事前予想通りの順番だったし、ColtsがRichardsonを指名したのはおそらく素材重視だったんだろう。
 今年のドラフトは昨年よりQBが豊作だったとは思うが、1巡で5人指名された2021年には結局及ばなかった。もちろん5人指名されたから豊作というわけでもなく、例えば同じく5人指名された2018年のうち指名チームで先発を続けているのは2人だけだし、同じく5人指名された2021年のうち2人は既に先発の座を失ったかもしくは失いかけている。本当にドラフトが大当たりかどうかは、せめて4年は見ないと判断できない。

 で、その5人指名された年に1巡ラストで滑り込んだJacksonが、ようやくRavensとの契約延長にこぎつけた。金額は5年260ミリオン(1年52ミリオン)で、想定通りHurtsの金額(1年51ミリオン)をちょっと上回ってきた。うち保証額は185ミリオンで、こちらもHurtsを少し上回っているが、彼がnon-exclusiveタグで32.4ミリオンを実質保証されていたのを考えるならそれほど大きな上乗せではなさそうだ。
 素人的な感想にすぎないが、今回の交渉はRavensの粘り勝ちに見える。non-exclusiveということで他チームの介入も起こり得る状態での交渉になったが、その代わり金額を抑制することができた。現実問題としてJacksonの交渉相手になり得るチームとして考えられそうだったのはJetsがRodgersを手に入れ損ねた場合くらいだと思っていたが、それもなくなり、これ以上踏ん張ったところでJacksonにとってプラスにつながる可能性は低かったと思われる。
 MVPを取った選手ではあるが、年ごとの成績のブレが大きいことや、2019年をピークにそれ以降はQB EPA/Pが低下し続けていることなど、彼と長期契約を結ぶうえでチームにとって懸念がないわけではない。そう考えるとRavens以外がなかなか手を伸ばそうとしなかったのは理解できるし、高値づかみのリスクがあっても飛びつこうとするチームがなければ交渉はRavensの有利になる。長々ともめるよりもドラフト前にさっさとスターターの地位を確保してしまえ、という考えもあるだろう。
 もちろん、この契約を具体的に評価するためにはもっと詳しい内容を見ないといけない。一見するとリーズナブルに見えても実はそうではない、あるいはその逆といった契約だってあり得なくはないだろう。中身を見たうえで手の平を返す必要に迫られる可能性は十分ある。
 というか手の平を返した方がよさそうに思えるのがHurtsの契約だ。前に紹介した時は前向きな点を主に述べたが、最近になってOverTheCapが記したThoughts on Jalen Hurts’ $255 Million Contract with the Eaglesを読むと、正直かなり印象が違った。当初思っていたよりもRosemanはかなり大きなリスクを取りに行ったように見える。
 Hurtsの契約はMahomesの契約などでもあったが、途中で追加的にボーナスを付け加える方式を取っている。こちらのHistoryを見れば分かるのだが、後からボーナスを追加することでHurtsのキャップヒットは2032年まで分割計上されることになっている。ところが一方で彼の契約は2029年以降は全部void yearになっており、つまりこのまま契約が終わればこの年に自動的に多額のデッドマネーが計上されることになる。
 実際にはその年だけでなく、それ以前でも早々に解雇した場合にはとんでもないデッドマネーが発生するのがこの契約だ。何しろ2027年までは解雇即ち100ミリオン超のデッドマネーがサラリーキャップにのしかかる計算となっている。かろうじて2028年は100ミリオンを割り込むものの、それでも93.7ミリオンというとんでもない金額になる。2年に分けて計上しても2028年が35.8ミリオン、2029年が57.8ミリオンという数字になる。
 Eaglesの2023年のキャップはトータル236ミリオンほど。2027年までにこの数字が300ミリオンを軽々と超える可能性はあまりない。つまりHurtsをカットしなければならない場合、サラリーキャップの3分の1超がいない選手のデッドマネーによって食いつぶされるわけだ。いやまあ今年のデッドマネーも54.7ミリオンとそれなりの金額になっているんだけど、それすらかすむほどの派手な数字を計上することになる。実際にはそんなことは無理だろうという理屈から、その場合はRamsがGoffにドラフト権を付けてトレードに出したように、Eaglesもドラフト権をおまけにつけてどこかにこのキャップヒットを吸収してもらうことになるんじゃないかとFitzgeraldは推測している。しかもこの契約にはトレード禁止条項まで含まれているため、Hurtsに納得してもらうために追加の支払いが必要になる可能性もある。
 この契約はEaglesにとっては確かに1年あたりのサラリー額がさらに高騰する前に契約できたというメリットがあるが、一方で多大なリスクを負ったのも事実。その分、Hurtsにとっては自身の収入と先発QBという身分が保証された契約になる。その意味でHurts側が喜んで契約したのは分かりやすいが、ではなぜRosemanはこれほどリスキーな契約を結んだのか。
 考えられるとしたら、この契約によって今後4年間はかなり安く、その次の2年もリーズナブルなキャップヒットでHurtsを使えることが狙いなのだと思う。2022シーズン並みの活躍をこのキャップヒットで続けてくれるのなら、残る資金で他のポジションを強化することにより、リーグでも屈指の強さを誇るチームを作れる、かもしれない。少なくともこの期間中、彼のキャップヒットはほとんどの年でMahomesより低くなっており、つまりChiefsより余分な資金を他のポジションに投入できるわけだ。
 Rosemanはおそらくこの期間中にChiefsに勝てるチームを作るためのギャンブルに出たのではないか、というのが私の個人的な想像だ。もしHurtsがリーグ上位にコンスタントに顔を出すくらいの成績を残せるのなら、Mahomesには勝てないとしてもチーム全体としてChiefsよりその力を高めることはできるかもしれない。そうなれば期間限定ではあるが、Chiefsより強いチームとして毎年Super Bowlを争うことができる、はずだ。
 もちろんそのためにはHurtsがMahomesに届かないまでも、彼に近い水準のQBである必要がある。Rosemanはそうである可能性に賭けてギャンブルをしたわけだが、この見立てが間違っていればこのギャンブルは派手なバックファイアに見舞われるのは間違いない。しかしギャンブルをせず、年ごとにもっと均等にキャップヒットを分配していれば、Chiefsを上回るチームは作れない可能性が高い。だからリスクを承知のうえで敢えてこういった無茶な契約を結んだ、とは考えられないだろうか。
 想像にすぎないが、だとしたらあれだけやかましいファン層を持つチームでこういう乾坤一擲のギャンブルができるあたり、Rosemanの度胸については認めざるを得ない。ただし賭けが当たるかどうかは神のみぞ知る。さてどうなるだろうか。
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